北海道新聞 01/22 10:00
江戸の庶民、人情ものに定評がある。著者が描く人たちは愛嬌(あいきょう)があふれ、温かい。ひたむきに生きる。
小説の舞台は小日向(こひなた)水道町の手習指南所「銀杏堂(ぎんなんどう)」。子供たちが読み書きなどを習う寺子屋だ。主人公の萌(もえ)は一人娘。嫁いだが離縁されて戻って来た。両親が切り盛りしてきた手習所を引き継ぎ、日々起こる出来事と格闘しながら成長していく。
「江戸時代の手習所はセブン―イレブンの数より多かったとも言われており、一度書きたかった。子供たちの親の職業も武家や商人、百姓と幅広くしたかったので当時の小日向水道町を舞台に選びました」
手習所もその数から競争があり、教育に魅力がなければ淘汰(とうた)された。萌は子供が抱えるそれぞれの事情を熟知し、一人一人に向き合う。身分制度や次男、三男など家を継ぐことのできない子供たちの心の機微が描写される。
「落ちこぼれないように個別授業の形でやるなど、ある意味では今の時代の教育を先取りしていた。塾になじめない子はほかに移り、居場所を見つけることもできた。資料を読んでいてそこにひかれました」
江戸ものを書く時は1800年以降の江戸後期を主軸に描く。「時代考証一つとっても年代が違うと変わってくる。例えば、とっくりや細いそばがなかったり、砂糖もろくに手に入らなかったりするんです」
十勝管内池田町の出身。25歳の時に上京し、作家になって今年で13年目になる。2005年に「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューした。15年には「まるまるの毬(いが)」で吉川英治文学新人賞を受賞した。
以前、殿様に仕えていた藩の家老を主人公にした物語を書くため、その子孫らを取材した。旧城下町では数世代が同居する家庭が多く、誰もが先祖を敬い、誇りにしていた。つながりの深さみたいものを感じ「カルチャーショックを受けた」。
「私自身は祖父母がどこから来たかぐらいしか知らないから、日本人ってこういうものかと思ったんです。その辺りが北海道とまったく違う。逆にこっちが珍しいと言われるんでしょうけど。だからこそ今も新鮮なところがあります」
今年は明治に改元され150年となる。著者は作家になって明治以前から連綿と続く北海道の歴史を意識するようになったという。
「江戸時代でも、アイヌの人たち、松前藩のことなど。それこそ最初から勉強しないといけないけど、いつか書きたいと思っています」
編集委員 伴野昭人
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/503567
江戸の庶民、人情ものに定評がある。著者が描く人たちは愛嬌(あいきょう)があふれ、温かい。ひたむきに生きる。
小説の舞台は小日向(こひなた)水道町の手習指南所「銀杏堂(ぎんなんどう)」。子供たちが読み書きなどを習う寺子屋だ。主人公の萌(もえ)は一人娘。嫁いだが離縁されて戻って来た。両親が切り盛りしてきた手習所を引き継ぎ、日々起こる出来事と格闘しながら成長していく。
「江戸時代の手習所はセブン―イレブンの数より多かったとも言われており、一度書きたかった。子供たちの親の職業も武家や商人、百姓と幅広くしたかったので当時の小日向水道町を舞台に選びました」
手習所もその数から競争があり、教育に魅力がなければ淘汰(とうた)された。萌は子供が抱えるそれぞれの事情を熟知し、一人一人に向き合う。身分制度や次男、三男など家を継ぐことのできない子供たちの心の機微が描写される。
「落ちこぼれないように個別授業の形でやるなど、ある意味では今の時代の教育を先取りしていた。塾になじめない子はほかに移り、居場所を見つけることもできた。資料を読んでいてそこにひかれました」
江戸ものを書く時は1800年以降の江戸後期を主軸に描く。「時代考証一つとっても年代が違うと変わってくる。例えば、とっくりや細いそばがなかったり、砂糖もろくに手に入らなかったりするんです」
十勝管内池田町の出身。25歳の時に上京し、作家になって今年で13年目になる。2005年に「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューした。15年には「まるまるの毬(いが)」で吉川英治文学新人賞を受賞した。
以前、殿様に仕えていた藩の家老を主人公にした物語を書くため、その子孫らを取材した。旧城下町では数世代が同居する家庭が多く、誰もが先祖を敬い、誇りにしていた。つながりの深さみたいものを感じ「カルチャーショックを受けた」。
「私自身は祖父母がどこから来たかぐらいしか知らないから、日本人ってこういうものかと思ったんです。その辺りが北海道とまったく違う。逆にこっちが珍しいと言われるんでしょうけど。だからこそ今も新鮮なところがあります」
今年は明治に改元され150年となる。著者は作家になって明治以前から連綿と続く北海道の歴史を意識するようになったという。
「江戸時代でも、アイヌの人たち、松前藩のことなど。それこそ最初から勉強しないといけないけど、いつか書きたいと思っています」
編集委員 伴野昭人
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/503567