漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「単タン」<二又の武器> と「簞タン」「憚タン」「弾ダン」「戦セン」「獣ジュウ」「嬋セン」「蟬セン」「禅ゼン」 

2023年12月05日 | 漢字の音符
  増補しました。
[單] タン・セン  ツ部

解字 甲骨文の初形は、二又になったY形の棒の先に矢じりなど尖ったものを装着した武器と思われる。のち二又の付け根に一や□、日などの付いた形に発展したが、これらは付け根を補強するかたちが発達したものと考えられる。(Yに口や日がついた形から盾とする見方もあり、私も以前この見解を取っていたが今回改めた)。単の音符のなかで、甲骨文からあるのは獣だけである。獣の甲骨文は「単(二又の武器)+犬」で、二又の武器を用い犬とともに狩りをするかたち。この字は狩シュの甲骨文字と同じでシュの発音で狩りを、ジュウの発音で狩りで獲たケモノを表している。
 しかし、単は甲骨文字で武器の意でなく、王都の郊外の地名として使われているという[甲骨文字辞典」。のち、この武器は一人がひとつ持つことから、ひとつ・ひとりとなったと思われ、さらに一つのまとまり、ただ・たんに等の意味にひろがった。字形は篆文・旧字で單となり、新字体で使われるとき、單⇒単に変化する。
意味 (1)ひとつ。ひとり。「単独タンドク」「単身タンシン」(2)ひとまとまり。「単位タンイ」(3)たんに。ただ。混じりけがない。「単調タンチョウ」「簡単カンタン」(4)ひとえの着物(=襌)。「単衣タンイ・ひとえぎぬ」(5)うすいもの。かきつけ。カード。「名単メイタン」(名刺)「伝単デンタン」(宣伝ビラ)

イメージ
 「ひとつ」
(単・襌・嬋・蟬)
 「二又の武器」(獣・戦・・闡)
 「形声字」(禅・簞・弾・憚) 
 「その他」(騨)
音の変化  タン:単・襌・簞・憚  ダン:弾  ダ:・騨  ジュウ:獣  セン:戦・嬋・蟬・闡  ゼン:禅 

ひとつ
襌[褝] タン・ひとえ  衣部
解字 「衤(ころも)+單(ひとつ)」 の会意形声。ひとえの衣。
意味 (1)ひとえ(襌)。裏地のない着物。「襌衣タンイ」(2)はだぎ。「襌襦タンジュ」(襌も襦も、はだぎの意)
 セン  女部
解字 「女(おんな)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの薄い衣を着たあでやかな女。
意味 あでやかで美しいさま。たおやかなさま。「嬋娟センケン」(美しくあでやかなさま=嬋妍センケン)「嬋媛センエン」(あでやかで美しい)
蟬[蝉] セン・ゼン・せみ  虫部
解字 「虫(むし)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの衣のような薄い羽をもつセミ。[説文解字]は「旁(かたわら)を以(もち)いて鳴く者(もの)。虫に従い單の聲(声)」とするが、実際は羽をお腹にこすり腹の中の共鳴室で大きくして鳴いている。また方言集の[揚子方言]は「蟬、楚で之(これ)を蜩と謂う」とし、蝉の方言の蜩チョウに言及している。
意味 せみ(蟬)。セミ科の昆虫の総称。「蟬時雨せみしぐれ」(蟬の鳴き声が時雨の音のように聞こえること)「蟬羽ゼンウ」(蟬のはね)「空蟬うつせみ」(蟬のぬけがら。転じて、魂がぬけた状態の身)「蟬脱センダツ」(①蟬のぬけがら。うつせみ。②世俗を抜け出る。=蟬蛻センゼイ。)「残蟬ザンセン」(秋の末まで生き残った蟬。秋の蝉)

二又の武器
 ジュウ・シュ・けもの  犬部

解字 甲骨文から金文まで、「單(二又の武器)+犬(いぬ)」 の会意。二又の武器をもち猟犬をつれて狩をすること。もと、狩りをする意で狩の原字(音符「守シュ」を参照)。篆文から単の下に口がついた形になり、旧字で単の下部の一が上下に分離した獸になり、新字体で獣となった。意味は狩りで獲たケモノの意。下部についた口の意味は分からないが、覚え方として、「單(二又の武器)+口(かこい)+犬(いぬ)」 で、二又を持ち犬とともに囲いに獲物を追いこんで捕まえたけもの、と解字すると覚えやすい。狩猟の意は同音代替字の狩シュが受け持ち、発音はシュ。ケモノの意はジュウの発音を用いる。
意味 (1)けもの(獣)。けだもの(獣)。しし(獣)。「猛獣モウジュウ」「野獣ヤジュウ」「怪獣カイジュウ」(2)狩りをする。
 セン・いくさ・たたかう  戈部
解字 金文から現われる字。旧字までは戰で「戈(ほこ)+單(二又の武器)」 の会意。戈(ほこ)を持った者と、單(二又の武器)を持った者が戦うこと。新字体で、戰⇒戦に変化した。
意味 (1)たたかう(戦う)。いくさ(戦)。試合。「戦争センソウ」「観戦カンセン」(2)おののく(戦く)。おそれる。ふるえる。そよぐ(戦ぐ)。「戦慄センリツ」(戦も慄も、おののく意)
 ダ・タ  黽部おおがえる
 春日大社の太鼓

