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インドネシア、「パプア人差別」の禁忌犯し暴動発生

2019-08-26 | 先住民族関連
爆発するパプア人の怒りと、インドネシア政府の誤算
JBpress 2019.8.29
パプア州ファクファクでの暴動の様子。(写真:AP/アフロ)
(PanAsiaNews:大塚智彦)
 東南アジアの大国インドネシアが今、重大な治安問題と政治課題に直面している。広大な国土の最東端、ニューギニア島の西半分を占めるパプア州、西パプア州の各地で先住民族でもあるパプア人の積年の鬱憤、怒り、不満が爆発し、デモや集会から一部が暴徒化して公共施設の放火や破壊など騒乱状態となっているのだ。
 インドネシア政府は8月21日に両州でのインターネットのアクセスを全面的に制限する措置を取った。「偽情報や誤ったニュースによるさらなる治安悪化」を防ぐためというのが情報通信省の言い分で、期間は「治安状況が改善するまで」と明示していない。この措置に対しインドネシアの「独立ジャーナリスト連盟(AJI)」は22日に「通信制限はパプアの人々の人権侵害そのものである」「現地でのジャーナリストの取材活動も制限される」として、パプア人に対する政府、治安当局の対応そのものが「差別」に根差していることを指摘している。
 各地でパプア人のインドネシアへの不満が噴出する事態を受けて、政府閣僚や国家警察幹部、政党関係者などはこぞって「パプア人も同じインドネシア国民、紅白の国旗の下に一致団結」と事態の沈静化を懸命に訴えている。
 しかしパプア人にはそうした言動は白々しい言い逃れにしか聞こえず、対話を呼びかける一方で、8月19日には多くの軍兵士や警察官が治安維持のためとして現地に増派されて厳戒態勢が敷かれ、ネットは制限されるなどパプア人の生活は著しい不便に見舞われているのが現状なのだ。
 このように事態の深刻化を招いたのは、治安組織による情勢判断の間違いと、その後の動向を甘く見たという誤算、さらに政府による泥縄式の対策などによる相乗作用の結果といえるが、根底には根深く横たわるジャワ人をはじめとする非パプアの人々によるパプア人への優越感に基づく差別意識があるのは間違いない。
パプア人学生に対する侮辱、嘲笑、罵倒
 8月17日、ジャワ島東ジャワ州の州都スラバヤにあるパプア人大学生の住む学生寮に、警察官らが家宅捜査のために踏み込んだ。インターネット上にインドネシア国旗を侮辱して廃棄する映像がこの日アップされたのだが、学生寮の国旗が消えていたことから「犯行現場」と目され、集まった一般市民の見守る中で捜索が始まり43人のパプア人学生が身柄を拘束されたのだ。
 この際、治安当局者や市民からパプア人学生に対し「サル」「ブタ」「イヌ」「コテカ(ペニスサック)」などと侮辱、嘲笑、罵倒する言葉が投げかけられた。当時の現場を記録した映像からそれは確認されているという。
 このスラバヤでの出来事がニュースやインターネットで瞬時にして国中に伝わると、パプア州や西パプアの地方都市で怒ったパプア人が町に繰り出して抗議のデモを始めたのだった。
 19日にはスラバヤ市長、東ジャワ州知事らがテレビカメラの前で「パプ人学生への差別発言があったことを陳謝する」と市民による差別発言を謝罪した。
 しかし市長や州知事と同席していた警察幹部は横で頷き遺憾の意は示すものの、決して現場の警察官によるとされる差別発言を非難したり、当事者を特定して処分したりするなどの対応策に言及することはなかった。
状況判断を誤った治安当局
