語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】豆腐でない豆腐、添加物たっぷり ~目にも涼やかな枝豆豆腐~

2016年08月09日 | 医療・保健・福祉・介護
  《甲》紀文「枝豆とうふ」
  《乙》三和豆水庵「豆乳仕込み枝豆野郎」
  《丙》むつみ「濃密冷やっこ枝豆」

 (1)夏に定番の「ビールに枝豆」は、非常に理に適った食べ合わせだ。
 枝豆には、アルコールを分解促進するビタミンB1やC、肝臓機能を高めるコリンが含まれている。だから、飲酒による二日酔いや悪酔い予防に効果がある。
 そのせいか、夏が近づいてくると、スーパーの豆腐棚には枝豆豆腐が多く登場する。

 (2)豆腐は、大豆の熱水可溶性成分(豆乳)にタンパク質凝固剤(にがりなど)を加えて作る代表的な大豆加工食品だ。
 にがりは伝統的に使用されてきた添加物で、豆腐は無添加では作れない食品だ。 
 だから、豆腐の必須原材料は大豆とにがりの二つだ。枝豆豆腐には枝豆も必須原材料となる。
 だが、《甲》には、タンパク質凝固剤が使用されていない。寒天が豆腐状に固め、ゲル化剤が豆腐独特の食感を出している。《甲》の商品名は「枝豆とうふ」となっているが、実は名称【注】は「そうざい」なのだ。
 だから、タンパク質凝固剤が使用されていなくても何ら問題はないが、豆腐と誤解する人もいる。

 (3)《甲》のゲル化剤として使われる増粘多糖類は一括表示の添加物で、使用可能な成分には安全性の高いものから危険性の高いものまであり、どの成分がどれくらい使用されているかわからない。不安要素が大きい添加物だ。
 食品の変色や変質を防止するpH調整剤も増粘多糖類と同様、一括名表示の添加物のため、安全性が担保されていない添加物だ。

 (4)《甲》《乙》《丙》に共通して使用されている添加物は、着色料のクチナシ色素だ。クチナシ色素は、クチナシ(アカネ科)の果実から抽出される天然の着色料で、生成方法によって黄・青・赤の3色を得る。
 黄色素は、クチナシの果実から得られたクロシンおよびクロセチンが主成分。
 青色素・赤色素は、クチナシの果実からイリドイド配糖体を抽出し、酵素処理などで分離して作られる。
 古来着色として使用されているクチナシ色素だが、黄色素は下痢や肝臓への影響、青色素はアルテミア・サリーナ(1億年前から変化していないとされる小型の甲殻類)に対する死亡率が高いという報告もあり、安全性については再検討が必要との指摘がある。
 現に長く認可されていたアカネ色素が遺伝子変異や発癌性への影響がわかり、使用禁止された事例(2004年)を鑑みると、今後クチナシ色素への安全性評価が変わっていくことは十分可能性がある。
 また、表示が「着色料(クチナシ)」「クチナシ色素」となっているため、3種類(黄・青・赤)のうちどの色素が使用されているか不明内な点も消費者には不安だ。

 (5)栄養価に優れた豆腐だが、嗜好でさまざまな味を追求していくと、どうしても添加物を多く使用することになる。食品のヴァリエーションが増えることは、食生活を豊かにしてくれるが、半面、不必要な添加物を摂取してしまうことにつながる。

 【注】加工食品の表示に係る定め・・・・加工食品品質表示基準(制定:平成12年3月31日農林水産省告示第513号/最終改正:平成24年6月11日消費者庁告示第5号)によれば、
(加工食品の義務表示事項)
第3条 加工食品の品質に関し、製造業者、加工包装業者、輸入業者又は販売業が加工食品の容器又は包装に表示すべき事項は、次のとおりとする。(中略)
 (1)名称
 (2)原材料名
 (3)内容量
 (4)賞味期限
 (5)保存方法
 (6)製造業者等の氏名又は名称及び住所
(加工食品の表示の方法)
第4条 前条第1項第1号から第6号までに掲げる事項〈中略〉の表示に際しては、製造業者等は、次の各号に規定するところによらなければならない。
 (1)名称
 その内容を表す一般的な名称を記載すること。(後略)

