共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

静謐な祈りの音楽 ~ バッハ=シュテルツェル 《 あなたが傍にいて下さるなら Bist du bei mir BWV 508 》

2018年11月16日 21時50分35秒 | 音楽
今日、かつてよくお仕事を御一緒した方の訃報に接しました。長いこと病魔と闘っておられるという話は伺っていましたが、最期は奥様に看取られて眠るように彼岸に発たれたとのことでした。

虫の知らせというのでしょうか、実は昨日楽譜の整理をしていたら、ある楽譜の間からコピーの楽譜がハラリ…と足元に落ちたのです。それは随分昔にリサイタルで使ったバッハの《アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳》の中に編纂されているアリア《あなたが傍にいて下さるなら》のコピー譜でした。

この曲はバッハが二度目の妻であるアンナ・マグダレーナのために編んだ《アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳》の第二巻に収録されているもので、正確にはバッハの作品ではなく、同時代にドイツで活躍し生前はバッハを凌ぐ名声を誇っていたゴットリート・ハインリヒ・シュテルツェル(1690~1749)作のものと伝わっています。

内容は

Bist du bei mir, geh ich mit Freuden
zum Sterben und zu meiner Ruh.
Ach, wie vergnuegt waer so mein Ende,
es drueckten deine schoenen Haende
mir die getreuen Augen zu.

あなたが傍にいて下さるなら、私は喜んで行きましょう。
死へと、そして私自身の安らぎへと。
ああ、どれほど私の最期が満ち足りることでしょう、
あなたの美しい手が
私の誠実な眼を閉ざしてくれるのなら。

という臨終の歌です(元々はオペラアリアだったようですが、残念ながら作品は散逸してしまっています)。

昨日の時点では、なんでこんな忘れかけていた楽譜がヒラヒラと落ちてきたのかしら?…くらいに思っていました。しかし、明けて今日になって訃報に接した時に、何らか非常に深い意味を持って現れたのではないか…と思えてなりませんでした。

愛する奥様に看取られて逝去されたことは、恐らく幸せなことだったのではないかと思います。病苦から解き放たれたことも何よりでした。関西にお住まいでお子さんも親類もいらっしゃらないため、奥様だけで葬儀を済まされるとのことでした。お花も香典も不要、ただ、主人のことを覚えていてあげて下さい…とのことでしたので、そのようにさせて頂くことにしました。ただ、せめてもの野辺送りとして、この上なく静謐な死への祈りの音楽を送らせて頂きます。

故人の御冥福を心より御祈念申し上げます。合掌。

Bach - Bist du bei mir BWV 508 - Daniels | Netherlands Bach Society
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