語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【O・ヘンリー】賢者の贈りもの

2016年08月24日 | 小説・戯曲

 若く貧しい夫婦の誇るに足りる財産は二つ。一つは夫ジムの金時計、もう一つは妻デラの美しい髪。
 デラは、夫にクリスマス・プレゼントとしてプラチナの時計鎖を贈るため、髪を売る。帰宅した夫は、デラを見て茫然とする。くだんの時計を売り払って、かねがねデラが憧れていた櫛一揃を買っていたのだ・・・・。
 ご両人、愚者である。互いに相手にとって役に立たないものを贈ったのだから。事前に打ちあわせておけば、かかる無駄な犠牲は発生しなかった。夫婦のコミュニケーションが足りない、と指弾されても返す言葉はあるまい。
 しかし、日はまた昇る。デラの髪はまた生える。ジムもいずれ出世して、ふたたび金時計をポケットに入れる身分になるだろう。二人には未来がある。
 その未来が現実となる日までは、相手が自分の大事なものをこちらのために犠牲にできる人だという形而上学的な価値が、二人を支え続けてくれるだろう。

□オー・ヘンリー(飯島淳秀・訳)「賢者の贈りもの」(『オー・ヘンリー傑作集』、角川文庫、1969)
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【中東】戦争 ~イスラエル建国からレバノン侵攻まで~

2016年08月24日 | ノンフィクション

 (1)著者は、1918年アイランド生、1935年パレスチナへ移住。英国で法律を学び、1939年英陸軍へ入隊、1947年除隊。除隊と同時に地下抵抗組織ハガナに復帰(後にハガナは国防軍へ吸収された)。1967年に西岸地区軍司令官、1975年に国連大使、1983年に第6代大統領に就いた。

 (2)原著は1982年刊。独立戦争、シナイ作戦、六日戦争、消耗戦争、ヨムキプール戦争、対テロ戦争(エンテベ救出作戦)、ガリラヤ平和作戦を豊富な軍歴から(著者はそのほとんどに直接関わった)克明かつ立体的に綴り、犀利な分析をくわえる。訳者あとがきによれば、優れた戦史研究に与えられる英国のHHウィンゲート賞を受賞した。著者の「客観的かつ正確な分析」には「アラブ側も耳を傾けた」。

 (3)今日のイスラエル及びパレスチナ自治国家を思いつつ、独立戦争の箇所(2段組み100ページにわたる)を読むと、いろいろと考えさせられる。
 第一、パレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人との関係である。国連分割決議(1947年11月29日採択)は多くのユダヤ人にとって歓迎するべき事態だったらしい。安住の地が国際社会に承認されたのだから。人の住む余地の稀れなネゲブ砂漠を除けば、ユダヤ人の土地は今日のイスラエルに比べるとごくわずかである。
 その僅かな土地ですら侵略と見なすパレスチナ人の視点がある、といった議論、またその僅かな土地では満足しない一派がユダヤ人にいたし今もいる、といった議論はここではさて措く。
 国連分割決議のとき、ユダヤ人の多くはアラブ人との共生を前提としていたらしい。少なくともハイファをはじめとする各地で現在地にとどまるようにアラブ人住民を説得する動きがあったらしい。
 しかし、アラブ人指導者たちは「常々ユダヤ人を海中にたたきこみユダヤ人社会の抹殺を公言」し、これがアラブ人大衆の動向を左右した。そして、指導者たちはアラブの強大な正規軍の予期しない敗北に直面したときヒステリー状態になって「まっ先に逃げ去った」のである。すくなくとも本書はそう解説する。踏みとどまったアラブ人は15万人。原著刊行当時のイスラエル人口の15%を構成する。

 第二、人口からすれば圧倒的に少数、武器は貧弱なユダヤ人がなぜ大海のようにユダヤ人社会をおし包むアラブ人、そして物量において豊富なアラブ正規軍に勝利したか。
 独立戦争においてはいくつかのキブツが抵抗の拠点となった。たとえばテルアヴィブから約40キロ南方のヤッドモルデハイ。住民及び守備隊の200名余は、乏しい手榴弾と小火器のみでエジプトの正規軍(歩兵一個大隊、機甲一個大隊、砲兵一個連隊)を相手に5日間持ちこたえ、貴重な時間を稼いだ。
 余談ながら、1992年にこのキブツを訪れたとき、無数の弾痕の残る給水塔が当時のまま保存されているの目撃した。平原には散開する多数の不気味な黒い人形(エジプト歩兵を模す)がセットされていて、当時キブツの住民たちが受けた不気味な圧迫感の片鱗が肌で感じられた。

 (4)ヘルツォークは次のように分析する。
 イスラエルには勇気と柔軟性に加えて創造的思考があった。と同時に、アラブ側軍隊の無意味な指揮ぶりも勝因の一つだ。たとえばエジプト軍は教科書どおりの攻め方をした。戦場では予期しない事態が発生するのが常だが、エジプト軍の指揮官は新しい状況に即応する柔軟性を持たず、重大な局面を迎えると逡巡するばかりだった。上級レベルにおいては各兵種間の連携のとり方が非常にまずい。そのため、機甲、歩兵、砲兵の協力がもたらす効果を、エジプト軍は期待できなかった。
 ヘルツォークはさらに続ける。
 <エジプト軍は防御戦闘になると、がぜん見違えるような戦いぶりを示した。固定陣地線で射撃し、火砲の射撃計画が明らかである場合、エジプト軍の指揮官と兵隊は勇敢に戦い、きわめて巧みな防御戦をやるのである>
 その国の科学水準、技術水準のみならず、国民性や民族性が戦争において集中的にあらわれるのだ。
 現代社会、現代政治を読み解くために戦争に係る知識が必須なゆえんだ。

□ハイム・ヘルツォーク(滝沢義人・訳)『図解 中東戦争 -イスラエル建国からレバノン侵攻まで-』(原書房、1990)
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【詩歌】三好達治「峠」

