漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「鬼キ」<おに> と「愧キ」「傀カイ」「嵬カイ」「隗カイ」「塊カイ」「魁カイ」「槐カイ」「瑰カイ」「蒐シュウ」

2025年01月17日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 キ・おに  鬼部 guǐ

解字 甲骨文第一字と金文は「田(仮面)+人(ひと)」の象形。おそろしい顔の面をつけた人を表す。また、甲骨文第二字は、〒(=示。祭壇)を付けており神の前で仮面をつけて行なう祭祀を示している。おそらく鬼やらい(悪鬼を祓い疫病を除く)のような祭祀であろう。篆文から尻尾のような形でムが加わったが、これは死者を意味する符号とされる。鬼の意味は多様であるが、古代文字で表されているのは、人に災いをもたらす悪霊であろう。そのほか、鬼は死者の魂、また、神として祀られた霊魂などの意味がある。
大津絵の鬼
意味 おに(鬼)。(1)人の死後、霊魂が形をなして現れたもの。亡霊。死者の魂。「鬼哭キコク」(死者の霊が恨めしげに哭くこと)「鬼雨キウ」(死者の涙のような雨。また大雨)「鬼籍キセキ」(寺院で信徒の死者の名などを記した帳簿。過去帳)(2)ひとがみ。神として祀られた霊魂。「鬼神キシン」(3)強く大きい者。人間わざと思えない。「鬼才キサイ」(4)勇猛な者。「鬼将軍おにしょうぐん」(5)残忍な者。「鬼婆おにばば」「鬼畜キチク」(①残酷な行いをする者。②鬼と畜生)(6)大きくいかめしいものの形容。「鬼百合おにゆり」(7)[国]おに(鬼)。想像上の生物。角が生えふんどしをしている。「鬼が島」(鬼が住んだという島。「一寸法師」「桃太郎」で知られる)
参考 鬼は部首「鬼おに・きにょう」になる。漢字の左辺や右辺(旁)また下部に付き、「おに」「霊的存在」などを表す。約14,600字を収録する『新漢語林』では22字が収録されている。
常用漢字 5字
 (部首)
 コン・たましい(鬼+音符「云ウン」)
 シュウ・みにくい(鬼+音符「酉ユウ」)
 ミ・もののけ(鬼+音符「未ミ」)
 マ・(まもの)(鬼+音符「麻マ」)
常用漢字以外の主な字
 バツ・(ひでり)(鬼+音符「犮ハツ」)
 ハク・たましい(鬼+音符「白ハク」)ほか 

イメージ  
 「おに」
(鬼・愧・傀) 
  強く大きい鬼から「おおきい」(嵬・隗・槐・魁)
  「形声字」(塊・蒐・瑰)
音の変化  キ:鬼・愧  カイ:傀・槐・嵬・隗・魁・塊・瑰  シュウ:蒐

おに
 キ・はじる  忄部 kuì
解字 「忄(心)+鬼(おに)」の会意形声。この鬼は人に害を与える邪悪な鬼。邪悪な鬼が自分の行いをはずかしく思うこと。
意味 はじる(愧じる)。はじ。自分の見苦しい行ないをはずかしく思う。「慙愧ザンキ」(はじいる)「愧死キシ」(恥じ入って死ぬ。死ぬほどはずかしい)
 カイ  イ部 guī・kuǐ
解字 「イ(ひと)+鬼(おに)」の会意形声。鬼が人に憑依ヒョウイ(とりつく)すること。人が鬼に操られるように動くこと。あやつり人形をいう。また、おおきい人の意もある。

傀儡師くぐつし(大江匡房(まさふさ)の「傀儡子記」より)
意味 (1)くぐつ。でく。あやつり人形。「傀儡カイライ」(他人に操られる者)「傀儡くぐつ」(操り人形)儡ライは「イ(ひと)+畾(ライ=雷)」で、雷(かみなり)のように大声を出すが中身はない人で、あやつり人形のこと)「傀儡師カイライシ・くぐつシ」(各戸を回り人形を操って金品をもらった者。人形まわし)(2)おおきい。りっぱ。「傀偉カイイ

