北海道新聞 11/18 05:00
胆振管内白老町のアイヌ民族博物館(閉館)のヒグマ4頭が今夏、英中部ドンカスターのヨークシャー野生動物公園に譲渡された。同公園は動物本位の飼育で知られ、英国では「日本の狭いおりから救出されたクマたち」と報じられた。日本にやや不名誉な表現となったのは、英国が歴史的に「動物福祉」の先進国であることが背景にあるようだ。
120ヘクタールの敷地でライオン、キリンなど70種類を飼う同公園。10月下旬に訪れヒグマを見ていた事務職メラニー・ライアンさん(42)は「広いところで暮らせて彼らもきっとハッピーよ」とうなずいた。柵には北海道から来たことを説明する看板が掲げられていた。
ヒグマはハナコとアム、カイ、リク。8月3日に空輸で到着し、草地に遊具や池などがある1・6ヘクタールの野外エリアで公開された。ヒグマが海外に譲渡されるのは異例。アムは8月下旬に重い関節疾患が見つかり安楽死させられたが、他の3頭は元気という。
同公園の動物収集マネジャー、サイモン・マーシュさん(43)は「外での運動とバランスの良い食事のおかげで毛並みが良くなってきた。動物が快適に過ごせることが第一だ」。アムの安楽死は「苦しんだまま生かすわけにはいかなかった」と説明した。
英国は動物福祉の歴史が古い。1822年に欧州初の家畜虐待防止法、1911年には家畜以外も対象とした動物保護法がそれぞれ成立。1824年設立の王立動物虐待防止協会は主に寄付により年1億4千万ポンド(約200億円)の予算を持ち、虐待調査や保護を活発に行う。動物園の飼育基準は法律で厳しく定められ、違反すれば閉鎖に追い込まれることもある。
一方、日本では、海外の反捕鯨団体の過激な活動への反感もあり、動物を過度に大切にする思想は敬遠されがち。日本動物福祉協会(本部・東京)などによると、英国や欧州に比べて動物園への法規制も緩く、コンクリートの狭い場所で動物を飼うなど環境の良くない施設は少なくない。同協会は「日本の施設も動物を飽きさせない工夫をするなど、習性に配慮した飼い方は必要だ」と訴える。
白老の博物館も、施設改修費が捻出できずヒグマを狭いおりで飼っていた。アムの関節疾患も、その環境が原因と思われている。外国人客の増加とともに批判が増えたため、同博物館はより良い環境で飼える同公園に譲った。こうした背景から、英メディアは「救出」と報じた。
ただ、動物福祉の考え方は日本でも広まりつつある。日本動物園水族館協会(東京)は動物の幸福に配慮した飼育基準を作成し、加盟施設に順守させる方針だ。同協会にも助言している英動物福祉団体ワイルド・ウェルフェアのジョージナ・グローブスさんは「ヒグマの事例が広がり、世界の動物園の飼育環境を考えるきっかけになれば」と話す。
<ことば>動物福祉 動物が健康で幸福に過ごせる環境を提供するのが重要だとする考え方。日本で一般的な、動物をかわいがる「動物愛護」より進んでおり、18世紀ごろの英国を起源に欧米に広まったとされる。動物の尊厳を重んじ産業利用などに反対する「動物の権利」という思想もある。(ドンカスターで河相宏史、写真も)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/249333
胆振管内白老町のアイヌ民族博物館(閉館)のヒグマ4頭が今夏、英中部ドンカスターのヨークシャー野生動物公園に譲渡された。同公園は動物本位の飼育で知られ、英国では「日本の狭いおりから救出されたクマたち」と報じられた。日本にやや不名誉な表現となったのは、英国が歴史的に「動物福祉」の先進国であることが背景にあるようだ。
120ヘクタールの敷地でライオン、キリンなど70種類を飼う同公園。10月下旬に訪れヒグマを見ていた事務職メラニー・ライアンさん(42)は「広いところで暮らせて彼らもきっとハッピーよ」とうなずいた。柵には北海道から来たことを説明する看板が掲げられていた。
ヒグマはハナコとアム、カイ、リク。8月3日に空輸で到着し、草地に遊具や池などがある1・6ヘクタールの野外エリアで公開された。ヒグマが海外に譲渡されるのは異例。アムは8月下旬に重い関節疾患が見つかり安楽死させられたが、他の3頭は元気という。
同公園の動物収集マネジャー、サイモン・マーシュさん(43)は「外での運動とバランスの良い食事のおかげで毛並みが良くなってきた。動物が快適に過ごせることが第一だ」。アムの安楽死は「苦しんだまま生かすわけにはいかなかった」と説明した。
英国は動物福祉の歴史が古い。1822年に欧州初の家畜虐待防止法、1911年には家畜以外も対象とした動物保護法がそれぞれ成立。1824年設立の王立動物虐待防止協会は主に寄付により年1億4千万ポンド(約200億円)の予算を持ち、虐待調査や保護を活発に行う。動物園の飼育基準は法律で厳しく定められ、違反すれば閉鎖に追い込まれることもある。
一方、日本では、海外の反捕鯨団体の過激な活動への反感もあり、動物を過度に大切にする思想は敬遠されがち。日本動物福祉協会(本部・東京)などによると、英国や欧州に比べて動物園への法規制も緩く、コンクリートの狭い場所で動物を飼うなど環境の良くない施設は少なくない。同協会は「日本の施設も動物を飽きさせない工夫をするなど、習性に配慮した飼い方は必要だ」と訴える。
白老の博物館も、施設改修費が捻出できずヒグマを狭いおりで飼っていた。アムの関節疾患も、その環境が原因と思われている。外国人客の増加とともに批判が増えたため、同博物館はより良い環境で飼える同公園に譲った。こうした背景から、英メディアは「救出」と報じた。
ただ、動物福祉の考え方は日本でも広まりつつある。日本動物園水族館協会(東京)は動物の幸福に配慮した飼育基準を作成し、加盟施設に順守させる方針だ。同協会にも助言している英動物福祉団体ワイルド・ウェルフェアのジョージナ・グローブスさんは「ヒグマの事例が広がり、世界の動物園の飼育環境を考えるきっかけになれば」と話す。
<ことば>動物福祉 動物が健康で幸福に過ごせる環境を提供するのが重要だとする考え方。日本で一般的な、動物をかわいがる「動物愛護」より進んでおり、18世紀ごろの英国を起源に欧米に広まったとされる。動物の尊厳を重んじ産業利用などに反対する「動物の権利」という思想もある。(ドンカスターで河相宏史、写真も)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/249333