2016年08月24日 | 詩歌

 私は峠に坐つてゐた。
 名もない小さなその峠はまつたく雑木と萱草かやくさの繁みに覆ひかくされてゐた。××ニ至ル二里半の道標も、やつと一本の煙草を喫ひをはつてから叢の中に見出されたほど。
 私の目ざして行かうとする漁村の人人は、昔は毎朝この峠を越えて魚を売りに来たのだが、石油汽船が用ひられるやうになつてからは、海を越えてその販路がふりかへられてしまつたと私は前の村で聞いた。私はこの峠までひとりの人にも会はずに登つてしまつた。
 路はひどく荒れてゐた、それは、いつとはなしに雨に洗ひ流されて、野茨や薄の間にともすれば見失はれ易く続いてゐた。両側の林では野鳩が鳴いてゐた。
 空は晴れてゐた。遠く、叢の切れた一方に明るく陽をうけて幾つかの草山が見え、柔かなその曲線のたたなはる向ふに藍色に霞んだ「天城あまぎ」が空を領してゐる。私の空虚な心は、それらの小山を眺めてゐるとほどよい疲労を秋日和に慰められて、ともすれば、ここからは見えない遠くの山裾の窪地とも、またはあの山なみの中腹のそのどこかとも思へる方角に、微かな発動機船の爆音のやうなものを聞いたのだつたが、(それはしばらく続いてゐたらしいのだが、)ふと、訝いぶかしく思へて耳を澄まして見ると、もう森閑として何のもの音も聞えて来なかつた。時をり風が叢を騒がせて過ぎ、蜂の羽鳴りがその中を弓なりに消えていつてはまたどこからか帰つて来た。翼の白い燕が颯々と羽風を落していつた。
 私は考へた、ここにかうした峠があるとするからは、ここから眺められるあの山々の、ふとした一つの襞の高みにも、こことまつたく同じやうな小さな峠があるだらう。それらの峠の幾つかにも、風が吹き、蜂や燕が飛んでゐるだらう、そこにも私が坐つてゐる--と。そして私は、足もとに点々と咲いた白い小さな草花を眺めながら、それらの覆ひかくされた峠の幾つかをも知ることが出来た。
 私は注意深く煙草の火を消した。午後ははや少し遅くなつてゐた。そしてこの、恐らくは行き会ふ人もないだらう行手を思ひ、草深い不案内な降り道を考へると、人人の誰からも遠く離れた私の鳥のやうな自由な時間も、やはりあわただしく立ちあがらなければならないのを味気なく感じた。既に旅の日数は重なつてゐた。私は旅情に病の如き悲哀を感じてゐた。しかし私にあつて今日旅を行く心は、ただ左右の風物に身を托して行く行く季節を謳つた古人の心でなければならない。もうすぐに海が見えるであらう。それだのに私の心の、何と秋に痛み易いことか!
 ああ、その海辺の村の松風を聴き、暗い旅籠はたごの湯にひたり、そこの窓に岬を眺めよう、その岬に陽の落ちないうちに--。そして私は心に打ち寄せる浪の音を聞いた。私は峠を下つた。

□三好達治「峠」(『測量船』、第一書房、1930)
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 【参考】
【詩歌】三好達治「駱駝の瘤にまたがつて」
【詩歌】三好達治「甃のうへ」
【詩歌】三好達治「艸千里濱」
【詩歌】】三好達治「大阿蘇」
【詩歌】三好達治「湖水」
【詩歌】三好達治「雪」
【詩歌】三好達治「春の岬」
【詩歌】何をうしじま千とせ藤 ~牛島古藤歌~
【読書余滴】ミラボー橋の下をセーヌが流れ ~母音~


【永六輔】新・無名人名語録 ~死ぬまでボケない智恵~

2016年08月24日 | 批評・思想

 シリーズ5冊目。大部分は前後の脈絡なく羅列されている。その無造作ぶりが、かえって無名人は何処にもいる、という印象を与える。

  <日本人妻という言葉があるのに日本人夫と言わないのは何故ですかね。>

 通常使用される日本語の裏に隠された男性中心主義。

  <暴力団がいなくなるようだったら、もうその町は活気が無いってことです。>

 暴力団さえ寄りつかない寂れた町。なんたる逆説。

  <住宅ローンのこと、子どもの受験のこと、親の介護のこと、そして女房のことを
   考えているうちに自殺しちゃったんだって・・・・。
   駄目だよ、バラバラに考えなきゃ。>

 総合し、要約すると、砂の城しか残らない。
 『ハムレット』の一登場人物が言うように、墓掘り人夫のように陽気に。
 あるいは、敗戦直後の焼け跡市場のように<我は我が事どもを無の上に築く>。

  <生きるということは、
    生き残るということです。>

□永六輔 『新・無名人名語録 ~死ぬまでボケない智恵~』(飛鳥新社、2000)
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 【参考】
【読書余滴】無名人名語録、普通人名語録、一般人名語録

【桑原武夫】人間素描/アラン訪問記

2016年08月24日 | 批評・思想

 (1)17世紀のフランスには文学上の一ジャンルに「ポルトレ」があった。文字をもってする肖像の意で、風貌、気質、行為まで描きだそうとするが、本格的な伝記でも人間研究でもない。
 そう桑原武夫は紹介し、「ポルトレ」を訳せば「人間素描」となる、という。
 『人間素描』は、30有余人のポルトレをおさめる。素描されるのは学者、それも錚々たる学者が多い。しかも、ジャンルを限定しない。中国文学者(内藤湖南や狩野直喜)からサル学者(今西錦司)まで。文法学者(『象は鼻が長い』の三上章)もいる。
 在野の人では、詩人(三好達治)から作家(中野重治)、翻訳家(米川正夫)まで。特異な実践的技術家(西堀栄三郎)もいる。京都一中・三高の名物校長森外三郎もしっかりと「素描」されている。海外の人では、作家にして政治家の郭抹若、哲学者にして教育家のアラン、米国の社会主義者スコット・ニアリング夫妻の名が見える。じつに幅広い。

 (2)桑原武夫の交友圏は広かった。単に顔が広いだけではなくて、専門分野以外の人ともあい渉る術を心得ていた。
 松田道雄は桑原武夫にふれた文章で、専門外の発言にどう切り込むかのテクニックを教わった、と書く。
 しかし、単に交際術を身につけているだけでは、あるいは論争術を心得ているだけでは、かくも多数の、ジャンルを超えた「人間素描」は生まれなかっただろう。人間に対する関心、ことに異能の人に対する強い関心が著者にある。
 そして、健康な知性、達意の文章。