解字 甲骨文は二股の武器である単の上部をつけた亀に似た水棲動物を描く。[甲骨文字辞典]は、①単タンを声符とする(ワニのような)動物。②二股の武器を口に持つワニのあごになぞらえた亦声エキセイ(会意形声)か、と推測しているが、原義での用例がなく吉凶語(おそらく凶の意)で用いられている、という。金文は鼉鼓ダコの皮の太鼓)の用例がある。篆文は「單+黽」の形になり、楷書から單の下の十⇒一になったになった。後漢の[説文解字]は、「水蟲なり。蜥蜴とかげに似たり。長さ丈ばかり」とありワニとしている。
意味 (1)揚子江わに。わにの一種。揚子江(長江)中下流に棲み現在も生息するが絶滅危惧種。以前、この皮で太鼓を作った。「江鼉コウダ」(揚子江わに)「鼉鳴ダメイ」(の鳴き声)「鼉太鼓ダダイコ」(ダの皮を張った太鼓。日本では屋外の舞楽演奏に用いる太鼓で、左方・右方で一対となり、周囲の火焔に左に龍、右に鳳凰を彫刻している)
 セン・ひらく  門部
解字 「門(もん)+單(二又の武器)」の会意形声。二又の武器で門をひらかせること。転じて、門を開いてあきらか・あきらかにする意となる。
意味 (1)ひらく(闡く)。あける。 (2)あきらか。あきらかにする。「闡究センキュウ」(きわめあきらかにする)「闡幽センユウ」(かくれたものを明らかにする) (3)ひろめる。ひろまる。「恢闡カイセン」(恢は、ひろい意、闡はひろめる意。広くひろめる意)

形声字
[禪] ゼン・ゆずる  ネ部  
解字 旧字は禪ゼンで「示(神をまつる所)+單(セン⇒ゼン)」 の形声。[説文解字]は「天を祭る也(なり)。示(神をまつる所)に従い單ゼンの聲(声)」とする。[同注]は「封(土盛り)して壇ダン(土を盛上げた場)と爲(な)し、地を除(はらい)て墠ゼン(祭りの庭)と爲(な)す」とし、古くは墠ゼンとも書いた。この祭儀は天子が位を譲りうけるときに行うので、ゆずる意がある。また、仏教語の「禅那ゼンナ」(「精神を統一して真理を追究する」という意味のサンスクリット語「jhana・ディヤーナ」の音訳語から、仏教の禅宗の意味で用いる。
意味 (1)まつる。「封禅ホウゼン」(天子が天地の神に即位を知らせ、天下太平を感謝する儀式) (2)ゆずる(禅る)。天子が位をゆずる。「禅位ゼンイ」(位をゆずる)「禅譲ゼンジョウ」(天子がその地位を子に世襲させず徳のある者に譲ること) (3)仏教の禅宗のこと。座禅により悟りをひらき人生の真の意義を悟ろうとする仏教の宗派。「禅寺ぜんでら」(禅宗の寺院) (4)[仏]精神を統一して真理を悟ること。「坐禅ザゼン」「禅定ゼンジョウ」(精神を統一して真理を考えること)
簞[箪] タン・はこ  竹部
解字 「竹(たけ)+單(タン)」 の形声。タンは儋タン(かめ・にないがめ)に通じ、竹の容器の意。竹以外の小さめの容器にも使う。
意味 (1)わりご。竹で編んだ丸い飯びつ。「簞食タンシ」(わりごの飯) (2)はこ(簞)。竹で編んだこばこ。こばこ。「簞笥タンス」(箱形の収納家具) (3)ひさご。ひょうたん(瓢簞)。
 ダン・タン・ひく・はずむ・たま  弓部

解字 甲骨文は弓に丸い玉をつけた形で、はじき弓をあらわす。篆文・旧字は彈で「弓+單(ダン)」の形声。ダンは団ダン(まるい)に通じ、弓でまるい玉をとばすこと。また、はじき弓のたまが、はずむこと。日本でも正倉院に弾き弓がある。弓の弦の中央に丸座とよばれる玉を受ける台座をはめて、そこに玉を置き、弓を引いて飛ばす。
 
復元された弾き弓(左)と、弦につけた丸座(兵庫県立考古博物館)
意味 (1)はじき弓。たまをはじきとばす弓。「弾弓ダンキュウ」(はじきゆみ)(2)たま(弾)。はじき弓のたま。鉄砲のたま。「弾丸ダンガン」(3)はじく(弾く)。はずむ(弾む)。「弾力ダンリョク」「弾性ダンセイ」(4)ただす。せめる。「糾弾キュウダン」「弾劾ダンガイ」(罪や不正をあばき追及する)(5)[琴や琵琶などの弦をはじくことから]ひく(弾く)。かなでる。
 タン・はばかる  忄部
解字 「忄(こころ)+單(タン)」 の形声。タンは弾タン・ダン(問いただす=糾弾)に通じ、糾弾されておそれる心。おそれつつしむ意となる。
意味 はばかる(憚る)。おそれる。さしひかえる。「忌憚キタン」(いみはばかる。遠慮)「忌憚キタンのない意見」(遠慮することのない意見)「畏憚イタン」(おそれはばかる)「敬憚ケイタン」(敬いはばかる)

その他
驒[騨] ダ・タン  馬部
解字 「馬(うま)+單(タン)」 の形声。タンという名の馬。毛にまだら模様のある馬をいう。單のイメージは不明。新字体に準じた騨を使うことが多い。漢音はタン・呉音はダ。
意味 (1)まだら馬。連銭あしげ。毛に灰色の丸い斑点のまじった馬。(2)地名。「飛騨ヒダ」(旧国名。岐阜県北部。古くは「斐太」や「斐陀」と書いた)「飛騨市ヒダシ」(岐阜県北部の市)
<紫色は常用漢字>

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