語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】「添加物なし=安全」ではない、「無添加」表示の意味 ~食の安全~

2016年08月03日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)スーパーに並ぶ味噌や総菜などで頻繁に目にする「無添加」の表示。
 外食産業でも「無添加」を高らかにうたうチェーンもある。
 何が添加していないのか。安全上の効果はあるのか。

 (2)保存料について、
  (a)合成保存料の代表は、
   ①「ソルビン酸」
   ②「ソルビン酸カリウム」(水に溶けやすい性質を持つ)
で、主な目的は腐敗の原因となる細菌やカビの繁殖を抑制すること。かまぼこ、ハム、漬物などに利用され、世界で最も使用されている。
  (b)天然由来の保存料は、サケ科またはニシン科の白子から抽出された「白子タンパク」で、味に影響が出にくいことから和洋菓子や蒸し麺などに使われる。

 (3)(2)のような保存料を使っていない場合、「保存料無添加」と表示される。だが、その代わりに静菌効果を求めて使用されるのはpH調整剤や酸味料、調味料などとして一括表示される添加物。酢酸ナトリウムやグリシン、リゾチームなどがある。
 保存料よりこれらの添加物は安全なのか。
 静菌目的に複数の違う添加物を組み合わせれば、結果的に添加物の量も多くなる。少量の保存料のほうが、安全面でもコスト面でもよいとも言える。
 そもそも保存料がないほうが安全というのは間違いだ。今、食中毒で死者が出る食品の多くは、生もの。添加物で微生物をコントロールできず、究極の危険が存在する。ADIによって適性な量しか使えない添加物で静菌された食品のほうが安全性が高いと言えるかもしれない。

 (4)ほかによく見かけるのが「合成着色料無添加」。
 これを既存添加物の天然着色料にしたところで、安全性が向上することはない。
 無添加でも自然食品でも無農薬でも、食文化の選択肢が多いのはよいこと。しかし、消費者の好みの問題に過ぎないことを、安全性と錯誤させるのは問題だ。

□大平誠(編集部)「(コラム)保存料は無添加でも調整剤 添加物なし=安全ではない ~食の安全~」(「AERA」2016年7月25日号)
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 【参考】
【食】添加物を怖がりすぎない ~食の安全~
【食】糖質制限で筋肉が低下/やせるメリット&死亡率上昇リスク ~食の安全~ 
【食】甘いが低カロリー、偏食に要注意 ~果物~
【食】1日3杯までなら死亡リスクを低下させる ~コーヒー善玉説~
【食】トランス脂肪酸は10年前の10分の1 ~マーガリン~
【食】グルテンの中毒性、仮説を明確に否定 ~パンやうどん~
【食】野菜は水にさらし、炒めるより蒸す ~アクリルアミド~
【食】毎日ハム5枚は多すぎ、気にすべきは量 ~亜硝酸ナトリウム~

【食】添加物を怖がりすぎない ~食の安全~

2016年08月03日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)食品添加物は、すべて厚生労働省のホームページで確認できる。
  (a)指定添加物449品目・・・・食品衛生法第10条に基づき厚生労働大臣が指定。日本で食品食品に加えることができるのは、これだけ。天然由来もあれば化学合成添加物もあるが、いずれも厳しい実験を繰り返し、基準量以下なら有害な影響が出ないことが確認されている。用途は、保存、強化、乳化、着色、殺菌、漂白、増粘安定など。これらの目的は、日本食品添加物協会によれば、
   ①保存料(ソルビン酸など)・・・・カビや細菌などの発育を抑制し、食品の保存性をよくすること。
   ②増粘安定剤(ペクチンなど)・・・・食品に滑らかな感じや粘り気を与え、分離を防止して安定性を向上させる。

  (b)既存添加物365品目・・・・(a)のほか、広く使用され、長い食経験があるものは例外的に使用、販売が認められている。すべて天然由来。
   ①粗製海水塩化マグネシウム(にがり)
   ②最近健康食品ではやりのグルコサミンやヒアルロン酸
   ③バニラなど動植物から得られる天然香料
   ④果汁や寒天などの一般飲食物添加物

 (2)天然由来だから安全というわけではない。
 そもそも1995年の食品衛生法改正で、国は添加物の概念をより安全な側へ舵を切り、それまでの「合成」と「天然」から、「安全」と「食経験」に分類を見直した。科学的に安全性を確認した化学的合成添加物をベースに、法改正以降は新たに申請される化合添加物と天然由来添加物も(1)-(a)の「指定」の範疇に加えた。
 申請には数多くの毒性やアレルゲンの試験が求められ、内閣府食品安全委員会が審査して、1日許容摂取量(ADI:Acceptable Daily Intake)などが決められる。改正の結果、当初489品目だった(1)-(b)の既存添加物からは、発癌性が認められたアカネ色素など124品目が削除された。
 一方、(1)-(a)の指定添加物のADIは、実験動物に毒性の影響を与えない量(最大無毒性量)に安全係数100分の1をかけて求め、そのADIを十分下回るように基準使用量が設定されている。ADIは、毎日一生摂り続けても健康への影響がないと推定される量だ。厚労省が2002年度、(1)-(a)の指定添加物の甘味料アスパルテームを日本人がどれだけ摂取しているかを調査したところ、ADIの0.29%だった。他の添加物についても概ねADIの1%以下で、多いものでも数%にとどまった。

