(1)4月17日、日露の両外務省は同月末に予定されていた岸田文雄・外相の訪露を延期する、と発表した。
(a)日本の新聞を読んでいると、米国が岸田外相訪露を中止せよと要請し、その圧力に日本が屈した、という印象を受ける。
<外務省関係者によると、外相のロシア訪問について米国が日本側に難色を示したため、日ロ間で協議。28日からの訪ロをいったん延期し、日程を再調整することで合意したという。>【注1】
<岸田外相の訪ロは昨年11月の日ロ外相会談で合意し、ロシアでのG8外相会合に合わせて行う予定だった。だがロシアを除くG7首脳がボイコットを決定。「クリミア併合後、7でロシアに行って会談した国はなく、日本だけが突出すれば日米関係が悪化しかねない」(外務省関係者)との懸念があった。>【注2】
(2)新聞報道は実態から若干ずれる。
最終的に「このタイミングで岸田外相を受け入れることは適当でないので、延期したい」と申し出たのはロシア外務省だ。
安倍晋三・首相の指導で、日本側は最後まで岸田外相の訪露の可能性を探っていた。米国が、岸田外相の訪露を中止せよ、と強く圧力をかけてきたのは事実だ。しかし、首相官邸では、ハイレベルでの日露対話を継続することが、ウクライナ危機の沈静化に寄与する、と判断した。
(3)クレムリンの内情に通じたロシア人いわく、
(a)岸田外相が訪露を延期したのは賢明な判断だ。ウクライナ問題に関して、米国の情報収集は一面的で、分析も不完全だ。米国が岸田外相の訪露を望んでいない状況で、日本が無理をする必要はない。ロシアも、日本にとって米国が唯一の軍事同盟国であることはよくわかっている。日米同盟という条件下で、日本政府はロシアとの関係についてよく頑張っている、と思う。
(b)いずれにせよ、5月25日のウクライナ大統領選挙の結果が出るまでは情勢が流動的だ。ロシアと日本が腰を据えて交渉する環境にはならない。
(c)ウクライナ問題について、日本がG7と協調姿勢を採らなくてはならないことは、外交ゲームとしては当然のことだ。ロシアは、日本の対露非難、制裁決定が常に米国、EUの後に行われていることに注目している。この順番が崩れないかぎり、クレムリンの対日観が悪化することはない。
(4)プーチン大統領は考えた。オバマ米大統領の訪日を前にして、安倍首相と日本の外務省が、米国と露国との板挟みになってストレスを抱え込むことは、露国にとって得策でないと。
プーチン大統領/クレムリンは、「日本は、米国・EUの間の調停者となり得る重要な国家だ」という認識を抱いている。安倍政権の対露独自外交は、北方領土問題を解決するための環境整備になっている。
今秋のプーチン訪日が予定どおり実施されたら、北方領土問題で意外な展開が起こる、ということもあるかもしれない。
【注1】【注2】記事「岸田外相の訪ロ、延期し再調整へ 日米関係に配慮」(朝日新聞デジタル 2014年4月18日)
□佐藤優「訪露延期 ロシアは日本をどう見ているか ~佐藤優の人間観察 第65回~」(「週刊現代」2014年5月10.17日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
(a)日本の新聞を読んでいると、米国が岸田外相訪露を中止せよと要請し、その圧力に日本が屈した、という印象を受ける。
<外務省関係者によると、外相のロシア訪問について米国が日本側に難色を示したため、日ロ間で協議。28日からの訪ロをいったん延期し、日程を再調整することで合意したという。>【注1】
<岸田外相の訪ロは昨年11月の日ロ外相会談で合意し、ロシアでのG8外相会合に合わせて行う予定だった。だがロシアを除くG7首脳がボイコットを決定。「クリミア併合後、7でロシアに行って会談した国はなく、日本だけが突出すれば日米関係が悪化しかねない」(外務省関係者)との懸念があった。>【注2】
(2)新聞報道は実態から若干ずれる。
最終的に「このタイミングで岸田外相を受け入れることは適当でないので、延期したい」と申し出たのはロシア外務省だ。
安倍晋三・首相の指導で、日本側は最後まで岸田外相の訪露の可能性を探っていた。米国が、岸田外相の訪露を中止せよ、と強く圧力をかけてきたのは事実だ。しかし、首相官邸では、ハイレベルでの日露対話を継続することが、ウクライナ危機の沈静化に寄与する、と判断した。
(3)クレムリンの内情に通じたロシア人いわく、
(a)岸田外相が訪露を延期したのは賢明な判断だ。ウクライナ問題に関して、米国の情報収集は一面的で、分析も不完全だ。米国が岸田外相の訪露を望んでいない状況で、日本が無理をする必要はない。ロシアも、日本にとって米国が唯一の軍事同盟国であることはよくわかっている。日米同盟という条件下で、日本政府はロシアとの関係についてよく頑張っている、と思う。
(b)いずれにせよ、5月25日のウクライナ大統領選挙の結果が出るまでは情勢が流動的だ。ロシアと日本が腰を据えて交渉する環境にはならない。
(c)ウクライナ問題について、日本がG7と協調姿勢を採らなくてはならないことは、外交ゲームとしては当然のことだ。ロシアは、日本の対露非難、制裁決定が常に米国、EUの後に行われていることに注目している。この順番が崩れないかぎり、クレムリンの対日観が悪化することはない。
(4)プーチン大統領は考えた。オバマ米大統領の訪日を前にして、安倍首相と日本の外務省が、米国と露国との板挟みになってストレスを抱え込むことは、露国にとって得策でないと。
プーチン大統領/クレムリンは、「日本は、米国・EUの間の調停者となり得る重要な国家だ」という認識を抱いている。安倍政権の対露独自外交は、北方領土問題を解決するための環境整備になっている。
今秋のプーチン訪日が予定どおり実施されたら、北方領土問題で意外な展開が起こる、ということもあるかもしれない。
【注1】【注2】記事「岸田外相の訪ロ、延期し再調整へ 日米関係に配慮」(朝日新聞デジタル 2014年4月18日)
□佐藤優「訪露延期 ロシアは日本をどう見ているか ~佐藤優の人間観察 第65回~」(「週刊現代」2014年5月10.17日号)
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【参考】
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」