週刊金曜日 2025年1月23日7:02PM
大学で担当する「こどもと教育」の講義で、学生が言った。「僕は子どもが大好きです。だからこそ日本で子どもを持ちたいとは思わない。子どもたちは学校でいつも点数をつけられ、優秀な子どもだけがもてはやされる。まるで日々、虐待を受けているようなもの」。評価が子どもをどれほど傷つけているか。本来の学ぶよろこびを奪うものは何か、考えさせられる。
『森は生きている』の少女役で有名な俳優・伊藤巴子さんに誘われ、「おやこ劇場」にかかわりだして20年近くになる。
先月の会合では、人形劇団ポポロ、人形劇団むすび座、前進座、東京芸術座、東京演劇アンサンブル、オペラシアターこんにゃく座、青年劇場、劇団風の子などが参加し、全国の学校公演で、学校側の劇作品を選ぶ基準や反響について報告があった。
ある劇団は各地に伝わる舞踊を披露したら、「アイヌ舞踊」について「偏っていますね」と管理職の教員から言われた。ほかの劇団からは、「戦争」や「死」を扱うと学校から忌避される傾向があるという。私は、広島の「被爆ピアノ」の調律師が、福島原発事故後に福島市内の学校で話をする前に、校長から「放射能には触れないでほしい」と言われたと報告した。
学校が、子どもたちにも降りかかる現在進行形の問題を避けている。危機感を覚えた私は7年前、核の問題を子どもたちに伝えたいと、第五福竜丸物語『くじらのこえ なみのこえ』(脚本・山谷典子)を制作した。1954年、米国の水爆実験に遭遇し被曝した第五福竜丸の船員・大石又七さんとクジラとイルカが互いを気遣いながら航海を続ける物語だ。
作中、生まれたばかりのイルカの赤ちゃん「プティー」が被曝して亡くなる場面がある。公演後の夜、幼児が夢で「プティー、ごめんね」と寝言で繰り返したと母親から報告があった。核を持った人間の責任は自分にもあると、小さな胸を痛めながら幼児は謝っていたのだろう。
会合の終盤、劇団の一人が「大学生のころ本多勝一さんの本を読み、衝撃を受けた。日本が侵略した中国を歩く本多さんがその大地で、『日の丸』を見ることにどれほどの戦慄を覚えたかを知った。以来、『日の丸』への意識が変わった」という。真実は他者の記憶の中に(も)ある。子どもが真実から学べる場がもっと増えてほしい。
(『週刊金曜日』2024年12月13日号)
https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2025/01/23/fuusokukei-111/