ニュースソクラ 2月26日(金)16時0分配信
市民がカウンター行動に立ち上がった
「朝鮮人は皆殺し」「出て行け韓国人」などの怒号に悩まされていたさっぽろ雪まつり(2月5~11日)が、今年は「ウェルカム札幌」に一変した。3年間、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)を繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などに対抗し、市民有志が「差別を許さない。観光都市札幌を守る」と運動を起こし、これに民主、共産両党の市議や、連合北海道、北海道労働組合総連合(道労連)も協力したからだ。ヘイトスピーチはなくなり、北の大地は平和な雪と氷の祭典を取り戻した。
雪まつり最初の日曜日の7日午後。大勢の家族連れや観光客が行き交うまつり会場のすぐ横、札幌市中央区大通4丁目交差点で、若者たちが「Welcome to Sapporo」の横断幕を掲げた。氷点下4度。寒風が肌を刺すが、大型スピーカーからは、日英中韓4カ国語の温かいメッセージが流れた。「私たちは差別のない街を目指し、全ての人々を歓迎いたします。どうぞさっぽろ雪まつりをお楽しみ下さい」
「ウェルカムさっぽろアクション」と題した運動だ。札幌出身の精神科医、香山リカ氏も東京から駆けつけ、2回マイクを握った。「札幌の良さは自由で大らかなところ。誰かを追い出すような発言は悲しい」。昨春まで3期12年、札幌市長を務めた上田文雄弁護士も続いた。「雪の季節は特に美しい札幌を、差別の言葉で汚してはいけない」
6、7、11日に計5回行われた街宣には、60人が参加し、4カ国語のチラシ6000枚を配布した。札幌市議会から元副議長の大島薫(民主)、太田秀子(共産)両氏が参加し、連合、道労連は街宣車やチラシ印刷で協力した。
会場横で「皆殺しにしろ」
1年前の2015年2月8日、同じ場所で響いていたのは、「日韓断交」「韓国は反日だ」と拡声器で訴える街頭宣伝だった。演説したのは在特会と関係の深い団体メンバーら十数人。これに抗議する市民が「帰れ」と応酬し、警察も出動した。
右派団体や研究者によると、雪まつりでこうしたデモや街宣が始まったのは13年2月10日。「日韓国交断絶推進」を掲げる30人ほどが「朝鮮人を皆殺しにしろ」などと叫びながら、まつり会場のすぐ横をデモ行進した。翌14年2月8日にも、同様のデモが行われた。
3年連続で参加したという在特会の男性は、韓国の李明博大統領(当時)が天皇訪韓に絡み謝罪を求めた発言などを「とんでもない」と批判し、こう持論を述べた。「日韓の国交を断絶させるには、韓国人を怒らせなければならない。だから、韓国人観光客がたくさん来る雪まつりで、あえて激しい言葉を使った。差別的と言われればそうかも知れないが、理由があってやったことだ」
雪まつりは今年で67回目。北海道の冬最大のイベントだ。昨年は235万人が来場し、うち12万8千人は中国、韓国などの外国客。経済波及効果は419億円(第65回の試算)に上る。不景気、人口流出が続く中、観光で生き残りを探る地方にとっては深刻な問題になっていた。
14年の雪まつりでは、「カウンター」と呼ばれる若者らが抗議を始めた。市民団体などが昨年、今年と、官民でつくる雪まつり実行委員会や北海道公安委員会、札幌市などに「人種差別デモ、街宣を認めないで」と要望書を提出した。
しかし、札幌市も警察も動かなかった。まつり実行委は「会場の外で、警察の許可も受けている活動に対し、何かを言う立場にはない」との見解だ。
そこで今年1月、札幌の会社員や弁護士、学生10人が「街全体でヘイトスピーチを許さない雰囲気をつくろう」と運動を発案。ネットの呼びかけや口コミで瞬く間に100人が協力を申し出た。会場周辺の飲食店やホテル、ドラッグストアなど約300カ所を手分けして回り、「ヘイトスピーチ、許さない」と書かれた法務省のポスターを貼ってもらった。「まつりを楽しみに訪れる人たちを悲しませたくない。この一点で、観光業や飲食業に賛同の輪が広がった」(皆川洋美弁護士)という。
右派団体のホームページで「2月7日に雪まつりへ行こう」という呼びかけがあった。在特会の元幹部がまつり期間中に札幌入りするとの観測も流れたが、結局、デモや街宣はなかった。右派団体の一人は「今年はもともと、デモや街宣を行う予定はなかった。『雪まつりへいこう』とネットに書き込んだら、勝手に騒がれた」と言う。実際のところは分からないが、結果的に、雪まつりは平穏を取り戻した。
市長選、市議選でも批判運動
今回の運動の下地になったのは、札幌で13年11月に始まったカウンター行動だ。ヘイトスピーチに対抗してきた市民団体「C.R.A.C. NORTH(クラック・ノース)」などによると、この2年で15回ほど行われた。参加者は徐々に増えて現在は30人前後。一方、ヘイトスピーチのデモや街宣には、当初30人ほどが参加していたが、現在は十数人に減ったという。
