就職活動によく使われる言葉である「貴社キシャ」「御社おんシャ」「弊社ヘイシャ」の違いは何でしょうか。どうしてこれらの字が使われるのでしょうか。
貴 キ・たっとい・とうとい・たっとぶ 貝部
解字 篆文の上部は、逆Y字形のものを両手で持つかたち。遣ケンの字では、下の㠯(𠂤タイの変化形=祭肉)を持つ形であり、貴では、下の貝(財貨)を両手で持つ形。貴重なものを持つことから、転じて、とうとい意となる。現代字は上部が「中+一」の形に変化した。
意味 (1)とうとい(貴い)。たっとい。身分や価値が高い。「高貴コウキ」「貴金属キキンゾク」 (2)たっとぶ(貴ぶ)。とうとぶ。 (3)相手への敬意を表す語。「貴殿キデン」「貴社キシャ」(相手方の会社の尊敬語)
御 ギョ・ゴ・おん 彳部
解字 甲骨文字はひざまずいた人が杵(きね)形の信仰対象物に祈っているかたち。人に降りかかる災厄をふせぐ祈りで禦ギョ(ふせぐ)の原字とされる。杵形の信仰対象物は二種が描かれている。金文第1字は杵形の中央がへこんだ新しいタイプ。第二字は杵形の上部ふくらみが横斜めの「𠆢」に変化し、彳(ゆく)と止(あし:あるく)が付いた。「彳+止(あし)」は足で進む意であり、杵形の信仰対象物は貴人の動きを示す形に変化し、天子と諸侯の行為や所有物に添える敬語の意味になった。字形は金文の止が、篆文で杵形の下につき、現代字の御へと変化した。
なお、御の発音ギョは馬をあやつる馭ギョに通じ、金文の時代から馬や馬車をあやつる意や、その仕事をする官名などの意になっている。
意味 (1)天子と諸侯の行為や所有物にたいする敬語。「御幸ギョコウ・みゆき」(天子の外出。行幸)「御衣ギョイ」(天子の衣服)「御璽ギョジ」(天子の印)「御物ギョブツ」 (2)[国]おん(御)。お(御)。ご(御)。尊敬または丁寧の意を表す語。「御意向ごイコウ」「御菓子おカシ」「御社おんシャ」(相手の会社にたいする尊敬語) (3)馬や馬車をあやつる。あやつり使いこなす。「御者ギョシャ」(①馬や馬車をあやつる人。②従者)「制御セイギョ」「統御トウギョ」 (4)官吏。「御史ギョシ」(中国の官名。時代により役割が異なる)「女御ニョウゴ」(女官) (5)ふせぐ。まもる。「防御ボウギョ」(=防禦)
敝ヘイと弊ヘイ
敝 ヘイ・やぶれる 攵部
解字 甲骨文第1字は、布の象形である巾と道具を手に持った手の形である攴ボクに従い、布を打ってぼろぼろにして破るさま。第2字は布の破片を表す小点を加えた形[甲骨文字辞典]。しかし、意味は地名になっている。篆文は布の破片がハに変わり、巾の上下にハを配し横に攴を付けた。現代字は攴⇒攵に変化した敝になった。意味は、やぶれる意のほか、つかれる・自分への謙称となる。
意味 (1)やぶれる(敝れる)。やぶる。こわれる。ぼろぼろになる。「敝衣ヘイイ」(やぶれた着物)「敝履ヘイリ」(やぶれた履き物)「敝屋ヘイオク」 (2)つかれる。よわる。おとろえる。 (3)自分のことにつける謙称。「敝国ヘイコク」(自分の国の謙称)
弊 ヘイ・やぶれる・ついえる 廾部
解字 旧字は「廾(両手)+敝(打ってだめにする)」の会意形声。この字は古くは敝ヘイの下に「犬」や「大」を付けていたが、楷書から廾が付いた弊があらわれ、この字が一般的になった。意味は音符字である敝とほとんど同じであり、敝の代わりに弊が使われることが多い。従って下に犬や大がついた字を解字しても紛らわしくなるだけであり省略した。「敝にさらに廾キョウ(両手)をつけて、意味を明確にした」と覚えればよいと思う。この字は新字体で左上部がハ⇒ソに変化する。
