『先祖になる』 http://senzoninaru.com/
東北・関東・長野・名古屋・関西でも上映されます。 http://senzoninaru.com/theater.html
渋谷シアターイメージフォーラムで見てきました。
6:30からの回は英語字幕つきです。
感想レビューを書いてみました。ここからです。-------
これは陸前高田の77才のきこりの佐藤直志さんが3.11後の一つの夢を
かなえる物語である。
佐藤さんの自宅は2階まで津波につかった。けれども気仙大工のすばらしい
仕事のおかげで柱は全く傾いておらず水平を保っているのである。
とはいっても一度津波の水につかった家、生活するには厳しいものがある。
周りの住人たちが仮設に入っていくのに、佐藤さんは頑として行かなかった。
そして、また自宅を新築するという夢に向かって歩き出すのである。
映画の冒頭、役所の人との佐藤さんや近所の人たちとのやりとり。
仮設住宅へ行くことを勧める役所の人。でも頑として行かないと
言い張る人たち。また津波が来ると危ないから、仮設へ行くように
勧めるが行かない人たちがいるって、聞いたことあったけど、
この人たちだったのか!
危険な場所から移動しない人たちがいるという報道だけでは、
その人たちの思いは知りようもない。
「法律は人を守るためにある」のに、再出発をしようとしている
自分たちを邪魔するのはおかしいだろ、ならば法律を曲げろ!
という言葉。こんなことがあちこちで起きているんだろう。
自分はきこりだから、と山へ行って自ら木を切り出す。
その土地に根付いたきこりはたくましい。
「きこりは山の中で水さえあれば生きていける。」
するすると身軽に木に登っていく。とても77才とは思えない。
佐藤さんは自分の住む土地とそこの自然と、そしてご先祖様と
しっかりとつながっているのだと思った。
津波に流されずに小屋にあった昭和20年代に使っていた
きこりの道具の数々。いろんな形の錆びたのこぎり。
佐藤さんがご先祖さまから受け継いだきこりとしての
目に見えない財産を感じる。
映画の中では息子さんのこと、お嫁さんのこと、そして奥さんも登場する。
息子さんは消防団員で、歩けないお年寄りを背負って避難する途中で
津波に流されてしまい、命を落としてしまった。
津波でたくさんの消防団員が亡くなったのをテレビ番組で知ったが、
息子さんもその一人だったのだ。
震災の次の日に、なんと次男に娘が生まれた。
「のぞみ」ちゃんと名づけられた赤ちゃんは、まさに希望の光だ。
奥さんはカメラの前で率直だ。頑固じいさんに連れ添うのも一苦労。
きれいごとではない彼女の言葉に思わず笑みが漏れてしまう。
気仙のけんか七夕。この祭りも震災後、開催は不可能と思われた。
でも何とか町内の人たちの力で祭りをやることができた。
その祭りの中でも佐藤さんは重要な役割を果たしていた。
思い出のつまった家をついに解体する。そして夢へまた一歩近づく。
ラストシーンは神々しかった。
佐藤さんみたいな生き方はそうそうできない。
でもこんな生き方ができたらいいと思う。
勤労すること、これを忘れちゃいけないという佐藤さんの言葉。
つまり佐藤さんにとっては生きることは勤労するということなのだ。