 (3)「アラン訪問記」は、1937年の出会いを語る。渡仏当時、発表されたアランの一文に総罷業反対が記されていた。リヨンの小学教員組合が不参加を表明し、その他のサンジカにもこれにならうものが少なくなかった。アランは下級教育者に依然として影響力をもつらしい、といった推測から始まる。晩年のアランは、全身にわたるリューマチを患っていた。加減のよいつかのまに面会できた。全体としてずんぐりとした大男で、自分の仕事に自信をもつ美しい顔、と印象を記す。話題はもっぱら芸術で、東洋絵画にも言及される。
 <あまりたくさんは見てないが・・・・東洋絵画は広大な視界を求める。西洋のものにはそれがない。東洋の絵の中では toujurs, on s'en va, oui, toujurs! (いつも遠くへ立ち去ろうとするところがある)>
 帰国してから送った『鉄齋遺墨集』をアランはおおいに喜んだらしい。ドストエフスキーは好きで相当読んでいる、といった談話もあるが、アランの胸像をつくった高田博厚へのアランの献辞がいい。古人のいわゆる剛毅木訥である。
 <彫刻家高田に。現にここでわれわれがポーズしたその幾時かの記念に。彼の胸像は究極において似たところを示している--大へんrusticなところを。私はそこに自分を再び見出して愉快です>
 rustic(ひなびた、百姓ふうな)というのはアランがそう自認しているので、ここではすぐれた賛辞だ、と桑原武夫は注釈している。

□「アラン訪問記」(『人間素描』、筑摩叢書、1976/後に『桑原武夫集 第1巻』、岩波書店、1980)
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 【参考】
【本】『人間素描』


【野村克也】由伸・巨人、崩壊の内幕 ~問題だらけのプロ野球~

2016年08月24日 | 批評・思想

 (1)巨人のバッターは、「配球を読まずに来た球を打つ」という天才型が多い。阿部慎之助を始め、長野久義、坂本勇人、生え抜きではないが村田修一。
 野村克也がキャッチャーだったら、こんなにやりやすい打線はない。天才打線だから、配球を読むとか、絞るとかしない。4打席同じ攻め方でも抑えられるはずだ。

 (2)高橋由伸・監督もたいしたことないなと思わせたのが、5月26日の広島戦(マツダスタジアム)。1点を勝ち越され、2-3とリードされた7回。先頭の長野が代わったばかりのヘーゲンズから四球を選び、代走にスペシャリストの鈴木尚広を起用して勝負をかけた。
 ところが、村田は初球を打ち、最悪の遊ゴロ併殺打。原監督時代からよく見られた場面だが、村田にバントはないのだから、当然盗塁を期待した代走になる。村田は、鈴木が走るまで待つ場面だった。果たして由伸監督は、そういう指示をしっかり出していたのだろうか?
 巨人は、8、9回も無得点で1点及ばず敗れ、その試合で広島に3タテを食らい、5連敗。結局連敗は7まで伸びた。
 村田や長野のこういう場面は原監督時代の昨年まで何度も見られたが、由伸監督になっても変わらない。負けている試合の終盤でも、平気で初球から打ってしまう。
 相手ピッチャーも、調子が悪いかもしれないし、ストライクが入らないこともあるかもしれない。先ほどの広島戦なら、ヘーゲンズは先頭バッターに四球を与えて、不安いっぱいだったはず。それが初球を打って併殺打なのだから、大助かりだ。
 負けている場面の先頭バッターがあんなバッティングをして、由伸監督やコーチ陣は何も言わないのか。理解しがたい野球だ。

 (3)セ・リーグ6球団で一番優勝から遠ざかっている広島が首位に立っている。
 就任2年目の緒方孝市・監督は外野出身で、これといって何か特徴のある采配をしているわけではない。
 今季、エースの前田健太がドジャースに移籍。大きく戦力ダウンした。これが、むしろチームにとって刺激になったのだ。
 毎年2桁勝利を挙げていたエースがいなくなったのだから、「我々がやらなきゃ」、「頼りになる人がいなくなったのだから、頑張らないと」と選手は危機感を感じるものだ。
 ヤクルトでも、広澤克己が巨人にFA移籍した1995年と、オマリーが退団した1997年はともに日本一になっている(監督は野村克也)。今年の広島と同じような状況で、残された選手が団結して張り切った。
 他球団でも主力選手がいなくなると、逆に強くなることが意外と多い。まさに「無形の力」といっていい。
 無形の力とは、文字どおり「形にならない力」、「目に見えない力」のこと。無形の力に限界はなく、磨けば磨くほど研ぎ澄まされ、チーム全員共有できる。まさに今年の広島がこれだ。
 セ・リーグは外野出身の監督が5人。これが緒方監督にとっては有利に働いているのかもしれない。いずれも似たりよったり。しかも5人のうち3人は新人監督で、これも2年目の緒方監督に優位に働いているかのようだ。

 (4)捕手は、分析力、観察力、洞察力、記憶力、判断力の5つの要素を鍛えることが大事だ。レギュラーになるためには、少なくとも分析力と観察力は欠かせない。これに洞察力が加われば、一流といってよい。

 (5)ほとんどの外国人監督は、成功していない。プロ野球80年の歴史で、ロッテのバレンタイン監督、日本ハムのヒルマン監督が日本一になった例があるだけだ。
 外国人監督は、あまり動かないイメージがある。南海のヘッドコーチだったドン・ブレーザーが阪神の監督になったときもそうだった。ラミレス監督もあまり動かない。
 例えば、巨人戦でも「イケイケドンドン」の最下位野球。強いチームと対戦するときは、正攻法で勝てるわけがない。奇策を用いていかなければダメだ。ところが、DeNAは1番バッターまで4番のようなバッティングをしている。バッテリーも何も考えていない。6月26日の巨人戦(横浜スタジアム)でモスコーソがギャレットに3打席連続ホームランを打たれた。しかも、すべてストレートを打たれたもの。キャッチャーはルーキーの戸柱恭孝だったが、穴の多いバッターにあんな配球は罰金ものだ。それに疑問も感じずに、首を振らないモスコーソも罰金だ。
 2015年、DeNAはオールスターまで首位に立っていた。ところがその後、急降下して最下位で終了。バッティングの状態がいいときは勝てるが、負け始めると歯止めが利かなくなる。結局は結果オーライの野球しかしていないから、1年間は続かない。だから最下位になる。ラミレス監督になっても、チームはまったく変わっていない。