意味 (1)やぶる。やぶれる(弊れる)。「弊衣ヘイイ」(=敝衣。やぶれた衣)「弊履ヘイリ」(はき古した履物) (2)つかれる。「疲弊ヒヘイ」 (3)わるい。よくない。「弊害ヘイガイ」「語弊ゴヘイ」(誤解をまねきやすい言い方) (4)ついえる(弊える)。負けてくずれる。たおれる。 (5)自分を謙遜する語。「弊居ヘイキョ」(粗末な住宅。拙宅)「弊店ヘイテン」「弊社ヘイシャ」
まとめ
貴社キシャは、相手の会社に対する尊敬語。
御社おんシャも、相手の会社に対する尊敬語であるが、この語が使われだしたのは比較的新しく1990年代からとされる。先日(2021年1月末)NHKテレビで昭和50年代の学生の就職活動が紹介されていたが、学生がリクルートスーツを着るようになってから、「御社」という言葉が流行りだしたそうである。それまで学生は学生服を着て面接に臨んでいた。私もその年代で、当時「御社」という言葉は聞いたことがなかった。
弊社ヘイシャは、自分を謙称する弊に社をつけた語。この言葉は比較的古くから使われ、「日本国語大辞典」には明治9年8月3日の「郵便報知新聞」に「弊社新築の石造室が竣工した」という記事があるという。また、昭和10年編集の「大言海」にも「弊社ヘイシャ 己(おのれ)ノ会社ナドノ謙称」と出ている。しかし、「貴社」はない。
因みに私の持っている昭和43年発行の「広辞苑」には、「貴社キシャ 他の社の敬称」「弊社ヘイシャ 自分の社の謙称」と出ているが「御社おんシャ」の項はない。
私は「弊社」という言葉は好きでない。それは「敝」「弊」という漢字が、その成り立ちから分かるように、布をたたいて破るという意味の語であるからである。弊社というと、私には、へりくだりすぎる感じがする。中国ではどんな漢字を使っているのか調べてみると、弊社は我们(們)公司(wǒmen gōng sī)である。(敝公司bì gōng sī という言い方もあるそうだ)。弊社の代わりに使っても良いと思われる当社も我们公司。貴社は贵公司(guì gōng sī)、御社も贵公司で、日本と同じく貴を使っている。
貴 キ・たっとい・とうとい・たっとぶ 貝部
解字 篆文の上部は、逆Y字形のものを両手で持つかたち。遣ケンの字では、下の㠯(𠂤タイの変化形=祭肉)を持つ形であり、貴では、下の貝(財貨)を両手で持つ形。貴重なものを持つことから、転じて、とうとい意となる。現代字は上部が「中+一」の形に変化した。
意味 (1)とうとい(貴い)。たっとい。身分や価値が高い。「高貴コウキ」「貴金属キキンゾク」 (2)たっとぶ(貴ぶ)。とうとぶ。 (3)相手への敬意を表す語。「貴殿キデン」「貴社キシャ」(相手方の会社の尊敬語)
御 ギョ・ゴ・おん 彳部
解字 甲骨文字はひざまずいた人が杵(きね)形の信仰対象物に祈っているかたち。人に降りかかる災厄をふせぐ祈りで禦ギョ(ふせぐ)の原字とされる。杵形の信仰対象物は二種が描かれている。金文第1字は杵形の中央がへこんだ新しいタイプ。第二字は杵形の上部ふくらみが横斜めの「𠆢」に変化し、彳(ゆく)と止(あし:あるく)が付いた。「彳+止(あし)」は足で進む意であり、杵形の信仰対象物は貴人の動きを示す形に変化し、天子と諸侯の行為や所有物に添える敬語の意味になった。字形は金文の止が、篆文で杵形の下につき、現代字の御へと変化した。
なお、御の発音ギョは馬をあやつる馭ギョに通じ、金文の時代から馬や馬車をあやつる意や、その仕事をする官名などの意になっている。
意味 (1)天子と諸侯の行為や所有物にたいする敬語。「御幸ギョコウ・みゆき」(天子の外出。行幸)「御衣ギョイ」(天子の衣服)「御璽ギョジ」(天子の印)「御物ギョブツ」 (2)[国]おん(御)。お(御)。ご(御)。尊敬または丁寧の意を表す語。「御意向ごイコウ」「御菓子おカシ」「御社おんシャ」(相手の会社にたいする尊敬語) (3)馬や馬車をあやつる。あやつり使いこなす。「御者ギョシャ」(①馬や馬車をあやつる人。②従者)「制御セイギョ」「統御トウギョ」 (4)官吏。「御史ギョシ」(中国の官名。時代により役割が異なる)「女御ニョウゴ」(女官) (5)ふせぐ。まもる。「防御ボウギョ」(=防禦)
