共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

立秋前の夏の日に〜ヴィヴァルディ・ヴァイオリン協奏曲『夏』

2023年08月07日 18時20分10秒 | 音楽
昨日の天気予報では今日は一日曇り空で雨も降る…と言っていたのですが、蓋を開けてみればそんなことはなく、空に雲も点在していたものの隙間から強烈な日差しが降り注ぐ日となりました。日差しの無い日を期待していただけに、裏切られたショックはなかなかのものです…。

それでも明日は暦の上では立秋を迎えますから、日本の夏は今日まで…ということになります。もっとも、

「どこがやねん!」

と激しくツッコまれそうではありますが…。

そこでふと、今年の夏に入ってから一度も聴いていない音楽があることを思い出しました。それが、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『夏』です。

ご存知のとおり、ヴァイオリン『夏』は



アントニオ・ヴィヴァルディが作曲した全12曲のヴァイオリン協奏曲集《和声と創意の試み作品8》の最初の4曲〜『春』『夏』『秋』『冬』〜をまとめた《四季》の一曲です。ただ、ヴィヴァルディ自身は作品8の献辞以外でこれらの4曲を《四季》と称したことはありません。

《四季》の各曲はそれぞれ3つの楽章から成り立っていて、各楽章には短いソネット(詩)が付されています。これらのソネットの作者は不明ですが、実はヴィヴァルディ自身の作だ…という説もあります。

因みに『夏』につけられたソネットは


第1楽章

太陽が照り付ける厳しい季節に人も羊の群れもぐったりし、松の幹も燃えるように熱い

A Sotto dura Stggion dal Sole accesa Langue l'huom, langue 'l gregge ed arde il Pino;

よく通る声でカッコーが鳴き出すと それに合わせて

Scioglie il Cucco la Voce, e tosto intesa

キジバトとゴシキヒワが歌い出す

Canta la Tortorella e 'l gardelino

心地よくわたるそよ風を、突然立った北風が押しのけ

Zeffiro dolce Spira, ma' contesa
Muove Borea improviso al Suo vicino;

ひと荒れ来そうな嵐におびえる

E piange il Pastorel, perche Sospesa

羊飼いの子は不運に涙を流す

Teme fiera borasca, e 'l suo destino;

第2楽章

疲れきった体に休息を与えないのは

Toglie alle membra lasse il Suo riposo

稲光と激しい雷鳴への不安

Il timore de' lampi, e tuoni fieri

それにうるさく飛び回るハエや羽虫の群れ!

E de mosche, e mossoni il Stuol furioso!

第3楽章

ああ何ということか 不安は的中し

Ah che pur troppo i Suo timor Son veri

天は雷を轟かせ 閃光を放ち 雹交じりの雨は

Tuona e fulmina il Ciel e grandinoso

小麦やその他の穀物の穂をへし折る

Tronca il capo alle Spiche e a' grani.

…となっています。

他の季節には楽しげな表現のソネットも見られるのですが、こうして見ると『夏』に関してはポジティブな表現が全く見られません。『春』では楽しそうに鳴き交わしていたカッコウやゴシキヒワも『夏』では喉の乾きを訴えるように気怠そうに鳴き、木陰のうたた寝も羽虫や雷鳴に邪魔されて思うようにいかず、終いには雹まで降ってきて農産物に大ダメージを与えるのですから、たまったものではありません。

これを読むと、いかにヴィヴァルディが夏が嫌いだったかを垣間見ることができます。現代ほどではなかったにせよ、当時の夏も不快なものだったのでしょう。

そんなわけで、今日はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『夏』をお聴きいただきたいと思います。暦の上での最後の夏の日を、佐藤俊介氏のヴァイオリン・ソロによるネーデルラント・バッハ・ソサエティの演奏でお楽しみください。





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