 実はこの学生寮の事件の前日16日、同じ東ジャワ州のマランでパプア人による「独立要求」の小規模なデモも起きていた。このデモと17日のスラバヤでのパプア人学生寮家宅捜査、学生の身柄拘束という行為の与える影響と波紋を治安当局は過小評価していた可能性がある。
 17日はインドネシアの74回目の独立記念日で、首都ジャカルタの大統領官邸など主要都市の公官庁では盛大で厳かに紅白の国旗を掲げる記念式典が行われていた。その日に国旗を捨てるという「反国家的行為」がネットにアップされれば、愛国心が普段にもまして高まっている一般国民の怒りに火が付くのは誰しもが予想できることである。
 しかし政府や治安当局は、あくまでパプア地方外のパプア人による小規模なデモ、そして国旗事件も一部による反国家的行動として局所的、個別的に対処して事態は拡大しないと踏んでいた節がある。
 ところが、学生寮での捜索の際に発せられた警察官や一般市民による侮辱的な差別発言が、パプア人の中に潜在的にある被差別感情に一気に火を注ぐ結果となり、パプア州や西パプア州のソロン、マノクワリ、ビントゥニ、ファクファク、ジャヤプラ、ナビレ、ビアク、ティミカ、メラウケと各地で次々とパプア人による激しい抗議運動に飛び火したのだった。
 こうした想定外の抗議運動の拡大に慌てた国家警察は機動警察部隊を現地へ急派し、閣僚以下が次々とマスコミに登場して「事態の沈静化」を唱え始めたのだった。
大統領も怒り心頭になる理由
 身柄を拘束された43人のパプア人学生はその後、ネットで流れた情報が偽情報で学生寮やパプア人学生は無関係であることがわかり、同日夜に全員が解放された。
 偽情報に基づく事案とはいえ、それが各地のパプア人の怒りを招いたことを重視したスラバヤ市長、東ジャワ州知事は相次いでマスコミを通じて「起きてしまったことに対して謝罪する」として素早く公式に謝罪し、地元パプア人コミュニティー代表と会談するなどして良好な関係をアピールして事態の沈静化に乗り出した。だがこれとて対処療法的で泥縄式な対応で事案の根本的問題への解決につながるものではない。
 偽情報に基づいて身柄拘束に乗り出し、パプア人を住民と一緒に侮辱したという警察の行為に関して国家警察幹部は「偽情報と誤解に基づく事件で遺憾である」と述べるにとどまっていることがそれを示している。
 警察は偽情報に関連したツイッターのアカウントを凍結するとともに流布に関連した容疑者の捜索やパプア地方での騒乱で放火や商店襲撃、略奪などに関与した人物の捜査に専念することで「治安維持」に努める姿をアピールすることに躍起となっているのだ。
インドネシアの絶対的タブー「SARA」
 インドネシアには触れることが禁忌(タブー)とされる4つのことがあるといわれている。「種族、宗教、人種、社会集団」がそれで、それぞれのインドネシア語の単語の最初の字を並べて「SARA(サラ)」と称される。
 この問題に対する矛盾や不安が高まると社会の安定が損なわれ、分断の危機を招くとされ、可能な限り触れないこと、問題提起をしないことが求められる「禁断のテーマ」である。
 今回のパプア人の問題はこのSARAの「種族」に関わるものであるが、インドネシア社会がこぞってその沈静化に動いている背景にあるという。
 ことの重大性を一番認識しているのはジョコ・ウィドド大統領で、いち早く「パプア人の不満はよくわかる。だが、お互いに許し合うことも大事だ」と呼びかける一方で、軍や警察に対しては「差別発言をした者は厳しく糾弾せよ」と徹底的な捜査を命じた。身内の不用意な発言が燎原の火の如く巻き起こした今回の事件に「きちんとケジメをつけろ」という大統領の治安当局への厳しい注文といえるだろう。
 22日には首都ジャカルタの大統領官邸前で約200人のパプア人がデモを行い「独立を問う住民投票の実施」を訴え、所持や掲揚が禁止されているパプア独立旗「モーニング・スター(明けの明星旗)」を掲げた。
