共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はマーラーの祥月命日〜性格が垣間見える自筆譜ーアバド指揮による『アダージェット』

2024年05月18日 16時50分15秒 | 音楽
今日の日中は、かなりの暑さとなりました。日陰に入ると風は涼しいのですが、まだ5月なのにこの暑さは堪りません…。

ところで、今日5月18日はマーラーの祥月命日です。



グスタフ・マーラー(1860〜1911)は、主にオーストリアのウィーンで活躍した作曲家・指揮者で、交響曲と歌曲の大家として知られています。

1907年(47歳)12月、マーラーはニューヨークのメトロポリタン歌劇場から招かれてウィーンから渡米して《交響曲第8番変ホ長調》(千人の交響曲)を完成させましたが、翌1908年5月にはウィーンへ戻りました。そしてトーブラッハ(旧オーストリア領・現在のドロミテ・アルプス北ドッビアーコ)で《交響曲『大地の歌』》を仕上げ、秋に再度渡米しました。

1909年(49歳)にはニューヨーク・フィルハーモニックの指揮者となりますが、春にまたヨーロッパに帰ることとなりました。夏にトーブラッハで《交響曲第9番ニ長調》に着手して約2カ月で完成させた後、10月には再び渡米して旺盛な指揮活動を続けていました。

1910年8月(50歳)、マーラーは自ら精神分析医ジークムント・フロイトの診察を受けることを決意しました。18歳年下の妻アルマが自分のそばにいることを一晩中確認せざるを得ない強迫症状と、崇高な旋律を作曲している最中に通俗的な音楽が浮かび、心が掻き乱されるという神経症状に悩まされていましたが、フロイトによりそれが幼児体験によるものであるとの診断を受け、そこからは劇的な改善をみるようになっていきました。

マーラーは、かつて作曲家だった妻アルマの作品を世に出すことを固く禁じていましたが、ここへきてようやく彼女の作品出版を勧めるようになりました。同年9月12日にはミュンヘンで《交響曲第8番》を自らの指揮で初演し、成功を収めました。

1910年冬からの演奏会シーズンもニューヨーク・フィルハーモニックで精力的に演奏会活動を続けていたマーラーでしたが、冬に咽喉炎を患い、翌1911年2月(50歳)に発熱もしました。医師の見立てで連鎖球菌による感染性心内膜炎と診断されたマーラーはパリで治療を受けましたが回復の見込みが立たず。最終的に病躯をおしてウィーンに戻ることとなりました。

そして、51歳の誕生日の6週間前だった5月18日の暴風雨の夜、マーラーはこの世を去りました。遺骸はウィーン郊外のグリンツィング墓地に埋葬されましたが、

「私の墓を訪ねてくれる人なら、私が何者だったのか知っているはずだし、そうでない連中にそれを知ってもらう必要はない」

という生前のマーラー自身の考えを反映して、



墓石には「GUSTAV MAHLER」という文字以外、生没年を含め何も刻まれていません。

さて、そんなマーラーの祥月命日にご紹介するのは《交響曲第5番嬰ハ短調》より『アダージェット』です。

《交響曲第5番嬰ハ短調》は、マーラーが1902年に完成させた交響曲で、5つの楽章からなっています。マーラーの作曲活動の中期を代表する作品に位置づけられるとともに、作曲された時期はウィーン時代の絶頂期とも見られる期間に当たっている作品です。

『アダージェット』はこの交響曲の第4楽章に相当する曲で弦楽合奏とハープのみで演奏され、壮大な規模の第3楽章とフィナーレである第5楽章との架け橋となる間奏曲のような立ち位置の音楽です。自筆譜を見てみると



長く歌う弦楽合奏の間をハープが印象的に分散和音を奏でていきますが、神経質なまでの几帳面さで音符ひとつひとつが書かれているのが分かります。

この第4楽章『アダージェット』は、ルキノ・ヴィスコンティ監督による1971年の映画『ヴェニスに死す』で使われたことで、後のマーラーブームの火付け役を果たしました。また



この曲を筆頭にして1995年に発売されたヘルベルト・フォン・カラヤンのコンピレーションアルバム『アダージョ・カラヤン』が全世界で500万部以上を売り上げたことで、この『アダージェット』は今やマーラー音楽の代名詞的存在ともなっています。

そんなわけで、今日はマーラーの《交響曲第5番嬰ハ短調》より第4楽章『アダージェット』をお聴きいただきたいと思います。クラウディオ・アバド指揮、ルツェルン祝祭管弦楽団の演奏で、ヴィスコンティ監督や帝王カラヤンをも魅了したマーラーの名作をお楽しみください。



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