 (6)尾花高夫(現・巨人一軍投手コーチ)は、2005年、横浜の監督に就いたが、投手コーチとしてはしっかりとした考えをもっているが、言いたいことをハッキリ言うゴーイングマイウェイの性格。人の上に立つ器ではなく、案の定、2年連続最下位でチームを去った。
 その後が中畑清。これも首を傾げる人選だ。弱い万年Bクラスのチームを建て直すには、実績のある監督でないと務まらない。事実、6位、5位、5位、6位だった。

 (7)柳田悠岐(ソフトバンク)のバッティングは、東映フライヤーズ(現・日本ハム)で大杉勝男を育てた飯島慈弥というコーチが教えていた「月に向かって打て」の打ち方。あのアッパースイングであれだけ打てるのだから、水平にバットを振るレベルスイングや、上からバットを振り下ろすダウンスイングにバッティングフォームを変えたら、もっと打てる。理に適ったスイングをすれば、王の年間55本やバレンティン(現・ヤクルト)の60本のホームラン記録を抜くことも夢ではない。
 体っぱいをつかったスイングは、パワーのある若いうちはいいが、長持ちはしない。
 あのイチロー(マーリンズ)でも毎年打撃フォームはマイナーチェンジしている。柳田はもっと打てる素質をもっているだけに、惜しい。

 (8)大谷翔平(日本ハム)は、160キロのストレートを1試合に何球も投げている(プロ野球80年史上、存在しなかった)。外角低めに投じる原点能力も高い。
 しかし、まだまだ改善していかなければならない点はたくさんある。
 まず、スピードだけがすべてではない。球質が大事だ。6月5日の巨人戦で初めて163キロを計測したが、クルーズから空振りをとれず、ファウルされた。相手バッターの体感スピードはあまりないのではないか。スピードガンの数字は出るけれど、数字ほどバッターが速いとは感じない。逆もある。140キロぐらいのストレートでもバッターが速いと感じることがある。上原浩治(レッドソックス)がそういうタイプだ。
 山口高志(元・阪急)も速かった。ストレートしか投げてこないのに、前に飛ばなかった。
 杉浦忠(元・南海)も速かった。バッターがストレート狙いで、ストレートのサインを出しても打たれなかった。
 大谷の空振りはほとんどフォークボールやスライダーだ。空振りをとれるようにストレートを磨くこと。投げるときに、腕の振りと足が一緒になって出てくるので、もっと右足が遅れて出てくれば、160キロのストレートがファウルされることはなくなるはずだ。

 (9)オコエ(楽天)は、レベルスイングではなく、振ったあとのバットが頭の上に行くほどのアッパースイングになっている。素振りからじっくりやらせて、しっかりとしたスイングを身につけさせる。あれではまだ、一軍の投手に対応することができない。基礎、基本をおろそかにすると、短命で終わってしまう怖れがある。

 (10)ダルビッシュ有(レンジャーズ)が右ヒジ手術のリハビリの間に肉体改造し、体重を100キロから10キロ近く増量。球速阿ぷを目指しパワーアップしたそうだが、肉体改造をしてよくなった例を聞いたことがない。
 ピッチャーに筋肉トレーニングは必要ない。下半身さえ鍛えていればいい。上半身を大きくするのは、筋肉を硬くするだけで、ピッチャーにとってよくないはずだ。 

□野村克也『由伸・巨人と金本・阪神 崩壊の内幕』(宝島新書、2016)の「第3章 由伸・巨人が抱える問題点」と「第4章 問題だらけのプロ野球」から抜粋、要約
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 【参考】
書評:『「野村学校」の男たち』

【宇沢弘文】社会的共通資本

2016年08月23日 | 社会

 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 <社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する>
 三つの範疇がある。①自然環境、②社会的インフラストラクチャー、③制度資本だ。
 以下、社会的共通資本の考え方とその役割、経済学史の中の位置づけ、重要な構成要素(自然環境、農村、都市、教育、医療、金融)の個別的な事例、社会的共通資本の目的達成と持続的な経済発展が可能になる制度的前提条件・・・・が考察される。
 <例>医療・・・・日本の医療制度の矛盾は「医療的最適性と経営的最適性の乖離」にあり、医療的最適性と経営的最適性とが一致するためにはその差を社会的に補填しなければならないから、社会的共通資本としての医療制度は独立採算の原則は妥当しない。医療を経済に合わせるのではなくて経済を医療に合わせるべきだ、云々。
 薬漬けにされることなく、必要かつ十分な医療を受けるには、著者の主張のごとくであってほしい。ただ、「その差を社会的に補填」するしくみに本書は言及していない。
 ちなみに、第7章「地球環境」によれば、スウェーデンは世界で初めて1991年1月に炭素税(この国では二酸化炭素税と呼ばれる)を導入した。経済的手段を用いた地球温暖化対策である。

□宇沢弘文『社会的共通資本』(岩波新書、2000)
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 【参考】
【経済】回想の宇沢弘文
【経済】宇沢弘文の「自己を見返す力」 ~知識人とは何か~
【経済】宇沢弘文が残したもの ~社会的共通資本の思想~

【佐藤優】ロシア大統領府長官にワイノ氏就任の意味 ~北方領土交渉~

2016年08月23日 | ●佐藤優
 (1)ロシアで対日外交に大きな影響を与える人事異動があった。
 8月12日、プーチン大統領はセルゲイ・イワノフ大統領府長官を解任し、後任にアントン・ワイノ副長官を据えた。この人事が行われる事前の兆候はなかった。イワノフは、安全保障会議メンバーには残るので完全に失脚したわけではないが、かなりの降格であることは間違いない。
 イワノフは、プーチンがKGB第1総局(対外諜報担当)に勤務していたときの上司で、プーチンと盟友関係にある。
 <プーチン氏は、イワノフ氏が自ら退任を申し出て、後任にワイノ氏を推薦したと説明した>【注1】
 これは額面どおり受けとめるべきだ。イワノフはすでに63歳で、ロシアでは同世代の政府高官はほとんど民間企業の顧問に転出するか、年金生活に入っている。イワノフも公職を離れる準備をしているのだろう。