 警戒にあたる警察部隊は一部でデモ隊と小競り合いにはなったが、旗を没収したり放水や催涙ガスなどの強硬手段を取ったりすることは控え、さらなるパプア人の怒りと反発を警戒して極めて冷静で整然とした対応に終始した。
 ついに禁断の旗を掲げて「独立を問う住民投票」まで要求する事態になり、問題は極めて深刻化している。
 そうでなくてもパプア地方は独立を求める武装組織による抵抗運動が細々とではあるが、1963年のインドネシア軍によるパプア軍事侵攻以来続いている「厄介な地域」であるところに発生した今回の事態である。パプア各地のデモ隊の中に独立武装組織「自由パプア軍(OPM)」のメンバーが紛れ込んで、治安悪化に拍車をかけているとの一部情報もあり、治安当局は極度に警戒を強めている。
「独立を問う住民投票」をインドネシア政府は絶対に認めることはないといえる。かつてインドネシア領だった東ティモールがやはり長年の独立武装闘争の末、住民投票が実施された。当時のハビビ政権が住民投票に合意した背景には「住民の大半は独立を望まない」と完全に情勢と東ティモール人の民意を読み誤ったことがあるとされている。
 1999年に実施された住民投票の結果約78%という圧倒的多数が独立支持となり、東ティモールは国連の仲介で2002年に独立を果たしたという、インドネシアにとっては悪夢のような、東ティモールの人々にとっては長年の悲願が実現したという前例があるからだ。
偽情報を流したのは誰なのか
 インドネシアではかつて国内で分離独立を求める武装闘争が続いていた地域を「軍事作戦地域(DOM)」に指定して軍の超法規的行動を容認するとともに内外のマスコミの取材を厳しく制限してきた経緯がある。それが東ティモール、アチェとパプアであり、東ティモールは独立し、アチェは2004年12月のスマトラ島沖地震津波という大災害を経て特別自治州としてインドネシア国内に留まることで決着をみた。
 そして現在も残っている地域がパプアなのだ。スハルト政権崩壊(1998年)とともにDOMは解除されたが、しばしば指摘される軍の人権侵害やマスコミの取材制限、そして続く独立運動は依然としてパプア地方をインドネシアの特別な場所として位置付けている。
 そうした歴史的な特殊事情と緊張関係にある現状からパプアは「インドネシア政府にとって喉に刺さったトゲ」と表現される。
 パプアで今起きている状況を冷静にみた場合、軍を中心とする治安組織がこの状況を利用して、その存在感を示そうとしているようにも見える。4月に大統領選が終わり、2024年までの次期政権が樹立するまでの一種の政治的空白期間で起きた今回の事案。
 存在感を増しつつあるイスラム教勢力と民主化の流れの中で社会的な特権や既得権益が狭まりつつあるとされる治安組織。そうした空気を悪用して偽情報に基づく映像などをネットにアップしてパプア人学生に対する警察の強硬手段を背後で煽った勢力の存在が実は密かに指摘されている。
 いわく「全ては誰かが絵を描いた陰謀ではないか」。24日に至るまで発端となった偽情報、偽映像の出どころである「容疑者」が特定されていないことから「特定できないのではなく特定されると困る事情があるのではないか」との憶測も出ているのだ。
 ただ、その正体不明の勢力はパプア人の長年にわたり積もりに積もった「非差別感情」の大きさ、深さを間違いなく見くびっていたことだけは間違いないだろう。パプア人の怒りは収まっていないし、今後騒動が沈静化してもそれが消失することはない。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57428