敝ヘイと弊ヘイ
敝 ヘイ・やぶれる 攵部
解字 甲骨文第1字は、布の象形である巾と道具を手に持った手の形である攴ボクに従い、布を打ってぼろぼろにして破るさま。第2字は布の破片を表す小点を加えた形[甲骨文字辞典]。しかし、意味は地名になっている。篆文は布の破片がハに変わり、巾の上下にハを配し横に攴を付けた。現代字は攴⇒攵に変化した敝になった。意味は、やぶれる意のほか、つかれる・自分への謙称となる。
意味 (1)やぶれる(敝れる)。やぶる。こわれる。ぼろぼろになる。「敝衣ヘイイ」(やぶれた着物)「敝履ヘイリ」(やぶれた履き物)「敝屋ヘイオク」 (2)つかれる。よわる。おとろえる。 (3)自分のことにつける謙称。「敝国ヘイコク」(自分の国の謙称)
弊 ヘイ・やぶれる・ついえる 廾部
解字 旧字は「廾(両手)+敝(打ってだめにする)」の会意形声。この字は古くは敝ヘイの下に「犬」や「大」を付けていたが、楷書から廾が付いた弊があらわれ、この字が一般的になった。意味は音符字である敝とほとんど同じであり、敝の代わりに弊が使われることが多い。従って下に犬や大がついた字を解字しても紛らわしくなるだけであり省略した。「敝にさらに廾キョウ(両手)をつけて、意味を明確にした」と覚えればよいと思う。この字は新字体で左上部がハ⇒ソに変化する。
意味 (1)やぶる。やぶれる(弊れる)。「弊衣ヘイイ」(=敝衣。やぶれた衣)「弊履ヘイリ」(はき古した履物) (2)つかれる。「疲弊ヒヘイ」 (3)わるい。よくない。「弊害ヘイガイ」「語弊ゴヘイ」(誤解をまねきやすい言い方) (4)ついえる(弊える)。負けてくずれる。たおれる。 (5)自分を謙遜する語。「弊居ヘイキョ」(粗末な住宅。拙宅)「弊店ヘイテン」「弊社ヘイシャ」
まとめ
貴社キシャは、相手の会社に対する尊敬語。
御社おんシャも、相手の会社に対する尊敬語であるが、この語が使われだしたのは比較的新しく1990年代からとされる。先日(2021年1月末)NHKテレビで昭和50年代の学生の就職活動が紹介されていたが、学生がリクルートスーツを着るようになってから、「御社」という言葉が流行りだしたそうである。それまで学生は学生服を着て面接に臨んでいた。私もその年代で、当時「御社」という言葉は聞いたことがなかった。
弊社ヘイシャは、自分を謙称する弊に社をつけた語。この言葉は比較的古くから使われ、「日本国語大辞典」には明治9年8月3日の「郵便報知新聞」に「弊社新築の石造室が竣工した」という記事があるという。また、昭和10年編集の「大言海」にも「弊社ヘイシャ 己(おのれ)ノ会社ナドノ謙称」と出ている。しかし、「貴社」はない。
因みに私の持っている昭和43年発行の「広辞苑」には、「貴社キシャ 他の社の敬称」「弊社ヘイシャ 自分の社の謙称」と出ているが「御社おんシャ」の項はない。
私は「弊社」という言葉は好きでない。それは「敝」「弊」という漢字が、その成り立ちから分かるように、布をたたいて破るという意味の語であるからである。弊社というと、私には、へりくだりすぎる感じがする。中国ではどんな漢字を使っているのか調べてみると、弊社は我们(們)公司(wǒmen gōng sī)である。(敝公司bì gōng sī という言い方もあるそうだ)。弊社の代わりに使っても良いと思われる当社も我们公司。貴社は贵公司(guì gōng sī)、御社も贵公司で、日本と同じく貴を使っている。