 (2)ワイノ新長官は、日本との関係で注目される。
 ワイノは、1972年2月生まれ。祖父のカレル・ワイノは、ソ連時代にエストニア共産党第一書記をつとめた。父のエドゥワルド・ワイノは、ソ連外国貿易省に勤務し、東京のソ連通商代表部に勤務したこともある。当時十代前半だったアントンも、父親とともに東京で暮らした。当時、ソ連人は日本の学校で学ぶことが認められず、麻布台のソ連大使館(現・ロシア大使館)の敷地内に設置されたソ連人学校で学んだ。この学校では日本語の授業も行われる。アントンは、日本語の成績が非常に良かった。同時に日本の歴史や文化にも強い関心を持った。
 大学は、外交官、インテリジェンス機関員、国際ビジネスに従事する専門家を養成するモスクワ国立国際関係大学に進み、日本語を専攻した。1996年に大学を卒業すると外務省に入り、東京のロシア大使館で勤務を始めた。日本を担当するロシアの外交官は、外務省入省後、1年間、東京外国語大学で語学研修を命じられるのが通例だが、ワイノの場合、すでに十分な日本語能力があるので直ちに大使館で勤務することになった。アレクサンドル・パノフ駐日大使(当時)がワイノの能力を高く評価し、大使秘書に命じた。

 (3)2000年7月のG8九州・沖縄サミットと9月にプーチン大統領が公式訪日したときに、パノフ大使がワイノにプーチンの世話係を命じた。首脳が訪問するときには、どの国でも最も気が利く人を世話係に付ける。この世話係が首脳の機嫌を損ねることがあると、大使が更迭されることすらある。
 このときプーチンは、ワイノの能力を高く評価し、2人の間に個人的信頼関係が生じた。これが、後にワイノが外務省から大統領府に転出する機縁になる。 
 ワイノは、東京で勤務を終えた後、2001~03年、モスクワの外務省第2アジア局で日本担当の中堅職員として勤務した。2003年に外務省儀典局に勤務。
 このときの役職は、コンサルタント(日本の中央官庁の課長補佐に相当)だったので、ワイノの転職の背景にプーチンの引きがあることは誰も気付かなかった。翌2004年に儀典局次長に抜擢されたところで、ワイノの背後に強いコネがあることを誰もが感じることになった。
 その後、大統領府と政府の要職を歴任し、2012年5月、4年ぶりにプーチンが大統領に復帰すると、大統領府副長官に就任した。
 ワイノは大統領の日程管理を担当している。どの首脳でも、最も信頼す部下に日程管理を担当させる。だから、プーチンのワイノに対する評価が高いことは明白だ。対日関係についても、大統領から助言を求められれば、高度な情報を提供する能力がワイノにはある。日本外務省やモスクワの日本大使館は、ワイノの能力を過小評価していた。むしろ、森喜朗・元首相、鈴木宗男・元衆議院議員、前原誠司・元外相など北方領土問題に関心が強い政治家の方がワイノの重要性を正確に理解している。

 (4)2012年5月2日、モスクワで、当時の与党の前原政治・民主党政調会長がワイノ政府官房長官(当時)と会談した。この際、ワイノは通訳を用いずに流暢な日本語で会談した。外務省の日本担当を離れてもワイノの日本語能力は錆びついていない。ワイノが日本語と日本情勢に関する勉強を継続しているからだ。ワイノなら、日本の政治家と機微に触れる話を含め、日本語で直接交渉することができる。このタイミングでワイノを大統領府長官に据えたことは、プーチンが安倍政権に対して、「このチャンネルを使って秘密交渉を行うことが可能だ」というシグナルだ。
 安倍政権も、対露関係を重視するというシグナルをロシアに送っている。7月末に外務省がプーチン大統領の訪日が公式訪問になるという情報をリークした。
 <日ロ両政府は、年内に予定されるロシアのプーチン大統領の訪日について、安倍晋三首相と共同声明をまとめることも視野に入れ、公式訪問として扱う方向で調整している。外務省関係者が明らかにした。政府内には日ロの接近を懸念する米国に配慮して非公式とする考えもあったが、北方領土問題交渉を加速させることを優先した。
 大統領としては11年ぶりとなるプーチン氏の訪日は、12月に安倍首相の地元・山口県で首脳会談を行うことを検討している。9月にウラジオストクで予定される首脳会談で最終調整を図る。両国首脳の公式訪問は、2013年4月の安倍首相の訪ロ以来になる。
 首相は北方領土問題を含む平和条約締結交渉の前進に強い意欲を見せており、プーチン氏の訪日を重要な機会と位置づける。5月にソチで行われた首脳会談では、安倍首相が8項目の経済協力を提案したが、非公式訪問だったため共同声明などは出されなかった>【注2】

 (5)首脳外交において、合意文書を作成することができないほど互いの立場に乖離があるときに、非公式訪問を行って首脳間の人間的信頼関係を高めることを試みる。ここで首脳間の信頼関係構築に成功すれば、その後、公式訪問を行って合意文書を作成する。
 以前より日露の外交当局間は水面下で年内にプーチン大統領が、安倍首相の地元(山口県)を非公式訪問する計画を検討していた。これが公式訪問に切り替わるということは、北方領土問題について、日本の立場から見て前進が見込められるからだ。領土問題について両国間でどのように得られるかについては、水面下でもまったく調整されていないと推定される。しかし、安倍首相とプーチン大統領が互いに譲歩して北方領土問題で何らかの合意を見出さなければならないという強い意志を持っているこいとだけは確かだ。
 北方領土交渉の妥協点を見出す事前の裏交渉において、ロシア側キーパーソンがワイノであることは間違いない。

 【注1】記事「プーチン氏最側近が交代 ロ大統領府長官、後任に日本通ワイノ氏」(朝日新聞デジタル 2016年8月13日)
 【注2】記事「プーチン大統領の訪日、「公式」で調整 共同声明を視野」(朝日新聞デジタル 2016年7月29日)

□佐藤優「ロシア大統領府新長官にワイノ氏就任のシグナル ~飛耳長目 第122回~」(「週刊金曜日」2016年8月19日号)
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 【参考】

【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~
【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
【佐藤優】岩倉使節団が使った費用、100億円 ~明治初期~
【佐藤優】反省より不快示すロシア ~五輪ドーピング問題~
【佐藤優】 改憲を語るリスクと語らないリスク ~改憲問題~
【佐藤優】+池上彰 エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速
【佐藤優】沖縄の全基地閉鎖要求・・・・を待ち望む中央官僚の策謀
【佐藤優】ナチスドイツ・ロシア・中国・北朝鮮 ~世界の独裁者~
【佐藤優】急進展する日露関係 ~安倍首相が取り組むべき宿題~
【佐藤優】日露首脳会談をめぐる外務省内の暗闘 ~北方領土返還の可能性~
【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
【佐藤優】一時中止は沖縄側の勝利だが ~辺野古新基地建設~
【佐藤優】情報のプロならどうするか ~「私用メール」問題~
【佐藤優】テロリズムに対する統一戦線構築 ~カトリックとロシア正教~
【佐藤優】北方領土「出口論」を安倍首相は訪露で訴えよ
【佐藤優】ラブロフ露外相の真意 ~日本政府が怒った「強硬発言」~
【佐藤優】プーチンが彼を「殺した」のか? ~英報告書の波紋~
【佐藤優】北朝鮮による核実験と辺野古基地問題
【佐藤優】サウジとイランと「国交断絶」の引き金になった男 ~ニムル師~