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北海道・網走で北欧サーミ特別展 ミトンや衣装、工芸品など

2019-08-26 | アイヌ民族関連
北海道新聞 08/26 05:22 更新

北海道立北方民族博物館で展示されている、北欧先住民族サーミの衣装やトナカイ革のテントなど=17日、北海道網走市
 アイヌなど北方地域の民族の文化や歴史を研究する北海道立北方民族博物館(北海道網走市)が、北欧の先住民族サーミの衣装など約140点を展示する特別展を開催している。10月14日まで。担当者によるとサーミに関する展示は非常に珍しいという。
 展示するのはトナカイの革のテントや青いフェルト地が特徴的な衣装、毛糸でできた色とりどりのミトン、シラカバのこぶのカップなどで、博物館が約30年間にわたって収集した。常設展と別に一挙に公開するのは初めて。サーミの権利回復運動や言語復興の取り組みも紹介している。
 サーミは、スカンディナビア半島北部(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)やロシアで暮らしてきた先住民族。トナカイの飼育や狩猟、漁猟などを生業としてきた。サーミをルーツとする監督の映画作品「サーミの血」が2016年の東京国際映画祭で、審査委員特別賞と最優秀女優賞をダブル受賞するなど話題となった。
 特別展では研究者らの講座も予定。観覧料は大人450円。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/338153

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アイヌ語で歌って笑おう 札幌大で「ミナアンロー!」

2019-08-26 | アイヌ民族関連
北海道新聞 08/25 23:09 更新

お笑い部門で優勝した「スルク&トノト」。「ス」と「ト」を模した決めポーズで笑いを誘った
 アイヌ民族の民話や風習を取り入れた漫才を披露したり、日本のポップスをアイヌ語で歌ったりして、ユーモアのセンスを競うユニークな大会が25日、札幌市豊平区の札幌大で開かれた。アペフチカムイ(火の神)になりきった漫談や、アイヌ語訳で生まれ変わった人気歌手米津玄師さんの名曲などが披露され、会場は爆笑と手拍子に包まれた。
 大会名「ミナアンロー!」は、アイヌ語で「笑いましょう」の意味。アイヌ文化の担い手を育てる一般社団法人「札幌大学ウレシパクラブ」が設立10周年を記念して開き、お笑い部門に5組、カラオケ部門に16組が出場した。
 漫画を模した「キャッツ・アイヌ」としてお笑いを披露したコンビ「スルク&トノト」と、人気デュオ「KinKi Kids」の名曲を熱唱した、いずれも団体職員早坂駿さん(29)と新谷裕也さん(28)がそれぞれの部門で優勝した。早坂さんは「アイヌ語の歌詞は、2人の出身地の沙流と旭川の方言で翻訳した。優勝できてうれしい」。審査員を務めたアイヌ民族の古布絵作家、宇梶静江さんは「みんなすばらしく、審査が難しかった」とたたえた。(斉藤千絵)
★ウレシパのシ、スルクのルは小文字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/338059

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アイヌ施策推進法施行3カ月 当事者参画の仕組み必要 報道センター・斉藤千絵