ヘイトスピーチを無力化するため、あえて大声で相手を非難するカウンターの手法には、差別反対の人からも批判がある。だが、クラック・ノースの一員、大学院生青木陽子さんは言う。「規制する法律がない、条例がないと言って行政、警察は動かない。札幌では地道な活動が実を結んだ」。
カウンターには、東京電力福島第1原発事故の後、北海道庁前で毎週金曜に脱原発デモを続ける人たちも参加している。その一人、会社員渋谷和也氏(37)は「だめなものはだめ、と声を上げることが自然になった」と話す。
確かに伏線はあった。昨年4月の札幌市議選、札幌市長選だ。「アイヌ民族なんて、いまはもういない」「利権を行使しまくっている」などとツイッターに書き、市議会で辞職勧告決議された金子快之市議(問題発覚時は自民党、のちに同党が除名処分)、「韓国を地球からたたき出せ」などと訴えるデモの先頭に立つ自民党市議の現職2人と、在特会とも連携している右派団体幹部ら新人3人の計5人の市議候補に対し、カウンターのメンバーがSNSなどで批判運動を展開。「生活保護は遺伝する」「(生活保護受給者が多い)大阪は吹きだまり」などと講演した市長候補の新人・本間奈々氏(自民党推薦)についても「偏見むき出しの差別発言だ」と批判した。結果は、全員落選だった。
ヘイトスピーチを問題視する流れは少しずつ強まっている。国連人種差別撤廃委員会は14年、日本政府にヘイトスピーチ取り締まりを勧告。京都の朝鮮学校周辺で街宣した在特会に対しては同年、学校への約1200万円の賠償と、学校近くの街宣禁止を命じた大阪高裁判決が確定した。民主、社民両党などが昨年、国会に提出した規制法案は継続審議になったままだが、今年1月には、大阪市で全国初のヘイトスピーチ抑止条例が成立した。
ただ、在特会北海道支部は全国でも早い07年に発足し、札幌ではメンバーが、憲法改正運動を行う保守団体「日本会議」のデモを手伝ったり、慰安婦問題を否定する写真展を開いたりする活動を続けている。「ウェルカム札幌」を続けられるかどうかは、行政、国の姿勢にもかかっている。
長谷川 綾 (新聞記者)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160226-00010001-socra-soci
市民がカウンター行動に立ち上がった
「朝鮮人は皆殺し」「出て行け韓国人」などの怒号に悩まされていたさっぽろ雪まつり(2月5~11日)が、今年は「ウェルカム札幌」に一変した。3年間、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)を繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などに対抗し、市民有志が「差別を許さない。観光都市札幌を守る」と運動を起こし、これに民主、共産両党の市議や、連合北海道、北海道労働組合総連合(道労連)も協力したからだ。ヘイトスピーチはなくなり、北の大地は平和な雪と氷の祭典を取り戻した。
雪まつり最初の日曜日の7日午後。大勢の家族連れや観光客が行き交うまつり会場のすぐ横、札幌市中央区大通4丁目交差点で、若者たちが「Welcome to Sapporo」の横断幕を掲げた。氷点下4度。寒風が肌を刺すが、大型スピーカーからは、日英中韓4カ国語の温かいメッセージが流れた。「私たちは差別のない街を目指し、全ての人々を歓迎いたします。どうぞさっぽろ雪まつりをお楽しみ下さい」
「ウェルカムさっぽろアクション」と題した運動だ。札幌出身の精神科医、香山リカ氏も東京から駆けつけ、2回マイクを握った。「札幌の良さは自由で大らかなところ。誰かを追い出すような発言は悲しい」。昨春まで3期12年、札幌市長を務めた上田文雄弁護士も続いた。「雪の季節は特に美しい札幌を、差別の言葉で汚してはいけない」
6、7、11日に計5回行われた街宣には、60人が参加し、4カ国語のチラシ6000枚を配布した。札幌市議会から元副議長の大島薫(民主)、太田秀子(共産)両氏が参加し、連合、道労連は街宣車やチラシ印刷で協力した。
会場横で「皆殺しにしろ」
1年前の2015年2月8日、同じ場所で響いていたのは、「日韓断交」「韓国は反日だ」と拡声器で訴える街頭宣伝だった。演説したのは在特会と関係の深い団体メンバーら十数人。これに抗議する市民が「帰れ」と応酬し、警察も出動した。
右派団体や研究者によると、雪まつりでこうしたデモや街宣が始まったのは13年2月10日。「日韓国交断絶推進」を掲げる30人ほどが「朝鮮人を皆殺しにしろ」などと叫びながら、まつり会場のすぐ横をデモ行進した。翌14年2月8日にも、同様のデモが行われた。