【佐藤優】矛盾したことを平気で言う「植民地担当相」 ~島尻安伊子~
【佐藤優】陰険で根暗な前任、人柄が悪くて能力のある新任 ~駐露大使~
【佐藤優】世界史の基礎を身につける法、決断力の磨き方
【佐藤優】国内で育ったテロリストは潰せない ~米国の排外主義的気運~
【佐藤優】沖縄が敗訴したら起きること ~辺野古代執行訴訟~
【佐藤優】知を身につける ~行為から思考へ~
【佐藤優】プーチンの「外交ゲーム」に呑まれて
【佐藤優】世界イスラム革命の無差別攻撃 ~日本でテロ(3)~
【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~
【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~
【佐藤優】小泉劇場と「戦後保守」・北方領土、反知性主義を脱構築
【佐藤優】【中東】「スリーパー」はテロの指令を待っている
【佐藤優】東京オリンピックに係るインテリジェンス ~知の武装・抄~
【佐藤優】分析力の鍛錬、事例、実践例 ~知の教室・抄(3)~
【佐藤優】武器としての教養、闘い方、対話の技術 ~知の教室・抄(2)~
【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら
【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
【佐藤優】第2次世界大戦、日ソ戦の悲惨 ~知を磨く読書~
【佐藤優】すべては国益のため--冷徹な「計算」 ~プーチン~
【佐藤優】安倍政権、沖縄へ警視庁機動隊投入 ~ソ連の手口と酷似~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】冷静な分析と憂国の情、ドストエフスキーの闇、最良のネコ入門書
【佐藤優】「クルド人」がトルコに怒る理由 ~日本でも衝突~
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】被虐待児の自立、ほんとうの法華経、外務官僚の反知性主義
【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~
【佐藤優】バチカン教理省神父の告白 ~同性愛~
【佐藤優】進むEUの政治統合、七三一部隊、政治家のお遍路
【佐藤優】【米国】がこれから進むべき道 ~公約撤回~
【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 


【宮沢賢治】討議『銀河鉄道の夜』とは何か

2016年08月22日 | 小説・戯曲

 (1)本書の目次は、
  Ⅰ
   討議Ⅰ 『銀河鉄道の夜』とは何か
   討議資料
    なぜ<カンパネルラの死に遭ふ>か  銀河鉄道の彼方・序説    天沢退次郎
    『銀河鉄道の夜』研究のための二つの資料    入沢康夫編
  Ⅱ
   討議Ⅱ 銀河鉄道の「時」 ふたたび『銀河鉄道の夜』とは何か
  Ⅲ
   関連レポート
   『銀河鉄道の夜』覚書                  天沢退次郎
   「薤露青」解説                      天沢退次郎
   「青木大学士」の運命                  天沢退次郎
   黒インク手入れの意味                 入沢康夫
   『銀河鉄道の夜』の本文の変遷についての対話  入沢康夫

  付録資料★筑摩昭和42年版全集所収『銀河鉄道の夜』(本文と後記)

 (2)本書は、『銀河鉄道の夜』(以下『夜』と略する)をめぐって入沢康夫及び天沢退次郎が①1970年及び②1973年に行った2つの対談(詩誌「ユリイカ」に掲載)に若干のレポートを補足して構成される。
 2つの対談で異なるのは、依拠するテキストだ。
 ①1970年の対談(討議Ⅰ)のテキストは、刊行済みの文献だ。すなわち、筑摩書房版全集(1967年)にもっぱら依りつつ(『銀河鉄道の夜』の本文と後記の全文を本書に付す)、十字屋書店版全集(1939年)、筑摩書房版全集(1956年)、岩波文庫(1950年)、岩波文庫改版(1966年)、「昭和文学全集14 宮沢賢治集」(角川書店、1953年)、「宮沢賢治童話全集6」(岩波書店、1965年)を参照する。
 ②1973年の対談(討議Ⅱ)では直筆原稿がテキストだ。

 (3)宮沢賢治は、自作について推敲につぐ推敲を重ねる作家・詩人だった。短い生涯に多産だったし、推敲を重ねたから、『銀河鉄道の夜』にも誤字(「ハルレヤ」)があるし、原稿が欠落した箇所(ことに5枚分の欠落)もある。歴代の全集等の編集者は、彼らなりに解釈を加えつつ、まとまった作品として読者に提示できるように再構成してきた。
 ①討議Ⅰは、作品の読みを深める作業である。互いをよく知る前衛詩人にして仏文学者同士らしく、マラルメやブランショ等を援用しつつ、あるいはナボコフ『ヨーロッパ文学講義』のように読解に資する地図ないし列車内の乗車位置図を作成して議論を進める。しかし、多くはふつうの読者でも注意深ければ気づくような指摘だ。たとえば、ジョバンニが夢から醒めた終わり近く、ふいに、しかも初めて登場する「あのブルカニロ博士」の「あの」の言いまわしから、元の原稿にはブルカニロ博士が登場する場面があって、削除されたのに違いない、削除されたとすればこの箇所だ、などという推定だ。とはいえ、ふつうの読者と違って、天沢たちは、疑問を読み流さないで徹底的に追求する。この一歩の違いは大きい。
 ①討議Ⅰで提示された疑問、矛盾は、その後2人が直接原稿にあたることでほぼ解消された。原稿から2人が再構成した『銀河鉄道の夜』は、筑摩書房版全集(1967年)とは36箇所も異なる(改行、句読点、表記、ルビ等の異同は含まない)。
 ②討議Ⅱは、こうした文献批判をふまえて行われた。ペンの色(鉛筆も含む)、原稿の裏のメモ(別の原稿を含む)等の手がかりから、執筆順、執筆年代、賢治の意図を推定し、こうした作業から深められた読みが披露される。他の作品にも文献批判の手が及んだから、『銀河鉄道の夜』と他の作品との関連も同様の深みから読みこなされる。「あのブルカニロ博士」にしても、夢に出てくる「セロのような声」「講義した歴史学者」と三位一体であることが指摘される。

