漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「婁(娄)ロウ」<髪を巻きあげた女>「楼ロウ」「鏤ロウ」「螻ロウ」「髏ロ」「縷ル」「屢ル」「褸ル」「数スウ」「藪ソウ」

2025年01月01日 | 漢字の音符
婁[娄] ロウ・ル  女部 lóu 


参考図版・中国古代女性の巻きあげた髪型(中国ネットから)                          
解字 金文は女性の頭髪を(他人の)両手が結っているかたち。篆文第一字は説文古文で、金文から両手を省いた古いかたち。篆文第二字は髪の毛を高く巻き上げて重なったかたちで、髪の横につきでているのはカンザシか。この字をもとに現在の婁が成立した。
 髪の毛を巻き上げるには、まず長い髪を三つ編みにし、これを丸く巻いて上に重ねたと思われる。したがって、髪の毛が「かさなる」、三つ編みにした長い髪の毛が「つらなる」イメージがある。しかし「婁」単独では星座のひとつに仮借カシャ(当て字)されている。新字体になる時、婁⇒娄に変化する。
意味 (1)星座の名。たたら星。「婁宿ロウシュク」(たたら星。二十八宿のひとつ。西方白虎七宿の第2宿)(2)ひく(婁く)。摟ロウ・ひくに通じる。ひきよせる。「婁曳ルエイ」(ながくひく)(3)(髪の毛を巻いた形から)すきまがある。中空。すきま。から。「婁婁ロウロウ」(すきまだらけ。粗いさま)

イメージ 
 「仮借カシャ(婁)
 巻き上げた髪が「かさなる」(楼・数・藪)
 三つ編みにした髪が長く「つらなる」(縷・髏・屢)
 「形声字」(褸・鏤・螻)
 
音の変化  
 ロウ:婁・楼・鏤・螻  ロ:髏  ル:縷・屢・褸  スウ:数  ソウ:藪

かさなる
 ロウ・たかどの  木部 lóu 
解字 旧字は樓で「木(き)+婁(かさなる)」の会意形声。階をかさねた木造の建物。新字体は、樓⇒楼に変化。

武雄温泉楼門(国指定重要文化財)
意味 (1)たかどの(楼)。高い建物。「楼閣ロウカク」「楼門ロウモン」(二階造りの門)(2)やぐら。物見やぐら。「望楼ボウロウ」「楼櫓ロウロ」(敵を見るやぐら)「鐘楼ショウロウ」(かねつき堂)「摩天楼マテンロウ」(高層建築)(3)茶屋。料理屋。「酒楼シュロウ」「青楼セイロウ」(遊女屋)
 スウ・ス・シュ・かず・かぞえる  攵部 shù・shǔ・shuò

解字 金文は「髪を両手で結ってかさねた形+言(いう)」で、重ねた髪の結びを数えて言う形で、かぞえる意味を表す。篆文は「婁+攴」の形。[説文解字]は「計(かぞ)える也(なり)。攴に従い婁の聲(声)」とするが、日本語の発音は、スウ・ス・シュであることから、婁(かさなる)が意符であり、発音は攴シ⇒ス・シュ・スウへの変化、と考えられる。旧字は數となり、新字体は数になった。
意味 (1)かず(数)。かぞえる(数える)。「数学スウガク」「点数テンスウ」「数珠ジュズ」(珠たまを数える意。仏を礼拝するとき手にかける珠をつらねた用具)(2)いくらか。いくつか。「数回スウカイ」「数個スウコ」(3)めぐり合わせ。運命。「数奇スウキ」「命数メイスウ」(生命の長さ)(4)[国]「数寄スキ」とは、好き(スキ)の当て字で風流の道(茶の湯など)を好むこと。
藪[薮] ソウ・やぶ  艸部 sǒu・còu
解字 「艸(草木)+數(スウ⇒ソウ)」の形声。ソウは叢ソウ(あつまる)に通じ、草木がむらがり生えている所をいう。
意味 (1)やぶ(藪)。草・低木・竹などが生い茂っているところ。「藪入(やぶい)り」(奉公人が盆と正月に実家に帰ること。草木の茂った田舎に入るから)「藪蛇やぶへび」(藪をつついて蛇を出すこと)「藪医者ヤブイシャ」(野巫医ヤブイ」の略。野(田舎)で巫フ・ブ(呪術)で治療を行っている医者の意。転じて、医術の下手な医者)(2)さわ。沼地。鳥獣が集まるところ。「藪沢ソウタク」(草木が生い茂る沼沢)

