漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「僉[㑒]セン」<多くの人があつまる>と「簽セン」「倹ケン」「剣ケン」「険ケン」「検ケン」「験ケン」「瞼ケン」「鹸ケン」「嶮ケン」「臉ケン」「斂レン」「匳レン」

2021年11月12日 | 漢字の音符
 セン・ケン・みな  人部

解字 僉は単独での出現は篆文(説文解字)以降であるが、他の音符字には金文から見える。金文は剣[劍]から僉の部分を取り出した。字形はA(屋根)の下に兄が二人並んださま。兄は「口+人」で、人が祝詞(のりと)を唱えるようすを表す。戦国(秦)の文字は、屋根が∧になり、兄兄の下に曰エツ(いう)が付いて、唱えるさまを表している。篆文は、屋根が亼に変わった僉となった。[説文解字]は「皆なり」としている。[字統]は、二人並んで祝祷(祈祷)する形であり神事に関する字であるとする。また、金文は剣ケンを僉ケンに作っており古くはケンの声があったのであろう、としている。新字体で用いられるときは、僉⇒㑒に変わる。
意味 みな(僉)。ともに。ことごとく。「僉議センギ」(多人数の人による評議。衆議)

イメージ 
 「多くの人」(僉・斂・瞼)
  多くの人が「あつまる」(検・験・鹸)
 「形声字」(剣・険・嶮・倹・簽・匳・臉)
音の変化  セン:僉・簽  ケン:検・験・瞼・鹸・剣・険・嶮・倹・臉  レン:斂・匳 

多くの人
 レン・おさめる  攵部

解字 金文は「僉(多くの人)+曰エツ(いう)+攴ボク(手に棒状のものを持ち打つ形)」で、集まって祝詞を唱えている人を打つ形。兄兄の両側や間にタテ線が描かれているが、叩かれた衝撃か。金文の意味は、賦税フゼイ(税を賦課する)、および労役の意で、つまり斂は租税の意味になっている[簡明金文詞典]。篆文は曰エツが取れた形で[説文解字]は、「収める」としている。現代字は攴⇒攵に変化した斂になった。発音は、センがレンに変化した。
意味 (1)あつめる(斂める)。とりいれる。徴収する。「貲材を斂(あつ)め以て其の行(コウ)を送る」(資材を集めて彼らの出発を見送った。)「斂穫レンカク」(穀物の取入れ)「苛斂カレン」(租税など苛酷に取り立てる)「苛斂誅求カレンチュウキュウ」(租税などをきびしくとりたてる) (2)おさめる(斂める)。かたずける。しまう。「斂手レンシュ」(①手をひっこめる。②両手を組む)「斂足レンソク」(足をおさめて進まないさま) (3)死者のなきがらをおさめる。「斂葬レンソウ」(死者を地中に葬ること)「斂殯レンビン」(死体を納棺して安置する) (4)「収斂シュウレン」とは、①作物をおさめる(収穫する)、②租税をとりたてる意であったが、近年は数学用語で、③ある一つの値に限りなく近づくこと。生物学で、④発生の異なる生物の器官が似てくること(例:鳥の翼と昆虫の羽)、の意で使われる。
 ケン・まぶた  目部  
解字 「目(め)+僉(=斂。おさめる)」 の会意形声。目玉をおさめる覆い。
意味 まぶた(瞼)。目をおおっておさめる瞼まぶた。眼球の表面をおおって開閉する「目の蓋」(まなこのふた⇒まなこ)。「眼瞼ガンケン」(まぶた)「花瞼カケン」(美しいまぶた。美人のまぶた)「瞼(まぶた)の母」(瞼を閉じると浮かぶ母の姿)
 ケン・レン  月部にく
解字 「月(にく)+僉(=瞼。まぶた)」の会意形声。まぶたの下の肉で、ほおを言ったが、のち顔全体や体面を言うようになった。現代中国で、顔は顔料(色)の意味で用いられることが多く、かおの意は臉がよく使われる。
意味 (1)ほお(臉)。かお(臉)。「花臉カケン」(花のように美しいかお)「紅臉コウケン」(紅いほお、転じて赤いかお・美人のかお)「変臉ヘンレン」(中国の川劇センゲキ(四川省の劇)で行われる、劇中に登場人物が一瞬に面を変える技) (2)体面。面子。