 (4)付録の克明な資料や補足的な考察が、2つの濃密な対談に厚みを加えている。
 『宮沢賢治の彼方へ』ほかの賢治論で斬新な洞察を読書界にもたらした天沢は、テキストの厳密な考証を通じて、地味ながらいっそう確かな考察を展開させた。同様に、入沢もまた。
 念のためにいうと、本書のタイトルをなす『銀河鉄道の夜』とは何か、とは要するに、定稿はどれか、ということだ。いや、定稿という考え方は『銀河鉄道の夜』には当てはまらないらしい。原稿によって賢治の推敲の過程を綿密に追求した結果、『銀河鉄道の夜』には大きく4つの層があり、それぞれ固有の言語空間を構成することが明らかになったからだ。

 (5)こうした綿密なテキスト・クリティークは『銀河鉄道の夜』以外にも及び、「校本宮沢賢治全集」(『銀河鉄道の夜』は第10巻に所収、筑摩書房、1974)として結実した。
 さらにその後の研究の成果を踏まえて「〈新〉校本宮沢賢治全集」(『銀河鉄道の夜』は第9巻に所収、筑摩書房、1995)が刊行された。

□入沢康夫、天沢退次郎『討議『銀河鉄道の夜』とは何か 新装版』 (青土社、1990)
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【言葉】市民的抵抗

2016年08月22日 | 批評・思想
 
 支配は支配であるかぎり、すでに言いふるされたように、統制と束縛を意味しているが、同時に何らかの意味での“保護”をも意味している。だから支配の思想に対して、抵抗の思想に立つということは、この“保護”に囲いこまれないことを意味している。

□久野収「マックス・ホルクハイマー -集団的抵抗の思想-」(マックス・ホルクハイマー(久野収・訳)『哲学の社会的機能』、晶文社、1974)
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【中江兆民】政治家を罵る

2016年08月22日 | 批評・思想
 
 早稲田伯、壮快愛すべし。しかれどもまた宰相の材にあらず。目前の智富みて後日の慮に乏し、故に百敗ありて一成なし。野にありて相場師たらしめば、正にその材を竭(つく)すことを得べし。けだし糸平、阿部彦の雄これのみ。
 山県は小黠(しょうかつ)、松方は至愚、西郷は怯懦、余の元老は筆を汚すに足る者莫(な)し。伊藤以下皆死し去ること一日早ければ、一日国家の益となるべし。

□中江兆民『一年有半』(岩波文庫、1995)
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【保健】学んで4時間後に運動すると記憶が定着 ~記憶術~

2016年08月22日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)受験生には踏ん張りどころの夏休み。親も落ち着かないだろう。
 そんなときは家族で身体を動かすとよい。

 (2)勉強したことをしっかり記憶するには、学習4時間後に運動をするとよい・・・・先日オランダから、そういう研究報告があった。
 本研究に参加したのは、オランダ・ラドバウト大学に在籍する72人(平均年齢22歳、女性48人、男性24人)。BMI(体格指数)平均22の標準体型で、身体を動かすのは週に4、5時間ほどという「ごく普通」の学生たちだ。
 参加者は抽象的な形の配列を記憶し、再現するプログラムを40分間こなし、直後に1回目の記憶テストを行った。その後、無作為に3グループに分けられた。
  (a)学習直後に運動する群
  (b)4時間後に運動する群
  (c)運動しない群
 運動はエアロバイクを使った有酸素運動。ペダルを踏みながら会話ができる程度の強度(最大心拍数の60%)で2~3分、続いてアゴが上がる強度(最大心拍数の80%)で5分間ペダルを漕ぐというインターバルトレーニングを35分間行った。
 被験者は、学習し終えた48時間後に2回目の記憶テストと同時に、脳の活動領域を画像かするMRI検査を受けた。
 2回目のテストの結果、(b)群が48時間後の記憶をもっとも保持していたことが示された。さらに、(b)群のMRI画像で、長期記憶と学習を掌る「海馬体」が活性化されていることが分かった。

 (3)研究者は、「学習後に適当な時間をおいて運動すると、長期記憶が改善する」としているが、メカニズムは不明のまま。
 動物実験では、高い強度の運動時に分泌されるドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が記憶の定着に一役買っていると指摘されている。ただし、肝心の「なぜ間をおくとよいのか?」という疑問の回答は見当たらない。
 とにかく、「よく学び、よく遊べ」という順番には一面の真理があるらしい。涼しい午前中に勉強し、その後、夏の夕暮れを楽しみながら身体を動かすと、学習曲線が上昇するかもしれない。

□井出ゆきえ(医学ライター)「受験生を抱えるご両親へ/記憶の定着に4時間後の運動 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.310~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月30日号)
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 【参考】
【保健】飲む抗癌剤で生存率改善へ ~膵臓癌の再発を抑制~
【保健】恐竜も腫瘍を患う ~癌は進化の宿命~
【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~
【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い
【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~
【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~
【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク
【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 
【保健】ADHDに「ゲーム療法」?/2製品が臨床試験へ
【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~
【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~
【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~
【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~
【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~
【保健】歯磨きが心血管疾患を予防 ~毎食後で発症リスクを軽減~
【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~
【保健】糖尿病患者の降圧目標値 ~140mmHgでよい?~
【保健】睡眠不足でスナック菓子を渇望、体重増加 ~大麻並みの快楽
【保健】コーラ1缶で薬の吸収率がアップ ~抗癌剤の薬効~
【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~
【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~
【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~
【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~
【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~
【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高
【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~
【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~
【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~
【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~
【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~
【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~
【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
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【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話

2016年08月21日 | ●佐藤優
   
 ①エフライム・ハレヴィ(河野純治・訳)『イスラエル秘密外交 モサドを率いた男の告白』(新潮文庫 790円)
 ②岡本真太郎『悪意の心理学 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ』(中公新書 900円)
 ③佐藤優『君たちが知っておくべきこと』(新潮社 1,300円)