2019-08-26 | アイヌ民族関連
北海道新聞 08/25 10:26
 アイヌ民族を先住民族と位置づけ、誇りが尊重される社会の実現を掲げた新法「アイヌ施策推進法」が施行され、3カ月が経過した。各施策が動きだしつつあるが、アイヌ民族がその過程に主体的に参画できる仕組みは不十分だ。同時に「誇りの尊重」とはどのようなことなのか、一人一人があらためて考えたい。
 「新法はゴールではなく、スタートだ」。推進法が施行された5月24日、ある地区のアイヌ協会の会長が強調した言葉が印象に残っている。
 新法が必要とされるのは、明治以降の同化政策などによる生活格差や差別が今なお根深くあるからだ。政府も2009年の有識者懇談会の報告書で、同化政策がアイヌ民族を困窮させ、文化に打撃を与えたことなどを指摘した。
 推進法はこうした歴史的経緯には触れず、アイヌ民族が求めてきた年金や奨学金などの生活・教育支援も盛り込まなかった。不十分な点も多いが、「スタート」という言葉は歴史や現状を再認識し、格差や差別の解消につなげるという覚悟の表れだと思う。
 欠かせないのは、アイヌ民族が施策の決定に参画することだ。国連の「先住民族の権利宣言」は、民族の生き方を民族自らで決め、関係機関と交渉する「自決権」を掲げる。同法は付帯決議で宣言を踏まえるとしており、国や自治体はこの点に留意すべきだ。
 例えば同法では、アイヌ文化を生かした観光、産業振興事業を行う市町村の計画に対し、国が認めれば交付金が出る。各地で計画づくりが進んでいるが、一部ではアイヌ民族側の提案を検討せずに「できない」と結論づけたり、協議と言いつつ自治体側が一方的に事業を提示し、十分な議論がないとの声も聞く。
 自治体にはまず、さまざまな意見のアイヌ民族を交え、協議組織を持つことを求めたい。アイヌ民族が多く住む北海道だからこそ、丁寧な合意形成のモデルを全国に先駆けてつくることが大切だ。それが、各地の魅力や独自性を高める施策にもつながる。
 推進法が掲げる差別の禁止についても、アイヌ民族の参画が不可欠だ。政府や道は施策の基本方針案で、アイヌ民族の理解を深める冊子の作製や教育活動の推進を挙げたが、差別はいまもインターネット上などで繰り返されている。当事者が参画し、差別の基準を明確化し、条例をつくるなどのより踏み込んだ対策が必要だ。
 真摯(しんし)な対話は、歴史に対する国や自治体の責任だ。とりわけ国には、この法律が20年の東京五輪・パラリンピックを見据えたパフォーマンスでないことを、今後の姿勢を通して証明してほしい。
 一方、取材の中で葛藤することがある。「女性」「記者」と言っても一人一人、性格も考えも違うように、当たり前だがアイヌ民族にもさまざまな背景や価値観の人がいる。紙面での発信がその人らしさ以上に、アイヌ民族全体のイメージとして受け取られてしまわないかということだ。
 あるアイヌ民族の知人は「アイヌはみなムックリ(口琴)もできて、儀式も熟知していると思われる。日本人がみな琴を弾き、仏事に詳しいわけはないのに」と吐露した。別の知人は「『かわいそう』という見方は優しいようで『上から目線』だ」とも。属性による決めつけがその人を生きにくくし、傷つける。
 推進法を機に、民族や性別などさまざまな背景を持つ人がいる社会の多様性を一人一人があらためて考えたい。「誇りの尊重」とは堅苦しいが、目の前のその人がどんな人かを知り、その人が大切に思うものを尊重することが出発点ではないか。差別の禁止や、国連宣言に掲げられる権利の保障も、その先にあると感じている。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/337969

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未来の看護を彩る

2019-08-26 | 先住民族関連
医学書院 2019年8月26日第3335号 
国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。
[DAY 2]LGBTQ2+
新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)
新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)
(前回よりつづく)
 先日,Global Young Academy(前回・3331号参照)の私の友人が「LGBT Ally」のピンバッジを着けていました。「私はLGBTの友人だから,気軽に相談してね」という合図なのだそうです。国際的な場では相手の考え方や受け止め方を知ることが難しいため,わかりやすい受容のサインであると思いました。

