精力的に小説、詩を発表し続けている井本元義さんの小説。
「星と空 R共和国奇譚」は表題通りの奇譚もの。奇想の着想が決め手になる。で、書き始めは、
毎年この晩春の頃になると私は憂鬱の極みに入りこむ。生暖かい夕風が首筋を撫でていったり、
急に冷気が背筋を走ったりすると、最初は苛立ったりしてもすぐに諦めと悲しみに落ち込む。
「私」は、そんな日々の中で、花の香りに誘われ続ける。
それは、過去の思い出を引き出す連想であり、また、危険や陶酔へと誘う香りでもあった。そんな
「私」のもとに、一通の手紙が届く。かつて関わったことがあるR共和国からのツアーの誘いである。
R共和国。山岳民族国家で、チベット、中国、ミャンマーと国境を接しているとされる。80年に一度
のペルセウス座流星群が見られるということ、巨大食中花の観覧や鳥葬の秘儀にも案内するという内容
に「私」は惹きつけられる。そして、ツアーに参加した「私」は、鳥葬の残酷さに打ちのめされながら、
存在の空無を感じる。また、流星群の中に吸い込まれていく至福の時も経験する。そうして、「私」は
食中花に捉えられてしまうのだ。
鳥葬の描写が興味深かった。作者は実際に鳥葬に出会ったことがあるのだろうか。また、流星群と一体
化する場面もよかった。山岳で近づく星々の分だけ、あちら側への誘惑が強くなり、いつか、こちら側か
ら逸脱してしまう。それは恐怖だろうか愉悦だろうか。
奇譚にしばし、酔うことができた。
井本さんの小説は大杉栄にフィクションを絡めた「偽手紙」も面白かった。これは同じ同人誌「海」の
前号である15号に掲載されている。
また、井本さんのブログ「あちらこちら文学散歩」は、ランボーを始めとして、様々な文学散歩があって
楽しめる。この名前でググれば、出会える。
「星と空 R共和国奇譚」は表題通りの奇譚もの。奇想の着想が決め手になる。で、書き始めは、
毎年この晩春の頃になると私は憂鬱の極みに入りこむ。生暖かい夕風が首筋を撫でていったり、
急に冷気が背筋を走ったりすると、最初は苛立ったりしてもすぐに諦めと悲しみに落ち込む。
「私」は、そんな日々の中で、花の香りに誘われ続ける。
それは、過去の思い出を引き出す連想であり、また、危険や陶酔へと誘う香りでもあった。そんな
「私」のもとに、一通の手紙が届く。かつて関わったことがあるR共和国からのツアーの誘いである。
R共和国。山岳民族国家で、チベット、中国、ミャンマーと国境を接しているとされる。80年に一度
のペルセウス座流星群が見られるということ、巨大食中花の観覧や鳥葬の秘儀にも案内するという内容
に「私」は惹きつけられる。そして、ツアーに参加した「私」は、鳥葬の残酷さに打ちのめされながら、
存在の空無を感じる。また、流星群の中に吸い込まれていく至福の時も経験する。そうして、「私」は
食中花に捉えられてしまうのだ。
鳥葬の描写が興味深かった。作者は実際に鳥葬に出会ったことがあるのだろうか。また、流星群と一体
化する場面もよかった。山岳で近づく星々の分だけ、あちら側への誘惑が強くなり、いつか、こちら側か
ら逸脱してしまう。それは恐怖だろうか愉悦だろうか。
奇譚にしばし、酔うことができた。
井本さんの小説は大杉栄にフィクションを絡めた「偽手紙」も面白かった。これは同じ同人誌「海」の
前号である15号に掲載されている。
また、井本さんのブログ「あちらこちら文学散歩」は、ランボーを始めとして、様々な文学散歩があって
楽しめる。この名前でググれば、出会える。