共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日は伊福部昭氏の誕生日〜前橋汀子のヴァイオリンによる《協奏風狂詩曲》

2021年05月31日 15時45分40秒 | 音楽
今日も暑い日となりました。昨日程ではないものの5月だというのに何だかすっかり夏のようで、関東地方がまだ梅雨入りしていないことが信じられないくらいです。

ところで今日5月31日は日本を代表する作曲家で、現在では映画《ゴジラ》の音楽(1954年)の作曲家として広く知られている伊福部昭(いふくべあきら)氏の誕生日です。



伊福部昭(1914〜2006)は現在の北海道釧路市で生まれました。中学時代に独学でヴァイオリンを始め、北海道帝国大学林学科を卒業後に森林事務所に勤めながら、日本の中央の音楽界とは全く接点のないまま殆ど独学で作曲を続けていました。

伊福部氏の名が一躍知られるきっかけとなったのは1935年、大学卒業の年に行われた「チェレプニン賞」に《日本狂詩曲》を応募して第1位を獲得したことでした。伊福部氏の音楽は、出身地北海道のアイヌ音楽をはじめとした日本の土俗的な民謡を下敷きにした迫力あるオーケストレーションで、他にはない独自の圧倒的な音楽作りをしたことがチェレプニン賞の審査員たちの興味を大いに掻き立てたのでした。

この作品の楽譜は本審査の行われるパリに送られる前に一度東京の音楽事務所に送られたのですが、そこでこの曲の楽譜を見た日本の中央の音楽界関係者たちが、何とパリへの送付を一度阻止しようとしました。理由はクラシック音楽の楽典的に禁則とされている技法が見られることや、当時下衆で野蛮と見られていた日本の土俗的な旋律が使われていること、演奏に要求されたオーケストラがとんでもなく大規模なこと(打楽器だけで奏者が9人も必要!)、そして今では信じられないのですが、この作品が北海道の厚岸町という片田舎から送られてきたことでした。

今では

「北海道厚岸町から送られてきたというだけでボツにしようとはけしからん!」

と言われるようなことですが、戦前にはこうした地域差別はよくあることだったようです。ただ、なんだかんだ楽譜は無事にパリに送られて結果的にその曲が第1位を獲得したのですから、阻止しようとした東京の音楽事務所の面目は丸潰れだったことでしょう(この《日本狂詩曲》が日本で初演されたのは、何と作曲から45年も経った1980年のことでした)。

因みに伊福部昭氏の甥で、東京大学先端科学技術研究センター教授の伊福部達(いふくべとおる)氏は、緊急地震速報の『ジャランジャラン!』というあの嫌なアラーム音を作った方です。何でも、叔父さんが1955年に作曲した交響曲《シンフォニア・タプラーサ》という作品の一節を元にして作られたのだとか…(-_-;)。

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ところで非常に個人的な話ですが、実は私は一度だけ晩年の伊福部昭氏を目撃したことがあります。

亡くなる数年前でしたが、横浜のみなとみらいホールに聴きに行ったコンサートで、伊福部氏が1948年に作曲した《ヴァイオリンとオーケストラのための協奏風狂詩曲》が採り上げられていました。その演奏後に聴衆が拍手をしているとホールが突然明るくなり、指揮者とソリストが客席に向かって手を差し伸べはじめました。

何だろう?と思っていると、客席中程に座っていた黒いタキシードを着て黒い蝶ネクタイを着けたオシャレな御老体がゆっくりと立ち上がりました。その御老体こそ伊福部昭氏その人だったのです。どうやら、自身の作品が演奏されるということで会場に臨席されていたようでした。

伊福部氏が立ち上がると、会場から割れんばかりの拍手が沸き起こりました。私はその時2階席に座って見ていたのですが、伊福部氏はその拍手に応えるように手を振りながら会場を見渡し、にっこりと微笑んでいました。

そんなわけで、今日はその時に演奏された《ヴァイオリンとオーケストラのための協奏風狂詩曲》の動画があったので転載してみました。前橋汀子のヴァイオリンソロ、山田一雄指揮、東京フィルハーモニー交響楽団による1960年収録の演奏でお楽しみください。

はじめに片山杜秀氏による解説があって、4:50から音楽が始まります。長いな…と思われる方は、動画の11:15に飛んでみてください。ちょっとビックリするかも知れません(笑)。



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