Macquarie Alley Networkロゴマーク
 国際的な活動,特に助産のような性にかかわる分野であると,声明などの出版に当たり,性的マイノリティの人々を疎外する表現になっていないか確認されます。日本でも「LGBT」は日常的に聞く表現になってきましたが,先日米国で会議に参加した際には,「LGBTQ2+」という表現が用いられていました。Qは,その会議の中では“queer”を指し,「女装をする人のこと」との説明がありましたが,差別用語なので本人以外は使用しないように,と注意を受けました。Qを“questioning(性自認や性的指向をまだ定めていない,定まっていない)”と定義する人もいます。
 “2+”の“2”は“two spirits”という先住民族の中で性的マイノリティであると自認する人たちが,LGBTコミュニティの中でもマイノリティでありLGBTとして自身を表現できなかったときに,先住民族のdecolonizationの意味合いも含め,“2”という別の表現を用いたようです。Decolonizationには,植民地の脱植民地化という意味に加え,「抑圧されて劣等感を抱かされ,自分を正直に表現できないことからの解放」という意味もあるようです。
 “+”は,他にもさまざまなセクシュアリティがあることを,包括的に愛と受容をもって示す表現だそうです。確かにどんどん細分化されてアルファベットが増えると表記が大変になるので,“+”の表現はなるほどと思いました。
 この議論に積極的な団体は,アンケートなどで性別を聞くときに「男女」に加えて「その他」を設けています。また,英語には第三人称があり,「he or she/him or her」とすることがありますが,実はこれも「その他」が含まれない表現であると,最近ではできるだけ「they/them」としていると聞きました。日本に帰ってくると,書類上「その他」のカテゴリーはなかなか見掛けません。日本でも「その他」がないことで困っている人がいるのだろうな,という気持ちになります。
 他にも,「妊婦さん」は“pregnant woman”というのが一般的ですが,自分を女性というカテゴリーに入れたくない方もいるため,“pregnant person”が中立的な表現ではないかとの考え方もあります。一方で,「女性はこれまで抑圧されてきたのだから,“女性”を前面に出すことも必要」との議論もあり,現在は一般的に“pregnant woman”が使われています。“pregnant person”は「妊人さん」と訳されるのでしょうか? まだこれは先の議論になりそうです。
 LGBTQ2+の議論は開発途上国では認められていない場合もあり,国際的な場で議論するのが難しい面もあります。先進国・途上国に限らず,文化によってもとらえ方はさまざまです。現在ソーシャルメディアも含めて,自身の意見を気軽に大勢の目に触れる場へ投稿することが可能です。私もこのコラムをできるだけ中立的に書いているつもりですが,自分への戒めも含めて言いたいことは,何か発言する際に,「この表現によって疎外される人はいないか」を意識する必要があるということです。それによって表現の自由との齟齬が生じる場合があると思いますが,誰かを疎外する可能性がある場合には,注釈等で「この表現を用いたが,○○を除外しない」という一言を付け加えると,この問題に敏感な人も安心して読めるのではないかと思います。
(つづく)
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03335_07

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日本人振付家、台湾のダンサーたちとコラボ 先住民音楽を題材にした作品も

2019-08-26 | 先住民族関連
中央フォーカス台湾2019年8月25日 19:2

コンテポラリーダンスの振付家、島崎徹さん(後列左)と台湾のダンスカンパニー、ダンス・フォーラム・タイペイのダンサーたち
(台北 25日 中央社)コンテポラリーダンスの振付家、島崎徹さんが台湾のダンスカンパニー、ダンス・フォーラム・タイペイ(舞蹈空間舞団)とコラボレーションした「Dance Force(舞力)」の公演が9月末から10月初めにかけて、台湾で行われる。台湾原住民(先住民)の音楽を題材にした「South」を含めた3作品が上演される。
同カンパニー設立30周年を記念した公演の一環で、同カンパニーが島崎さんとコラボするのは今回で4度目。Southの曲にはタイヤル族やパイワン族、アミ族の伝統音楽の音調が使われており、振り付けは、島崎さんがプユマ族出身の歌手、サンプーイ(桑布伊)の曲などに感化されて作ったもの。
台北で23日に行われた記者会見に出席した島崎さんは、過去に芸術イベントで台湾を訪れた際、そこで目にした台湾原住民の歌と踊りに心を打たれたと紹介。台湾の先住民音楽のアルバムを10数枚、空港で買って日本に持ち帰り、最も感動した曲を選んで振り付けを考えたという。
アルバムに書かれた文字は分からないが、音楽からは多様な文化を感じることができたと話す島崎さん。台湾で出会った美しい人やものに感激した気持ちを表現したという。
Dance Force(舞力)は、9月28日と29日に台中国家歌劇院(台中市)で、10月2日と3日に台北城市舞台(台北市)で上演される。
(洪健倫/編集:楊千慧)
https://www.excite.co.jp/news/article/Jpcna_CNA_20190825_201908250003/

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