今日は久しぶりにオーケストラの練習があり、都内まで出かけていました。東京スカイツリーの近くまで行ったのですが、厚木から向かうとなかなかの距離で、移動だけでもちょっと大変でした(汗)。
今回の演奏会は
§ 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲
(モーツァルト)
§ リュートのための古典舞曲とアリア第3組曲
(レスピーギ)
§ ハイドンの主題による変奏曲 管楽合奏版
(ブラームス)
§ 交響曲第31番ニ長調《パリ》
(モーツァルト)
というラインナップです。
今回のメインである交響曲第31番ニ長調はモーツァルトが1778年に作曲した交響曲で、パリの演奏団体コンセール・スピリチュエルの支配人ジャン・ル・グロからの依頼によって作曲されたため《パリ》の愛称で呼ばれることがあります。モーツァルトの交響曲としては1774年に発表された第28番ハ長調以来、3年半ぶりの作品となりました。
上の写真はモーツァルトによる《パリ》の自筆譜ですが、一番上の段に第1ヴァイオリンのパートが、その下に第2ヴァイオリンとヴィオラ、一番下にチェロとコントラバスのパートが書かれていて、その弦楽器群に挟まれるように管打楽器パートが書かれています。初演は1778年6月18日のコンセール・スピリチュエルの演奏会で行われ、聴衆に大ウケする大成功を収めたと伝えられています。
この曲は、かつてモーツァルトが学んだマンハイム楽派の影響や、派手好きなパリの聴衆の好みに合わせたフランス趣味が盛り込まれた点が特色のためいわゆるモーツァルトらしい音楽とはちょっとテイストが違い、特に冒頭の音階による力強いユニゾンはベートーヴェンっぽさすら感じます。楽器編成の上では初めて2本のクラリネットを含む完全な2管編成をとっていますが、これもモーツァルトがマンハイムの優れた大規模オーケストラでこの楽器を十分に知った上で、パリのオーケストラでもそれを十分に活用できていたことによります。
因みにモーツァルトはどうも当時のフルートの機能面に不満があったらしく、オペラを除くと交響曲や協奏曲では大抵フルートは1本しか使われることがありません。モーツァルトの交響曲でフルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルン・トランペットが各2本ずつ使われている完全な2管編成の作品は、この《パリ》と第35番《ハフナー》の2曲だけです。
作曲するにあたってはモーツァルトにしては異例なほどの推敲を重ねた上、依頼主であるジャン・ル・グロから
「やたら転調が多くてよく分からん。」
というクレーム…基、注文が来たことによって第2楽章を丸々書き直すという過程を経て完成しました。もしベートーヴェンに楽章一つを丸々書き直せなんて無茶な注文をしようものならブチ切れてしまうところでしょうが、注文主の要望に応えるのがプロだと思っていたモーツァルトにとっては、楽章一つくらい造作もないことだったのでしょう。
それにしても、1778年のパリといえば激動のフランス革命勃発までもう10年を切っています。恐らく当時のパリの人たちの間に溜まりつつある特権階級への鬱憤や閉塞感のはけ口を音楽に求め、モーツァルトはそれに応えてかくも華やかな曲を書いた…といったら考え過ぎでしょうか。
そんなわけで、今日はそのモーツァルトの華やかな交響曲第31番《パリ》を、20世紀の巨匠の一人であるカール・ベーム指揮によるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でお楽しみください。