漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「戈カ」 <おのほこ> と 「戍ジュ」

2021年12月25日 | 漢字の音符
「おのほこ(戈)」の提唱 
 漢字の「ほこ」には2種類ある。ひとつは先がまっすぐな槍のかたち。もうひとつは先が柄と直角についているオノ(斧)の形である。やり形の「ほこ」には矛・鋒ホウ・鉾ボウがあり、おの形の「ほこ」には戈がある。
 そこで私は両者を区別するために「やりほこ」と「おのほこ」という言い方を提唱したい。おの(斧)は木を伐ったり割る道具である。鉄の刃は柄の先に直角に付いている。「おのほこ」は刃が直角に付いている「ほこ」である。

 カ・ほこ  戈部
 戈の刃先
https://kknews.cc/zh-sg/culture/jz29ooq.html

 
左は戈の各部分図(百度の図検索サイトより)。右はウィキペディアの写真から 
 甲骨文字は長い柄を持ち、先端に柄と直角に穂先が取り付けられた武器の象形。穂先の後部が柄の反対側にも出ている。柄の先端の右横線は部分図にみえる柄頭の冠(柲帽ヒボウ)。柲帽ヒボウには、鳥の形をしたものが多い。また柄尻は誇張して描いている。金文は柄尻を三本足にした。篆文は柄頭に反転したLがつき、下部は三本足⇒ノに変化、現代字は上の反転L⇒点になった戈。
意味 (1)ほこ(戈)。長い柄の先端に、柄と直角に両刃の穂先がついた武器。「戈甲カコウ」(ほことよろい)「干戈カンカ」(干たてと戈ほこ。武器。戦争)「偃戈エンカ」(戈をふせる。戦争をやめる) (2)いくさ。戦争。「戈船カセン」(いくさ船)
参考 矛は部首「戈ほこづくり・かのほこ」になる。漢字の旁つくり(右辺)について、武器や武器を用いた行動を表す。『新漢語林』では、49字が掲載されている。主な字は以下のとおり。
戈カ(部首):
 戯ギ・たわむれる(戈+音符「虚キョ」)
 戍ジュ・まもる(人+戈の会意)
 部首「戈」に属し音符となる字
 戎ジュウ・戌ジュツ・成セイ・我ガ・戒カイ・或イキ・戔セン・戚セキ・戠ショクなど。

イメージ 「ほこ」(戈・戍・找)
音の変化  カ:戈  ジュ:戍  找:ソウ

ほ こ
 ジュ・まもる  戈部

解字 甲骨文字から篆文まで「人+戈(オノほこ)」の会意。人が武器の戈を背負っている形。武器を背負う兵士の意から、甲骨文字では軍隊の意味で使われた。金文は守る意味が強い守衛の意味となり、以後、国境をまもる意が中心となった。現代字は人と戈が連続した戍となり、戊の中に点があるかのような字形になった。
意味 まもる(戍る)。武器を持って国境をまもる。「戍卒ジュソツ」(国境をまもる兵士)「戍楼ジュロウ」(国境守備隊の見張りやぐら)「衛戍エイジュ」(軍隊が永く一つの土地に駐屯する)「戍徭ジュヨウ」(国境をまもる兵役=徭役)
 ソウ・カ  扌部
解字 「扌(て)+戈(ほこ)」の会意形声。戈を手でもち使う動作をいい、この動作を舟の棹や櫂を動かす動作にたとえた(私見)。中国では口語で、さがす意でよく用いられる。
意味 (1)さおさす(找す)。舟をすすめる。 (2)たずねる(找ねる)。(舟をすすめて)たずねさがす。「尋找ジンソウ」(たずねさがす) 

戈カは、どう使ったのか?

戦車の上で戈カを持つ戦士(篠田耕一著『武器と防具 中国編』の表紙より)
 戈は、江戸時代の消防用具のトビのような形をしている。実際にどう使ったのであろうか。篠田耕一著『武器と防具 中国編』には、「中国の戦車は3人乗りで両側の2人が戈を使った。戈を両手で使い戦車がすれちがうときに敵の戦士に向けて、その刃を打ち込むか引っかけて斬る方法で使用した。戦車がすれちがって闘う場合、矛で直線的に突くより戈のほうが命中の機会が多く、戦車のスピードも利用できるためだった」と書かれている(なお、ウイキペディアでは、「車左が弓矢、車右が戈を持つ」とする)。また、「しかし、漢になって戦車がすたれると、戈は戦車戦にあまりにも適した特性のため、すたれてしまった」という。
 上の絵画は同書の表紙絵で戈を持つ戦士が描かれている。しかし馬車は4頭立であり(通常は2頭)、右の戦士は弓を持っている。上記の文章と異なり誇張されているが、当時の戦場の雰囲気を感じ取ることができる。


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