 (1)①は、元モサド(イスラエル諜報特務局)長官による歴史的価値のある回想録だ。ハレヴィは、歴代モサド長官の中でも「最も頭が良い男」として有名だ。シリアのバッシャール・アサド大統領の父、ハーフェズ・アサド前大統領の国家戦略について次のように指摘する。この路線が現在も踏襲されている。
 <シリアはモスクワとの関係を維持し、さらにイランとのつながりを深めた。ことにイランは国防・外交政策の面でたいへん重要な存在となった。パレスチナその他のテロ組織がシリア領内で活動していたため、それを抑え込むよう再三アメリカとイスラエルから要求されたが、シリアは受けいれようとしなかった>

 (2)②を読むと、舌禍の原因がよく分かる。
 <その場の一般的な聴衆だけを念頭に置いており、そうした発言を聞いて傷つくターゲットもいるということを十分に考えなかった可能性がある。しかし聴衆の中にもいろいろな人が混ざっている。それにその場にいなかった人たちにも、内容が伝えられていく可能性が大きい。ツイッター等インターネットもそれを助長する。身内の講演会などではとくにこうした間違いが生じやすいが、記者会見でもこうした問題は起きる>
 少し考えてみれば当たり前のことだが、政治家はついその場の雰囲気にのまれてしまい、舌禍を引き起こすのだ。

 (3)③は、作家を訪ねた灘高生とのユニークな対論だ。佐藤優は、
 <いわゆる超エリート高校の生徒というと、受験勉強以外のことは何もしていないという間違えたイメージで見られることが多い。灘高の生徒たちと話していて感じたのは、この少年たちは、受験勉強のような技術的な事柄は、短時間かつ効率的にこなした上で、自ら知性と人間力を伸ばす内在的な力を持っていることだ。東大進学者数の推移に一喜一憂するとうな「受験刑務所」型の高校とは、質的にまったく異なる、他人の気持ちになって考えることができ、自らの知的好奇心に基づいて、大学、場合によっては大学院レベルの学術的な専門事項についても消化することができる傑出した人間を形成するところに灘の教育の本質があるのだと思った>
 と指摘するが、まさにこのような「未来のエリート」を育てる環境を日本社会がつくれるかどうかで、この国の命運が異なってくる。反知性主義が社会にとっていかに危険であるかを知る点でも重要な作品だ。また、子どもや孫にどのような教育を受けさせるべきかという観点からも興味深い内容が多々含まれている。

□佐藤優「反知性主義がいかに危険か ~知を磨く読書 第162回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年8月27日号)
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【保健】合成甘味料入りで水分補給に不適 ~機能性ウォーター~

2016年08月20日 | 医療・保健・福祉・介護
  《甲》アサヒ飲料「アミールウォーター300」
  《乙》味の素ゼネラルフーヅ「アシストウォーター」
  《丙》コカ・コーラカスタマーマーケッティング「アクエリアスウォーター」
  《丁》富士キャニング「アクアウォーター」

 (1)《甲》は、トクホ(特定保健用食品)の「アミールS」のウォーター版。いま急増している機能性表示食品の一つ。ボトルには「血圧が高めの方の水分補給に」と大きく表示され、「本品には『ラクトトリペプチド』(VPP、IPP)には血圧が高めの方に適した機能があることが報告されています」という届出表示がある。
 ラクトトリペプチドとは、乳酸菌飲料に含まれるポリペプチド(アミノ酸がいくつか結合したもの)で、腎臓内の血圧を上昇させる酵素の働きを封じ、腎臓内の血圧上昇を抑えて血圧を低下させる。
 しかし、水代わりにはできない。この製品は危険性が高い。なぜなら、低カロリーにするために合成甘味料のスクラロース、アセスルファムK、アスパルテームが添加されているからだ。

 (2)①スクラロース、②アセスルファムK、③アスパルテームは三悪甘味料だ。
 ①は、妊娠したウサギに体重1kg当たり0.7gを強制的に食べさせた実験では、下痢を起こして、それに伴う体重減少が見られ、死亡や流産が一部で見られている。5%を含む餌をラットに4週間食べさせた実験では、胸腺や脾臓のリンパ組織の萎縮が認められた。脳にまで入り込むことも分かっている。
 ②は、自然界に存在しない科学合成物質で、砂糖の200倍の甘味がある。しかし、イヌに②を0.3%および3%を含む餌を2年間食べさせた実験では、
   0.3%群→リンパ球が減少
   3%群→GPT(肝臓障害の際に増える)の増加とリンパ球の減少
が認められた。つまり、肝臓や免疫に対するダメージが心配される。また妊娠したネズミを使った実験では、②が胎児に移行した。
 ③は、アミノ酸のL-フェニルアラニンとアスパラギン酸、そして劇物のメチルアルコールを結合させて作ったもの。砂糖の180~220倍の甘味がある。米国では1981年に使用が認められた。しかし、③を摂ったヒトたちから、頭痛、めまい、不眠、視力・味覚障害などを起こしたという苦情が寄せられた。体内で分解し、劇物のメチルアルコールができたためと推定されている。
 さらに、1990年代後半には複数の研究者によって、③が脳腫瘍を起こす可能性があると指摘された。また、2005年にイタリアで行われた動物実験では、③によって白血病やリンパ腫が発生することが認められ、人間が食品から摂っている量に近い量でも異常が観察された。

 (3)試しに《甲》を口に含んでみると、渋いような苦いような変な甘さを感じさせ、さらに舌を刺激してしびれ感を覚えさせ、そのしびれ感は長時間続く。飲み込んだ場合、消化管の粘膜が刺激される恐れがある。
 《丁》にも(2)-①スクラロース、②アセスルファムKが添加されているので同様な恐れがある。

 (4)《乙》は、「脂肪の吸収を抑える/腸内の環境を整える」というトクホだ。水にコーヒー豆から抽出したマンノオリゴ糖を溶かしたもので、それの働きによって2つの効果があるという。しかし、これを毎日水代わりに飲み続けると、常にコーヒー豆の成分を摂取することになる。それを長期間続けた場合、体がどのような影響を受けるのか、不明だ。

 (5)《丙》は、テレビCMではこれを飲むと「アクティブになる」と謳っているが、その根拠が不明だ。「海塩由来のミネラル」と表示しているが、これはナトリウムのことにすぎない。ほかに、糖類やグレープフルーツ果汁、酸味料が入っているだけ。これでアクティブになると宣伝するのは、景品表示法の優良誤認(実際のものより著しく優良であると示すこと)の疑いがある。

□渡辺雄二「合成甘味料が入っていて水分補給に不適な「機能性ウォーター」 ~新買ってはいけない 222~」(「週刊金曜日」2016年7月15日号)
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