漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「幺ヨウ」<①糸たば、②糸のさき>と「幼ヨウ」「窈ヨウ」「拗ヨウ」「黝ユウ」「幽ユウ」「幻ゲン」「後ゴ」

2025年01月19日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ヨウ  幺部いとがしら yāo     

糸の束(麻糸。Chuko Online より)
解字 甲骨文から篆文まで糸束(いとたば)を描いた象形。糸束は糸を枠に巻き取ってからはずし、保存の為ねじった形。隷書レイショ(漢代)で糸束のふたつの丸印に隙間ができた形になり現代字は幺になった。なお幺の意味は糸束でなく、糸たばの先の細い糸から、ちいさい・ほそい・かすかの意を表わす。幺は部首となるが、音符となるとき、「糸・糸たば」「かすか・わずか」のイメージをもつ。
意味 (1)ちいさい。「幺微ヨウビ」(ちいさい。価値のないつまらないこと)(2)おさない。(=幼)。「幺弱ヨウジャク」(おさなくかよわい)
参考 幺は部首「幺いとがしら」になる。漢字の左辺に付き、ちいさい・かすか・および糸束の意を表す。おもな字は、このページに収録している「幼ヨウ」「幽ユウ」「幻ゲン」のほか「幾イク」の4字である。

イメージ
 「かすか・わずか」
(幺・幼・窈・黝・幽・後)
 「糸・糸たば」(幻・拗)

音の変化  ヨウ:幺・幼・窈・拗  ユウ:黝・幽  ゲン:幻  ゴ:後

かすか・わずか
 ヨウ・おさない  幺部 yòu・yào

解字 甲骨文は「力(耜スキ)+幺(ヨウ)」の形声字。スキは足で踏み込んで土を掘り起こす農具で、[甲骨文字辞典]は「何らかの農耕儀礼の表現であろう」とする。金文は幺が耜スキの上に重なる形だが、意味は不明。篆文にいたり[説文解字]は、「少(わかい)也。幺に従い力に従う」。として幼い意味になった。これは力リョク・リキが耜(スキ)から力(筋肉の力ちから)の意味に変化したので、意味も力が少ない幼児の意味に変化したと思われる。
意味 おさない(幼い)。年がすくない。じゅうぶんではない。「幼少ヨウショウ」「幼児ヨウジ」「幼稚ヨウチ」「幼虫ヨウチュウ」「幼魚ヨウギョ
 ヨウ   穴部 yǎo
解字 「穴(横穴)+幼(ヨウ=幺ヨウ。かすか。わずか)」の会意形声。横穴が奥深く光がわずかで薄暗いさま。
意味 (1)奥深い。薄暗い。ひそかな。かすかな。「窈然ヨウゼン」(奥深いさま)(2)奥ゆかしい。しとやか。「窈窕ヨウチョウ」(美しくたおやか)
 ユウ・あおぐろ  黑部 yǒu・yī
解字 「黑(くろ)+幼ヨウ⇒ユウ(=幺ヨウ。かすか)」の会意形声。幼は幺に通じ、かすかの意。かすかな黑の意で、青みがかった黒色をいう。発音はヨウ⇒ユウに変化した。
意味 (1)あおぐろ()。青みがかった黒。「ユウゼン」(青黒いさま。樹木が茂ってうすぐらいさま)「黝黝ユウユウ」(青黒いさま。樹木が茂ってうすぐらいさま)(2)くろい。「黝堊ユウアク」(建物の黒塗りと白塗りの部分。堊は白塗りの土)
 ユウ・かすか・くらい  幺部 yōu

解字 甲骨文は「火(ひ)+幺幺(ユウ)」の会意形声。甲骨文字は「黒色の意味で用いられており、幺(糸束)を火で燻(いぶ)した色とされる」(甲骨文字辞典)。金文は「幽衡ユウコウ」(黒色に近い佩玉ハイギョク[玉の飾り])の意味がある」(字通)。篆文になると火が山の形に変化したので[説文解字]は「隱(かくれ)る也(なり)。山の中の幺幺ユウ(ほのぐらい)に従うとし、かくれる意とした。したがって意味は、かすか・くらい・かくれる・死後の世界、などとなる。
意味 (1)かすか(幽か)。くらい(幽い)。奥深い。「幽玄ユウゲン」(奥深く味わいに富む)「幽谷ユウコク」(2)あの世。死後の世界。「幽界ユウカイ」「幽霊ユウレイ」(①死んだ人の魂。②実際には無いのにあるように見せかける。幽霊会員)(3)かくれる。ひそむ。とじこめる。「幽囚ユウシュウ」「幽閉ユウヘイ」「幽客ユウキャク」(俗世を離れて暮らす人。=幽人)
 ゴ・コウ・のち・うしろ・あと・おくれる   彳部 hòu

解字 甲骨文第一字は「幺(わずか)+夂(下向きの足⇒もどる)」の会意。夂は下向きの足で、ここでは(上に行った足が)もどる意。これに幺(わずか)がついて、わずかにもどる意となり甲骨文では時間的な先後の「のちに」の意で使われる。甲骨文第二字は、進行を表す彳(テキ)が付いて意味を強めたかたち。金文以下現代字まで彳が付いた「後」となっている。金文では「後人コウジン」(子孫)「後嗣コウシ」(後代の子孫)の意味などもある。先に対する「のち」の他、集団や列のうしろ・おくれる意ともなる。
意味 (1)のち(後)。あと(後)。「後悔コウカイ」「後日ゴジツ」(2)後の世代。「後世コウセイ」(後の世。後の子孫)「後代コウダイ」(後の時代)(3)うしろ(後)。うしろのほう。おくれる(後れる)。「後援コウエン」「背後ハイゴ」「後継者コウケイシャ」 

糸・糸たば
 ゲン・まぼろし  幺部 huàn

解字 金文は幺(糸たば)が逆さになった形を意味する象形。糸たばの先端が下にたれさがり逆さの形を意味する。篆文は機織りの道具のひ(予=杼。解字の右端)が逆さになった形。正常な杼(予)は右の予の篆文である。幻は糸たばや杼が逆さになっており、一瞬、正常なかたちと錯覚するので、まぼろし・まどわす意となる。現代字は金文の形が変化した幻になった。
意味 (1)まぼろし(幻)。「幻影ゲンエイ」「幻覚ゲンカク」(2)まどわす。たぶらかす。「幻惑ゲンワク」「幻術ゲンジュツ」「幻聴ゲンチョウ
 ヨウ・オウ・ねじる・ねじける・すねる・こじれる  扌部 niù・ào・ǎo・yù
解字 「扌(手)+幼(ヨウ=幺ヨウ(糸たば))」の形声。幼(ヨウ)はここで幺(ヨウ・糸たば)の意。拗は手で糸たばをねじること。人に移して、すねる・ひねくれる意ともなる。
意味 (1)ねじる。(拗る)。ねじれる(拗れる)。こじれる(拗れる)。「拗音ヨウオン」(キャ・キョなど、仮名を小さく添える音)(2)すねる(拗ねる)。ねじける(拗ける)。ひねくれる。「執拗シツヨウ」(ねばり強くしつこい)
<紫色は常用漢字>

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コメント (2)
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