共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はルイ・シュポアの祥月命日〜重厚な《複弦楽四重奏曲第4番ト短調》

2022年10月22日 16時40分50秒 | 音楽
今日は朝から曇りがちの空が広がり、気温も予想された程には上がりませんでした。風も結構冷たい感じで、長袖シャツでちょうどいいくらいでした。

ところで、今日10月22日はシュポーアの祥月命日です。



ルイ・シュポーア(1784〜1859)はドイツ出身のヴァイオリニスト、作曲家、指揮者です。ドイツ語の本名はルートヴィヒ・シュポーアですが、ヨーロッパ中でヴィルトゥオーゾとして活躍するにあたってフランス語名のルイを名乗るようになりました。

1805年から1812年までゴータの宮廷楽長に就任したシュポーアですが、1808年にはウィーンでベートーヴェンと知り合い、ピアノ三重奏曲《幽霊》の練習に加わりました。1813年から1815年の間はウィーンに滞在してアン・デア・ウィーン劇場の指揮者を務め、1813年12月8日に行われたベートーヴェンの《交響曲第7番イ長調》と《戦争交響曲》の初演にも参加しました。

1817年から1819年まではフランクフルト歌劇場のオペラ監督となり、ウィーンでは劇場オーナーとの諍いによって上演を拒否された自身初のオペラ《ファウスト》を上演することができました。1822年からはカール・マリア・フォン・ヴェーバーの申し出によって、カッセル選帝侯の宮廷楽長の役職を得ることができました。

1851年、カッセルの選帝侯は雇用契約に基づく権利であるシュポーアの2か月の休暇について許可証への署名を拒否しましたが、シュポーアが許可証なしに演奏旅行に出発したため、給与の一部が差し引かれることになってしまいました。最終的に1857年には自らの望みに反して宮廷楽長職を引退させられてしまい、シュポーアの収入は一気に減少してしまったのでした。

1857年の冬、事故によって腕を骨折したため演奏家としてのキャリアは終焉を余儀なくされてしまったシュポーアでしたが、指揮者としてはその後も活躍していました。しかし2年後の1859年10月22日にシュポーアはカッセルで死去し、当地の中央墓地に埋葬されました(享年75)。

そんなシュポーアの作品の中から、今日は《複弦楽四重奏曲第4番ト短調》をご紹介しようと思います。

ヴァイオリニスト、作曲家、指揮者としてヨーロッパ中を席巻したシュポーアは、その生涯にヴァイオリンデュオや弦楽四重奏、弦楽五重奏をはじめとした48曲もの弦楽アンサンブルのための作品を遺しましたが、その中でも特異なものとして『複弦楽四重奏曲』というものがあります。シュポーアがヴァイオリニストのアンドレアス・ロンベルク(1767〜1821)と弦楽四重奏曲を演奏した時に、

「2つの弦楽四重奏団が共に響きあったら、どんなに素晴らしい音楽ができるのだろう」

と思いついたのが作曲のきっかけだということですが、自身がヴィルトゥオーゾでもあったシュポーアならではの工夫が凝らされた複弦楽四重奏曲は、室内楽ながらも厚みのある響きの作品となっています。

楽器編成としてはメンデルスゾーンも手掛けた弦楽八重奏と同じといってもいいのですが、シュポーアの複弦楽四重奏曲はあくまでも弦楽四重奏✕2ということで構想されています。シュポーア自身は

「メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲は8つの弦楽器が全て同等に扱われているが、私の複弦楽四重奏曲は2つの弦楽四重奏の協調なので意味合いが全く違う。」

と語っていますが、2つの弦楽四重奏団がある時はぶつかり合い、ある時は溶け合いながら音楽を紡いでいく様は独特のものです。

この第4番ト短調も、弦楽四重奏✕2団体という編成ならではの濃密な音楽が満載です。各パートに奏でられるつむじ風のような音型が特徴的な第1楽章、暖かくも濃密なアンサンブルが展開していく第2楽章、2つの弦楽四重奏団が丁々発止にかけ合う第3楽章、重厚なアンサンブルからト長調のフィナーレへと結ばれる第4楽章と、なかなか聴き応えのある作品となっています。

そんなわけで、シュポーアの祥月命日である今日は《複弦楽四重奏曲第4番ト短調》をお聴きいただきたいと思います。バッハ・コレギウム・ジャパンのチェリストでもある鈴木秀美氏をはじめとしたアンサンブルによる、濃厚なシュポーアの音楽世界をお楽しみください。



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