 (3)(2)のように厳格に管理されている食品添加物だが、かつてはこんな事件もあった。
 1955年に発覚した森永ヒ素ミルク中毒事件では、森永乳業製の粉ミルクに使用された乳質安定剤に、不純物としてヒ素が混入。乳児に重大な健康障害が発生し、最終的に死者は130人以上、被害者は1万人を超えた。この乳質安定剤は、産業廃棄物から再生した第二リン酸ソーダで安全性も確認されていない「毒」であり、現代の食品添加物とは似て非なるものだ。

 (4)添加物の「複合摂取」が危険だ、という意見もある。厚労省が安全性を確認しているのは個別の添加物についてであって、複数の添加物の同時摂取については実験されていないから、危険性は食べる人自身が引き受けるしかないという主張だ。
 これに対して添加物を複合摂取しても有害な影響はない、とする意見もある。指定添加物であれば使用目的どおりに使えばもんだいはないと。組み合わせた場合の安全性がはっきりしないのは、添加物よりむしろ食品そのもの。食品は摂取重量が添加物と比べてはるかに大きいし、食品の組成には謎が多い。グレープフルーツや納豆など、相互作用して薬の効果に悪影響が出ることが確認されているものもあるので、食べないよう医師から指導される食品もある。

 (5)人口甘味料のサッカリンは、かつて発癌性の疑いがあると主張されたが、その後安全性が再確認されている。このような例があるので、消費者の中には「添加物はやはり発癌性リスクがあるのではないか」と心配になる人も多い。
 これには実験の精度の問題もある。発癌性をみる長期の実験が可能になったのは、ネズミを長期飼育できる技術が整った1960年代。そこで初めて添加物の毒性を調べたが、当時は実験も手探りで、現在は最大投与量が餌の5%としている添加物を、大量投与した場合もあったという。
 そういう初期の実験で発癌性が指摘され、危険なイメージがついたケースがある。2011年の食品安全委員会のリスク評価では、ラットの試験で見られた発癌性はヒトにあてはまらない、としている。

 (6)健康被害とまでいかなくても、添加物を多く含むお菓子類を食べて、舌がピリピリするなど、味覚に異変を感じる人もいる。
 添加物は、日本人の味覚と価値観を破壊した。その結果、「塩分」「油分」「糖分」を過剰摂取するようになったのが問題だ。特に子どものうちからコンビニ弁当、ファストフード、スナック菓子などをおいしいと感じるようになってしまうと、野菜や天然だしなど食物本来のおいしさがわからなくなう。子どもの肥満や生活習慣病の予備軍が問題になっているが、これらも添加物と無縁ではあるまい。

 (7)添加物で舌の味覚受容体が破壊されることはない。添加物の問題というより、味の濃いものがよくないのは当然。特に子どものうちは刺激物は摂らないほうがいい。日本は減塩対策が遅れていて、食事量の多い米国人より塩の摂取量が多い。

 (8)添加物を気にするあまり食に偏りが出ることのほうが問題だ。
 <例>多忙な人には便利なカット野菜。カットした後、食中毒予防のため殺菌剤で洗ってあるが、このほとんど残留しない殺菌剤を嫌ってカット野菜を使わない人もいる。
 安全性には何の問題もない。元々野菜には菌がいっぱいいて、そのままにしておくと腐る。安全性を確保しつつ便利に使えるよう添加物を使っているのに、それを嫌って栄養価の高い野菜の摂取自体を避けるほうがリスクが高い。

 (9)添加物を嫌がる心理の背景に、「天然だからよくて化合物は悪」という考え方があるらしい。
 しかし、例えば鉄分の補給が必要な妊婦や子どもに、玄米菜食を推奨し、伝統的食材のヒジキを毎日食べるよう勧める人がいるが、ヒジキは発癌性のある無機ヒ素が多いので販売が禁じられている国もある。食物繊維が豊富な玄米も、白米より無機ヒ素が多いため子どもには勧められない。
 添加物については、何よりもイメージに踊らされない知識が必要だ。

□大平誠(編集部)「添加物を怖がりすぎない 舌ピリピリの正体は? ~食の安全~」(「AERA」2016年7月25日号)
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 【参考】
【食】糖質制限で筋肉が低下/やせるメリット&死亡率上昇リスク ~食の安全~ 
【食】甘いが低カロリー、偏食に要注意 ~果物~
【食】1日3杯までなら死亡リスクを低下させる ~コーヒー善玉説~
【食】トランス脂肪酸は10年前の10分の1 ~マーガリン~
【食】グルテンの中毒性、仮説を明確に否定 ~パンやうどん~
【食】野菜は水にさらし、炒めるより蒸す ~アクリルアミド~
【食】毎日ハム5枚は多すぎ、気にすべきは量 ~亜硝酸ナトリウム~