□沢木みずほ「目にも涼やかな枝豆豆腐 中には何が入っていますか?」(「週刊金曜日」2016年7月15日号)
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 【参考】
【食】「水素水」ブーム便乗商品に気をつけろ ~効果は疑問~
【食】炭酸水の飲み方には気をつけたい ~糖類や食品添加物~
【保健】「新世代エコ洗剤」は本当にエコか ~AESの悪影響~
【食】明太子やたらこも癌リスクを高める ~亜硝酸Na、タール系色素~
【食】「加工肉」の危険性に改めて目を向ける ~発癌性~
【食】一部の「有機ワイン」に入っている添加物 ~亜硫酸塩~
【食】「トクホのノンアルコールビール」 ~その危険性~
【食】新しい「コカ・コーラ」は体にやさしいか ~買ってはいけない~
【食】買ってもいいインスタント食品
【食】「高級インスタントラーメン」に含まれる食品添加物
【食】お手軽「流水麺」の落とし穴

【メディア】批評by神保太郎 ~参院選後--メディアは国民をどこに誘うのか~

2016年08月09日 | 批評・思想
 (1)桝添要一・東京都知事の辞任騒動には真剣に検討すべき問題がいくらでもあった。ところが、マスコミの騒ぎ方は、舛添知事の「罪状」を好き放題暴き立て、そのセコさを嘲笑する空気を醸し出すばかりで、おまけに辞任が決まると、後任知事は民進党・連坊か自民党・小池か丸川かといった騒ぎ。寄席の色物を扱うようなノリで一騒ぎし始めた。
 このような狂騒状態は、なぜ生じるのか。ネットの中では「視聴率がとれた」と実情を伝えるテレビ界の声が紹介されていたが、週刊誌での大きな扱いを見れば、そうした事情は新聞・雑誌にも共通するものだと推測できた。
 似たようなメディアの劣化は、米国の大統領選報道にも窺える。新聞・テレビは、トランプ共和党大統領候補を、どぎつい悪役に見立てて大きく報じてきた。批判も当然交えているが、彼を登場させるテレビの視聴率は高く、新聞・雑誌の売れゆきもよく、彼に喝采を送る大衆が増えていった。ゲイ・ナイトクラブ銃撃事件(フロリダ州オーランド)も政治的に利用、ごく一部を除くムスリムの入国禁止まで大っぴらに唱えた。

 (2)マスメディアは今、産業的、経営的に未曾有の苦境に立っている。その深刻さの度合いは、今後さらに急速に進んでいく。だからといって、できるだけたくさんの人に見させて、買って読んでもらえばいいということで番組や誌面をつくり、視聴者・読者に送り放しにしてすませられるものではあるまい。上記のような事案についても、そこに潜むクリティカルな問題点を的確に剔抉、その克服の方向を指し示し、市民としての読者・視聴者が自ら解決に努めるのを助けるべく、責任を負うべき政治、政党、企業など関係者への仮借ない批判を明らかにしていくことこそ、ジャーナリズムを担うものの責務だろう。
 世界的な歴史状況の変化のなか、どの国でも誰もが経験したことのない出来事にぶつかり、メディアもいろいろと変調をきたしているのが実情だ。しかし、日米欧を比較して眺めるとき、日本の混迷ぶりが特に酷い。
 米国は、トランプ氏に引っ掻き回される情けないマスコミの姿だけであく、格差社会に反対する若者など多くの市民がバーニー・サンダース氏を粘り強く支持する動きも目に付く。彼の影響力は大統領選後も残っていくのではないか。
 欧州は、独仏では、シリア難民の受入増加、国内居住ムスリムからののIS支持者・過激派出現に伴い、これに反対する極右勢力が幅をきかすようになっている。独国では反原発のエネルギー政策やEU体制堅持の方針を市民が支えており、仏国でも労働法改悪阻止・タックスヘイブン規制の運動を市民が推進している。
 英国では移民増加に反対するEU離脱派が勢いを増した一方、連合王国からの独立を求めてきたスコットランドがその要求を依然堅持するとともにEU離脱に反対した。そこには国民統合型集権国家の強大化に反対し、地域共同体の自立を求める市民の動きが認められる。
 そして、これら欧米の新しい市民運動の誕生と成長には、それに寄り添うメディアの存在が必ず認められる。