大きい
 カイ  山部 wéi
解字 「山(やま)+鬼キ⇒カイ(大きい)」の会意形声。高くおおきな山を嵬カイという。
意味 高くおおきい。「嵬峨カイガ」(高くけわしい山)「崔嵬サイカイ」(高くそばだつ。崔は高くけわしい意)
 カイ  阝部 wěi・kuí
解字 「阝(おか)+鬼キ⇒カイ(おおきい)」の会意形声。大きなけわしいおかを隗カイといい、けわしい意。
意味 (1)けわしい(隗しい)。たかい。「隗然カイゼン」(けわしいさま)(2)人名。「郭隗カクカイ」(中国・戦国時代の燕の人)「隗カイより始めよ」(燕の昭王に賢者の求め方を問われ、賢者を招きたければ、まず凡庸な私(隗)を重く用いよ、そうすれば自分よりすぐれた人物が自然に集まってくる、と答えたという「戦国策」の故事から、大事業をするには、まず身近なことから始めよ。また、物事は言い出した者から始めよということ)
 カイ・えんじゅ  木部 huái
解字 「木(き)+鬼キ⇒カイ(大きい)」の形声。中国原産で大樹となる槐カイ(えんじゅ)をいう。成長して大木となり庭園や街路樹として植えられ、夏に木陰を提供する。日本では鬼の出入りするといわれる屋敷内の鬼門(東北の方角)に植えて災厄をさける木とされた。

①槐(えんじゅ)(中国のウィキペディアより)槐の花(「季節の花300より)
意味 (1)えんじゅ(槐)。槐樹カイジュ。マメ科の落葉高木。庭園や街路樹に植えられる。大木に育つ。「槐黄カイオウ」(槐の黄色い花が咲くころ。7~8月)(2)周代の朝廷で三本の槐樹を植え、この樹下に座ることのできるのは最高位の三人の高官とされた。「槐位カイイ」(三人の高官の位。=三公・三槐サンカイ)「槐門カイモン」(大臣の別称)
 カイ・さきがけ・かしら  斗部 kuí

魁星(「詞と星の名」より)
解字 「斗(ひしゃく)+鬼(おおきい)」の会意形声。原義は大きな柄杓(ひしゃく)。大きな天空の柄杓である大熊座の北斗七星に当て、特に枡の部分にあたる4つの星をいう。また、枡の部分の第一星を魁星カイセイと呼んだことから、さきがけの意となった。また、さきがけは先頭に立つ意であり、かしら・首領、すぐれる意となる。
意味 (1)大きなひしゃく。(2)おおきい。「魁偉カイイ」(大きく立派なさま)(3)北斗七星。「天魁テンカイ」「魁星カイセイ」(①北斗七星の第一星 ②科挙試験の首席合格者)(4)さきがけ(魁)。物事のはじめとなる。「秋田魁さきがけ新報」(秋田県の地方紙。明治7年(1874年)の創刊)(5)かしら(魁)。首領。「首魁シュカイ」(6)すぐれたもの。「魁士カイシ」(すぐれた男子)

形声字
 カイ・かたまり  土部 kuài
解字 「土(つち)+鬼(カイ)」の形声。土のかたまりを塊カイという。
意味 (1)土くれ。土のかたまり。「土塊ドカイ」(土のかたまり。土くれ)(2)かたまり(塊)。「金塊キンカイ」「肉塊ニクカイ」「凝塊ギョウカイ」(こりかたまったもの)
 シュウ・あつめる  艸部 sōu
解字 「艸(草)+鬼(シュウ)」 の形声。シュウという名の草。あかね草をいう。また、集シュウ(あつまる)・収シュウ(える)に通じ、あつめる意や狩りをする意がある。
意味 (1)あかね(蒐)。茜あかね草。「芧蒐ボウシュウ」(あかね草)(2)あつめる(蒐める)。「蒐集シュウシュウ」(3)狩りをする。「蒐猟シュウリョウ
 カイ  玉部 guī
解字 「王(=玉。たま)+鬼(カイ)」の形声。美しい玉を瑰カイという。
意味 (1)玉の名。「玫瑰マイカイ」(①赤色の美しい玉。②ハマナスに似た赤紫色の花をつける品種)「ケイカイ」(美しい玉)(2)すぐれる。めずらしい。おおきい。「瑰偉カイイ」(人格・能力が卓越している)「瑰意カイイ」(非凡な心。優れた心)「瑰姿カイシ」(美しい姿)

マイカイ(玫瑰)(ハマナスよりも濃い赤紫色の八重咲き品種)
<紫色は常用漢字>

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