つらなる
 ル  糸部 lǚ
解字 「糸(いと)+婁(つらなる)」の会意形声。糸がながくつづくさま。また、絶えずに続くさま。
意味 (1)いと。いとのように長いもの。いとすじ。「一縷イチル」(わずかにつながるさま)「一縷の望み」(2)絶えずに続くさま。「縷縷ルル」(①絶えずにつづく。②こまごまとくわしく述べる)「縷言ルゲン」(こまごまと詳しく言う=縷縷ルル
 ロ・ロウ  骨部 lóu
解字 「骨(ほね)+婁(つらなる)」の会意形声。骨がつらなる形で骨ばかりとなった死骸の意。
意味 髑髏ドクロ(されこうべ)に使われる字。ドクは「骨+蜀(=獨。はなれる)」で、はなれた骨。髑髏とは野ざらしとなって、つらなる死骸のなかで、はなれた頭蓋骨をいう。されこうべ。しゃれこうべ。(「され」は、さらす(晒す)意で、「されこうべ」は日光や風雨に晒された頭骨の意。しゃれこうべは、その転音)。
屢[屡] ル・しばしば  尸部 lǚ
解字 「尸(亡き死者に代わって座る人)+婁(つらなる)」の会意形声。尸は、人が椅子に腰かけた姿勢の象形。祖先の祭祀の時に亡き死者に代わって近親者が椅子に座った姿をいう。それに婁(つらなる⇒連続する)がついた屢は、祭祀で死者の位置につくことが続く、そうした祭祀がしばしばある意。新字体に準じた屡も使われる。
意味 しばしば(屢)。たびたび。「屢次ルジ」(たび重なること。しばしばあること)「屢述ルジュツ」(何度も述べること。繰り返し述べる)「屢雨しばあめ」(時おりさっと降る雨。にわか雨)

形声字
 ル・ぼろ・つづれ  衤部  lǚ・lóu
解字 「衣(ころも)+婁(ル)」の形声。使い古して破れた衣や、それをつぎはぎした衣を褸という。
意味 ぼろ(褸)。つづれ。破れたのをつぎはぎした衣。ぼろぎれ。「襤褸ランル・ぼろ」(ぼろきれ。襤も褸も、ぼろの意)「襤褸(ぼろ)をまとう」
 ロウ・ル・ちりばめる・きざむ  金部 lòu・lǘ
解字 「金(金属)+婁(ロウ)」の形声。金属に模様をこまかく彫りこんで、ちりばめることを鏤ロウという。
意味 (1)ちりばめる(鏤める)。技巧をこらす。「鏤句ロウク」(技巧をこらして句をつくる)(2)きざむ(鏤む)。きざみつける。「鏤刻ロウコク」「鏤骨ルコツ・ロウコツ」(①骨に刻んで忘れないこと。②骨に刻み込むような苦労)「鏤氷ロウヒョウ」(氷を刻んで模様をつくる。無駄で効果がないこと)「鏤塵ロウジン」(塵ちりにきざむ)「吹影鏤塵スイエイロウジン」(影を吹き塵にきざむ。無意味な努力のこと)
 ロウ・ル  虫部 lóu
解字 「虫(むし)+婁(ロウ)」の形声。ロウという名の虫。「螻蛄ロウコ(けら)」に用いる。「螻蛄ロウコ」とは、けら科の昆虫。こおろぎの一種で、土の中にトンネルを掘り、作物の根を食う。おけら。

ケラ(螻蛄)(「温泉ドラえもんのブログ」より)
意味  おけら(螻蛄)。けら(螻蛄)。直翅目ケラ科の昆虫。体長は約3センチ。頭部と前胸は頑丈で、前足はモグラに似てくまで状をしている。地中に穴を掘ってすみ、昆虫や植物の根などを食べる。「螻蚓ロウイン」(ケラとミミズ)。「螻蟻ロウギ」(けらとあり。つまらぬもののたとえ)「螻蟻潰堤ロウギカイテイ」(けらやありが掘ったようなごく小さな穴でも、いずれは大きな堤防を壊してしまうことになる意)
<紫色は常用漢字>

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