秋らしい肌寒い空気の中、今日はほぼ2週間ぶりに上野の東京国立博物館に足を運びました。こちらで開催中の特別展《正倉院の世界 ー皇室がまもり伝えた美ー》の後期展示が始まったので、再び鑑賞しに来ました。
前半の展示はほぼ前回と変わりませんが、今回の展覧会のメインでもあった『螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)』は前期で展示を終え、後期は『紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ)』が展示されていました。
こちらは今日見られる琵琶と同じ形状のもので、弦は四本、ネックの先は後方に90度曲がっています。撥当の部分には革が張られ、狩に興じる騎馬人物や酒宴に饗じる人物が描かれています。
そして、この琵琶も五絃琵琶同様に華麗な装飾が施されています。裏板には
様々な色の木や象牙等の象嵌で花鳥画が描かれ、螺鈿で埋め尽くされた五弦琵琶とはまた違った華やかさを演出しています。その象嵌は側板や指板、糸巻きにも施されていて、そうした細かな細工に多くの人たちが見入っていました。
後期展示で個人的に楽しみにしていたのが、聖武天皇遺愛の工芸品です。
白眉は『白瑠璃碗(はくるりのわん)』です。
6世紀頃に当時のササン朝ペルシャで作られたガラスの器で、表面に80もの円形の切子細工が施されています。その円同士がかなり近いのでまるで六角形の亀甲模様が連なっているようにも見えるのですが、横から見ると反対側の切子模様が手前の切子に透けて見え、得も言われぬ煌きを放つのです。
こうしたガラス工芸品は他にも隋や唐からもたらされていたようで、今回はその参考資料として、大阪府羽曳野市にある伝安閑天皇陵出土の『白瑠璃椀』も出品されていました。
正倉院のものよりも切子細工が小ぶりなので亀甲模様には見えませんが、それでも丸紋がいくつも連なる様は正倉院宝物を彷彿とさせます。
ただ、この白瑠璃椀は長い間土に埋まっていたために、ガラスとしての透明度が落ちてしまいました。その点、正倉院のものは土に埋まらずに大切に保管されていたことで、奇跡の輝きを今日まで保つことができたわけです。
それにしても、6世紀と言えば日本はようやく古墳時代から飛鳥時代になろうかという頃。そんな昔にこれだけのガラス工芸の技術を持っていたササン朝ペルシャとは、どれほど凄まじく高い文化レベルを持ち合わせた国だったのでしょうか…。
また、歴史の教科書にも掲載されることの多い『漆胡瓶(しっこへい)』も展示されていました。
これは聖武天皇が愛用していた水差しで、鳥の頭のような形状の注ぎ口はササン朝ペルシャで流行したものだそうです。
細長い帯状の木の板を螺旋状に巻き上げて整形する『巻胎(けんたい)』という技術が用いられており、その木地の上に漆を塗り重ね、
銀の板で花獣を切り出したものを貼り付けてあります。
こうした形の水差しは日本でも制作されていて、今回はその参考資料として、法隆寺宝物の『竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)』も展示されていました。
これは当初は渡来品とかんがえられていましたが、近年の研究により日本国内で制作されたものである可能性が濃くなりました。こうした参考資料が充実しているのも、今展の特徴のひとつです。
また、ちょっと面白い来歴の正倉院宝物『甘竹蕭(かんちくのしょう)』も展示されていました。
これも聖武天皇遺愛のもので、今日で言うパンパイプのような、竹管を18本並べた吹奏楽器です。
この楽器、明治時代に12本の竹管の『甘竹律(かんちくりつ)』として修繕されました。ところが、何と昭和40年に未発見だった竹管が見つかり、更にそれらを留めていた写真中央の木製の帯も発見されたことによって、これが目録に記された甘竹蕭であることが分かったというものなのです。今回、明治時代に施された『間違った修復』をやり直し、虫食い等で傷んだ部分を修繕して展示されていました。
こうした後々の新たな発見があるというのも、正倉院では『塵芥(じんかい)』という、一見ゴミくずのようなものを丁寧に集めて保管しているからなのです。
今回の展示の最終部には
その塵芥たちも展示されていました。
どれもこれも糸クズや錆びた金属片だったりするのですが、考えてみればこれらはかつて何らかの宝物の一部だったわけですから、ただのゴミではないわけです。こうした塵芥から宝物の欠けたパーツが見つかることもよくあるのだそうで、正倉院では文字通り『ちり一つ』も疎かに扱わないようにしている様子も紹介されていました。
新天皇陛下御即位記念ということで、かなり貴重な正倉院宝物を間近に堪能することができました。後期展示は今月24日までですので、興味のある方は是非お運び下さい。
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