 (3)日本はどうか。
  (a)沖縄で元米海兵隊員による現地女性の死体遺棄が5月19日に発覚、すつ殺人事件にまで発展した報道。1週間後には、26日の伊勢志摩サミットと、翌27日のサミット閉会・オバマ大統領の広島訪問が控えていた。とはいえ、<安倍内閣の閣僚の一人は「タイミング的にまずい。大変なことになった」と嘆く>(朝日・5月20日朝刊)はいかにも酷い。酷いのは、むろん発言した閣僚だ。タイミング的にまずくなければ、気軽に見ていられる程度の事件だったのか。それはないだろうと記者も思ったからこの発言をクオートしたはずだ。であれば、「閣僚」の名を報じ、真意を問い質し、また発言取り消しを求められるのだったら、それに応じてもいいが、沖縄にこのような事件が二度と起きないようにするには何をすべきか、公人としての見解を求めるべきだろう。朝日だけではない。どの新聞もテレビも、この発言に変に寛大だった。
  (b)安倍首相が通常国会閉会後、6月1日の記者会見で、2017年4月に予定していた10%への消費税再引き上げをさらに2年半延期する、と突然表明、これに対して約束と違うではないか、と記者が指摘すると、「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」と、恬として恥じる風もなく答えてみせた。さすがに各紙とも「新しい判断」といえばいくらでも前言を翻せる、いつでも使える便利な言葉だなどと嘲笑したが、これもその程度ですまされる問題ではない。サミット、オバマ広島訪問、衆参同時選挙見送り、今後のアベノミクスのテコ入れ強調・・・・すべてが目前の参院選対策と政権の延命策に尽きるものであることは明白だ。これらの問題のすべてに犀利な分析を加え、「新しい判断」の虚構を暴き、「アベ政治」のごまかしを許さない仕事をメディアは行ってくるべきだった。舛添騒ぎにうつつを抜かすヒマなどなかったはずだ。

 (4)国民の多くは、世の中があらぬ方向に動き出し、身辺にも不都合なことが生じだしていると感じている。しかし何が悪いのか、だれの責任かがわからないと怒りの持っていきようがない。舛添知事など、わかりやすい悪役がその捌け口となり、憎悪や軽蔑が向けられる。だが、それで一時的気晴らし、カタルシス的効果は得られても、社会的格差や失業・貧困などによって社会から脱落し、家庭崩壊などにも遭遇、孤独に立ち尽くす人たちの問題は解決しない。その苛立ちや不満がしだいに大きく堆積し、今やその全体が重みに耐えかね、大きな捌け口が見つかれば、そこにどっと動きだしそうな状況が生じている。
 安倍自民党が提唱した「緊急事態情交」がヒトラーの発案した緊急時の「緊急事態条項」と同じ発想だ、ファシズムだと批判を浴びた。権力者の政治的作為を問題とすれば、そのとおりだ。しかし、ファシズムの本当の恐ろしさは、大衆がうち揃ってハーメルンの笛吹き男の後に付いていく状況に陥ることのほうにある。ヒトラーは、ワイマール末期のドイツで迷子になっていた大衆に、敵はユダヤ人と共産主義者だと指し示し、彼らへの憎悪と軽蔑を煽り、それをテコに国民的統合に成功したのだ。
 アベノミクスは、すでに破綻を露呈させつつあるネオリベラリズム一辺倒の政策だ。サミットでも安倍首相の志向する経済政策は、各国首脳の賛意や共感を得るものとはならなかった。
 となると、国民みんなの目標としやすい政策が掲げられることになるのか。実際、目標とされそうな事案はたくさんある。東京オリンピックの開催、原発早期再稼働、TPP条約締結・批准、新安保体制に基づく対米軍事共同行動の強化・拡大etc.。さらに第一次政権で掲げた「美しい日本」の理念に基づく改憲案の全容を押し出し、日本人なら全員が新しい国作りに邁進するはずだ、反対する者は国民の敵だ、とするキャンペーンが展開される恐れがある。
 そこに怒りはない。憎悪と侮蔑を媒介項とする、驕るものの傲慢と従うものの怯懦があるだけだ。メディアはどちらに属するのか。そう思うとき、メディアがあまりにも怒りを示さなくなったことに驚く。怒るものは、不当な境遇を強いられている弱者に優しい眼差しを注ぎ、不遇をつくり出す強者に立ち向かっていく。そして弱者に怒ることと、それを力に変えるための連帯を提示する。
 舛添騒ぎ、伊勢志摩サミット、オバマ広島訪問、沖縄元米海兵による殺人・死体遺棄事件・・・・これらに係る報道に、そうした怒りがあまりにもない。
 参院選後、この怒りがますます大事になってくる。

