共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はショスタコーヴィチの誕生日〜《24の前奏曲とフーガ 作品87》より第7番イ長調

2023年09月25日 17時10分10秒 | 音楽
朝のうちは爽やかな涼風が吹いていましたが、日中になるにつれて陽光が暑くなってきました。折角彼岸に入って涼しくなったと喜んでいたのに、なかなかいい感じにはなってくれないようです。

ところで、今日9月25日はショスタコーヴィチの誕生日です。



ドミートリイ・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)はソビエト連邦時代の作曲家で、交響曲や弦楽四重奏曲が有名です。

ショスタコーヴィチの生涯については何度か書いているので、今回は割愛します(めんどくさいだけぢゃねぇのか…?)。それで、今回ご紹介するのは《24の前奏曲とフーガ 作品87》というピアノ曲です。

《24の前奏曲とフーガ 作品87》は、ショスタコーヴィチが44歳の時に作曲した24の前奏曲とフーガからなるピアノ曲集です。発表当初は酷評されたこともありましたが、現在では20世紀ソ連のピアノ音楽を代表する作品として名高いものとなっています。

ショスタコーヴィチは1950年7月に、バッハの没後200年を記念してライプツィヒで開催された『第1回国際バッハ・コンクール』の審査員に選ばれ、ソ連代表団長として参加しました。この記念祭にバッハの作品を多く聴いたことと、バッハ・コンクールに優勝したソ連のピアニスト、タチアナ・ニコラーエワ(1924〜1993)の演奏に深く感銘を受けたことが、ショスタコーヴィチがこの作品を作曲するきっかけとなりました。

ショスタコーヴィチは早速、1950年10月10日から作曲に着手し、次々に前奏曲とフーガを作曲しました。当初は自身のピアノ演奏の技術を完成させるための多声的な練習曲として着想していたようですが、記念祭を通して受けた印象をもとに構想が次第に大きくなり、途中からバッハの《平均律クラヴィーア曲集》にならって全ての調性を網羅する大規模な連作として作曲することに決定し、翌1951年2月25日に全曲が完成しました。

後に差し替えられた第16番の前奏曲を除いて番号通りの順番で作曲され、1曲完成するたびに、ニコラーエワがショスタコーヴィチのために弾いたといいます。抜粋による初演は1951年4月5日にショスタコーヴィチ自身の演奏によって、全曲初演はニコラーエワによって1952年12月23日と12月28日の2日間で行われました。

発表された当初、初演の直後に行なわれた同年5月16日の合評会では、1948年からソ連国内での芸術活動に対して吹き荒れた『ジダーノフ批判』も相俟って、党から「理想主義的傾向」や「形式主義的傾向」にあたるとして厳しい批判を受けましたが、ニコラーエワをはじめとしたソ連のピアニストたちからは絶大な支持を受けました。彼らがこの曲集を積極的に演奏してその普及に貢献したことによって、やがてロシアのピアニストたちの重要なレパートリーとして定着し、ショスタコーヴィチ自身も愛奏してこの曲集から抜粋を何度も録音しています。

さて、この曲集を全曲載せるととんでもない時間になってしまうので、今回はその中から個人的に好きな第7番イ長調をご紹介しようと思います。

前奏曲はアレグロ・ポコ・モデラートで、この曲集のモデルとなったバッハのような雰囲気を有しているように思える作品です。



長く引き伸ばされたトニック・バス上で演奏されるジークのような旋律は、跳躍が多いながらも優雅で繊細です。バロック的に始まった楽曲は進んでいくにつれて次第に半音的な進行が目立つようになり、♯3つの調からはかけ離れたフラット系の調に達したかと思えば、唐突に主調のイ長調へと回帰して終結してフーガへ続きます。

3声のフーガはアレグレットで抑制された優美さと純朴さをもっていて、主題は



高さこそ違え全ての音がイ長調の主和音であるラ・ド♯・ミの音だけで構成されている点は非常に珍しく、興味深いものとなっています。この3つの音でテーマが構成されることによって楽曲全体の和声リズムが引き伸ばされ、その結果曲全体の和声的な安定性が高められるという効果を発揮しています。

そんなわけで、ショスタコーヴィチの誕生日である今日は《24の前奏曲とフーガ 作品87》から第7番イ長調をお聴きいただきたいと思います。バッハっぽいな…と思っていたら思わぬ転調がきて『およっ!?』と思わされる前奏曲と、イ長調のドミソにあたる音だけでテーマが構成された斬新で愛らしいフーガとの組み合わせの妙味をお楽しみください。



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