あつまる
 ケン・しらべる  木部
解字 旧字は檢で「木(木ふだ)+僉(あつめる)」の会意形声。役所で集めた竹簡や木簡の文書を先方に送るため、宛先別にひとまとめにし、木ふだに宛先などを書き、紐をつけて括ること。発送する者や受け取った者が、木ふだを見て確認することから、しらべる・あらためる意となる。また、しらべる意からさらに転じて、とりしまる意となった。新字体は、檢⇒検に変化。
意味 (1)しらべる(検べる)。あらためる(検める)。「検査ケンサ」「検閲ケンエツ」 (2)とりしまる。ただす。拘束する。「検束ケンソク」(取り締まりを行い行動を抑制する)
 ケン・ゲン・ためす  馬部
解字 旧字は驗で「馬(うま)+僉(あつめる)」の会意形声。集めそろえた馬を乗り比べてためすこと。僉は神事に関する字でもあることから、「霊験レイゲン」(神仏などのしるし)などの意ともなる。新字体は、驗⇒験となる。
意味 (1)ためす(験す)。しらべる。こころみる。「試験シケン」「実験ジッケン」 (2)しるし(験)。あかし。効果。「霊験レイゲン」(神仏などのしるし)「効験コウケン」(ききめ)
 ケン  鹵部 
解字 本字はで「鹵(塩地)+僉(あつまる)」の会意形声。鹵は天然の塩地の意で、それに僉(あつまる)がついた鹸は、あつまった純粋な塩分のこと。また、塩分は藻(も)などを焼いても作れるので、草木灰および、その灰から作るあく(灰汁)の意ともなる。
意味 (1)しおけ。地質にふくまれる塩分。塩の析出成分。 (2)あく(灰汁)。灰を水にとかした上澄み液。アルカリ性なので洗剤となる。「石鹸セッケン」(あたためた油脂に灰汁を入れてかため石のようにした洗剤。いわば固形アルカリ) (3)アルカリ。水溶性の塩基。「鹸性ケンセイ」(アルカリ性)

形声字
剣(劍)[劒・劔] ケン・つるぎ  刂部

解字 金文第1字は「金(金属)+僉ケン」の形声。ケンという名の金属(ここでは青銅)の、つるぎ(剣)をいう。第2字は兄兄の下部に二本線をいれ、二人が一体化していることを表し細長いつるぎを意味させたものであろう。篆文は金の代わりに刃を付けた字。刃は刀の切る部分である薄く鋭い部分のこと。この刃が両側にあるつるぎを表す。のち、刃⇒刂(刀)に変化した旧字の劍をへて、新字体は剣となった。劒ケン・劔ケンは異体字。
意味 (1)つるぎ(剣)。刀を使う術。「剣士ケンシ」「剣道ケンドウ」(2)つるぎのように先のとがったもの「剣山ケンザン」(生け花で花を挿すのに使う道具)「剣玉ケンだま」(3)神社名。「石切劔箭つるぎや神社」(東大阪市の生駒山麓に鎮座する神社。社号は祭神の神威が強固な岩をも切り裂き、貫き通すほど偉大な様をあらわしている)
 ケン・けわしい  阝部
解字 旧字は險で「阝(丘)+僉(=劍の略体)」の形声。つるぎを横にした刃のような阝(丘)の意で、傾斜が急で登るのにむずかしい丘をいう。新字体は、險⇒険となる。
意味 ①けわしい(険しい)。傾斜が急なけわしい地形。「険峻ケンシュン」「険路ケンロ」「険阻ケンソ」(2)あやうい。あぶない。「危険キケン」「保険ホケン」(人が危険に陥ったとき保障する制度) (3)とげとげしい。「険悪ケンアク
 ケン・けわしい  山部
解字 「山(やま)+僉(=険。けわしい)」の会意形声。けわしい山で、けわしい意。
意味 けわしい。山の切り立っているさま。「嶮路ケンロ」(けわしい山路)
 ケン・つましい  イ部
解字 旧字は儉で「イ(人)+僉(ケン)」の形声。ケンは兼ケン(かねる)に通じ、一つのものをいろんな用途に兼ねて用い、贅沢をしないこと。新字体は、儉⇒倹となる。
意味 (1)つましい(倹しい)。つづまやか。「倹約ケンヤク」「勤倹キンケン」(勤勉で倹約する) (2)へりくだる。ひかえめ。「恭倹キョウケン」(人にうやうやしく、自分の行ないは慎み深い)
 セン・ふだ  竹部
解字 「竹(竹簡)+僉(セン)」の形声。センは箋セン(薄い竹のふだ)に通じ、ふだをいう。また、ふだに署名すること。
意味  (1)ふだ(簽)。見出しを書いてつける。また、表題。「題簽ダイセン」(和漢書の表紙に貼った書名を書いた細長い紙=題箋) (2)署名する。「簽押センオウ」(署名捺印する)「簽書センショ」(署名を書く)
 レン・はこ  匚部
解字 「匚ホウ(はこ)+僉(レン)」の形声。レンは斂(おさめる)に通じ、物をおさめるはこ。特に化粧品や小物を容れる容器をいう。
意味 (1)はこ(匳)。化粧用具を容れる小箱。くしげ(櫛笥)。鏡ばこ。「鏡匳キョウレン」(鏡や化粧品をいれるはこ)「香匳コウレン」(香をいれるはこ)
<紫色は常用漢字>

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