 (5)欧米近代の資本主義は本当に行き詰まっている。それについていくだけでは日本の未来もない。だが、欧米で民主主義を刷新し、新たに平等な社会、相互協力で結ばれた平和な国際社会を構築するために払われている努力は軽視すべきではない。
 佐伯啓思・京都大名誉教授の日本浪漫派的改憲論も出ているが、現憲法こそ、戦後日本独自のものであり、戦争放棄を明記した9条は、まさにこれから世界標準になる。こうした思想的対立をどう克服していくかも、今後メディアの重要な仕事となるだろう。

□神保太郎「メディア批評 第104回」(「世界」2016年8月号)の「(1)参院選後--メディアは国民をどこに誘うのか」
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 【参考】
【メディア】批評by神保太郎 ~参院選後--メディアは国民をどこに誘うのか~
【メディア】日本国憲法の国際性 ~人権無法国家ニッポンの落日(2)~
【メディア】人権無法国家ニッポンの落日
【メディア】現場主義が薄情な安倍政治をストップ ~「日本死ね!!!」(2)~
【メディア】「日本死ね!!!」という立憲・民主主義 ~ネットの力~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】官邸癒着メディアと「機敏な反撃」(2) ~新聞と原子力ムラ~
【メディア】官邸癒着メディアと「機敏な反撃」(1) ~新聞と官邸~
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(2) ~かすかな希望~
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(1) ~強行採決を中継しない不作為~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(4) ~読売・NHKは?~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(3) ~新聞はどう報じたか~

【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(2) ~違憲が争点に~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(1) ~SNS上の痛烈な批判~
【メディア】集票キャンペーンの検証が課題 ~橋下劇場の終幕~
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道(2)
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道
【政治】「国連憲章」再読 ~安倍事態(アベノリスク)(2)~
【政治】どんどん言葉が死んでいく ~安倍事態(アベノリスク)~
【沖縄】をメディアはどう報道しているか(2) ~翁長知事の訪米~
【沖縄】をメディアはどう報道しているか(1) ~翁長知事冒頭発言~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~
【新聞】活字文化没落の序曲 ~朝日叩き~
【新聞】再生の出発点は現場 ~経営判断を誤ったジャーナリズム~
【新聞】記者の質問能力の低下 ~朝日新聞社長の記者会見~
【新聞】頑張る地方紙 ~「与党メディア」への対抗~
【新聞】分断される中央紙 ~「与党メディア」の勃興~
【NHK】「クローズアップ現代」事件 ~メディア・スキャンダル~
【NHK】が権力に隷従 ~「ニュースウォッチ9」~
【NHK】が危ない! ~組織に漂う負の雰囲気~
【政治】「第三の矢」の実態 ~アベノミクスの末路~
【集団的自衛権】とイラク情勢
【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~
【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~
【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道
【新聞】経営者の関心は秘密保護法より軽減税率
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【政治】選挙目当ての「所得倍増計画」 ~検証が必要~
【政治】見えてきた安部政権自壊のシナリオ ~生放送の威力~