3年連続で参加したという在特会の男性は、韓国の李明博大統領(当時)が天皇訪韓に絡み謝罪を求めた発言などを「とんでもない」と批判し、こう持論を述べた。「日韓の国交を断絶させるには、韓国人を怒らせなければならない。だから、韓国人観光客がたくさん来る雪まつりで、あえて激しい言葉を使った。差別的と言われればそうかも知れないが、理由があってやったことだ」
雪まつりは今年で67回目。北海道の冬最大のイベントだ。昨年は235万人が来場し、うち12万8千人は中国、韓国などの外国客。経済波及効果は419億円(第65回の試算)に上る。不景気、人口流出が続く中、観光で生き残りを探る地方にとっては深刻な問題になっていた。
14年の雪まつりでは、「カウンター」と呼ばれる若者らが抗議を始めた。市民団体などが昨年、今年と、官民でつくる雪まつり実行委員会や北海道公安委員会、札幌市などに「人種差別デモ、街宣を認めないで」と要望書を提出した。
しかし、札幌市も警察も動かなかった。まつり実行委は「会場の外で、警察の許可も受けている活動に対し、何かを言う立場にはない」との見解だ。
そこで今年1月、札幌の会社員や弁護士、学生10人が「街全体でヘイトスピーチを許さない雰囲気をつくろう」と運動を発案。ネットの呼びかけや口コミで瞬く間に100人が協力を申し出た。会場周辺の飲食店やホテル、ドラッグストアなど約300カ所を手分けして回り、「ヘイトスピーチ、許さない」と書かれた法務省のポスターを貼ってもらった。「まつりを楽しみに訪れる人たちを悲しませたくない。この一点で、観光業や飲食業に賛同の輪が広がった」(皆川洋美弁護士)という。
右派団体のホームページで「2月7日に雪まつりへ行こう」という呼びかけがあった。在特会の元幹部がまつり期間中に札幌入りするとの観測も流れたが、結局、デモや街宣はなかった。右派団体の一人は「今年はもともと、デモや街宣を行う予定はなかった。『雪まつりへいこう』とネットに書き込んだら、勝手に騒がれた」と言う。実際のところは分からないが、結果的に、雪まつりは平穏を取り戻した。
市長選、市議選でも批判運動
今回の運動の下地になったのは、札幌で13年11月に始まったカウンター行動だ。ヘイトスピーチに対抗してきた市民団体「C.R.A.C. NORTH(クラック・ノース)」などによると、この2年で15回ほど行われた。参加者は徐々に増えて現在は30人前後。一方、ヘイトスピーチのデモや街宣には、当初30人ほどが参加していたが、現在は十数人に減ったという。
ヘイトスピーチを無力化するため、あえて大声で相手を非難するカウンターの手法には、差別反対の人からも批判がある。だが、クラック・ノースの一員、大学院生青木陽子さんは言う。「規制する法律がない、条例がないと言って行政、警察は動かない。札幌では地道な活動が実を結んだ」。
カウンターには、東京電力福島第1原発事故の後、北海道庁前で毎週金曜に脱原発デモを続ける人たちも参加している。その一人、会社員渋谷和也氏(37)は「だめなものはだめ、と声を上げることが自然になった」と話す。
確かに伏線はあった。昨年4月の札幌市議選、札幌市長選だ。「アイヌ民族なんて、いまはもういない」「利権を行使しまくっている」などとツイッターに書き、市議会で辞職勧告決議された金子快之市議(問題発覚時は自民党、のちに同党が除名処分)、「韓国を地球からたたき出せ」などと訴えるデモの先頭に立つ自民党市議の現職2人と、在特会とも連携している右派団体幹部ら新人3人の計5人の市議候補に対し、カウンターのメンバーがSNSなどで批判運動を展開。「生活保護は遺伝する」「(生活保護受給者が多い)大阪は吹きだまり」などと講演した市長候補の新人・本間奈々氏(自民党推薦)についても「偏見むき出しの差別発言だ」と批判した。結果は、全員落選だった。
ヘイトスピーチを問題視する流れは少しずつ強まっている。国連人種差別撤廃委員会は14年、日本政府にヘイトスピーチ取り締まりを勧告。京都の朝鮮学校周辺で街宣した在特会に対しては同年、学校への約1200万円の賠償と、学校近くの街宣禁止を命じた大阪高裁判決が確定した。民主、社民両党などが昨年、国会に提出した規制法案は継続審議になったままだが、今年1月には、大阪市で全国初のヘイトスピーチ抑止条例が成立した。
ただ、在特会北海道支部は全国でも早い07年に発足し、札幌ではメンバーが、憲法改正運動を行う保守団体「日本会議」のデモを手伝ったり、慰安婦問題を否定する写真展を開いたりする活動を続けている。「ウェルカム札幌」を続けられるかどうかは、行政、国の姿勢にもかかっている。
長谷川 綾 (新聞記者)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160226-00010001-socra-soci