今日は待ちに待った日です。というのも、かなり久々にオペラ鑑賞に行く日だったのです。
今日は東京都稲城市にある稲城市中央文化センターに行きました。今日はこちらで
稲城市民オペラ第6回公演としてドニゼッティの名作《愛の妙薬》の上演がありました。
本来ならばこの公演は昨年にもっと大きなホールで、しかも本格的なオーケストラを伴って上演されるはずでした。しかし折からの新型コロナウィルス蔓延による緊急事態宣言を受けて延期となり、そこから一年以上の時間をかけて、当初の予定よりも規模を縮小しての上演となったのです。
この公演は「ボンジョルノ!市民オペラ特別公演」というサブタイトルが付けられていましたが、今回は稲城市民オペラだけでなく長崎県の長崎居留地男声合唱団&女子部と静岡県の富士宮オペラ合唱部のメンバーが合唱に加わっての公演でした。これも本来ならばもっと多くの人数での参加になるはずだったようですが、それでもそれぞれに活き活きと歌い演じていました。
会場の前の掲示板には
出演者全員がPCR検査で陰性であったことを告げる掲示がありました。開場と同時に受付で検温を受けて、氏名と電話番号を記載したチケットの半券を自身でもいで箱に入れてから会場に入ると
座席のソーシャルディスタンスをはかるために出演者の皆さんが設置した様々なアイテムが飾り付けられていました。
出演者全員がPCR検査で陰性であったことを告げる掲示がありました。開場と同時に受付で検温を受けて、氏名と電話番号を記載したチケットの半券を自身でもいで箱に入れてから会場に入ると
座席のソーシャルディスタンスをはかるために出演者の皆さんが設置した様々なアイテムが飾り付けられていました。
よく見るとこれらのアイテムは、舞台であるバスク地方を象徴するバスク豚やバスク馬、バスク地方で古くから栽培されている唐辛子やヒロインであるアディーナが結婚式で身に着けるヴェールといったオペラの中にも登場するものたちでしたが、ただ席に紙を貼ってガードするだけではない愛らしい工夫に思わず頬が緩みます。ただ、中にはその工夫を物ともせずに隙あらば並んで座ろうとする老婦人たちもいて、周りの観客たちからの顰蹙を買って注意されて縮こまっていました。
さて、会場に入ると
あれ?合唱団が談笑してる…?
あれ?合唱団が談笑してる…?
そう、もう会場に足を踏み入れたところから《愛の妙薬》の世界が始まっていたのです。このあたりは演出家の心憎い配慮です。
この合唱団の演出は
第2幕のと幕間にもあり、アディーナとベルコーレ軍曹との結婚式の準備をする様子を楽しそうにしていました。
第2幕のと幕間にもあり、アディーナとベルコーレ軍曹との結婚式の準備をする様子を楽しそうにしていました。
稲城市民オペラのひとつの特徴は、何と言っても合唱団の芸達者ぶりです。ともすると市民オペラではキャストがお芝居をしている割りには合唱団にテレがあって動きが今ひとつだったりするのですが、稲城市民オペラではその心配は無用です。
今回も合唱団は、本の読み聞かせをするアディーナの周りでちょっとオーバーリアクション気味に聞き入ったり、ベルコーレ軍曹の部下の兵士たちが全員銃を足の上に下ろしてしまって痛がったりと、ソリストたちが歌っている周りで様々な演技を見せて観客の笑いを誘っていました。
またインチキ医師のドゥルカマーラが登場した時に、その後ろに怪しげな従者がいる…と思ったら何とまさかの演出家ご本人登場!この従者、ドゥルカマーラの後ろで処方箋を広げたり、村人に怪し気な薬を売りつけたり、ネモリーノとドゥルカマーラが『イゾルデ姫の愛の妙薬』の話をしている隙に後ろで安物のワインを空ビンに詰め直したり…と大活躍で、要所要所で観客を沸かせていました。
他にも演出面では、握手すべき場面で肘タッチをしたり、ジャンネッタと村の娘たちがネモリーノが亡くなった伯父さんから莫大な遺産を相続したと噂話する場面で背景にZOOMで練習のやり取りした画像を一緒に流したり、最後にドゥルカマーラが客席の間を通って退場する際にマスクを取り出して着用したりといった、このコロナ禍ならではの工夫がされていました。こうした世相を反映させるあたりにも、演出家のこの舞台に向けた思いが滲み出ているようでした。
勿論ソリストたちも素晴らしく、アディーナはコケティッシュでいたずらっぽい村娘の可愛らしい表情をみせてくれましたし、ネモリーノは名曲『人知れぬ涙』でアディーナへの偽らざる愛を切々と歌い上げました。ベルコーレは如何にも遊び人といったカッコ良さを滲ませ、ドゥルカマーラは何とも胡散臭い雰囲気を深い声で聞かせてくれました。またジャンネッタも場面場面で存在感を発揮していました。
今回の公演は基本的にピアノ伴奏一本でしたが、軍隊の登場ではスネアドラム奏者が、ドゥルカマーラの登場ではトランペット奏者が、『人知れぬ涙』ではファゴット奏者が登場して音楽に彩りを添えていました。オーケストラ伴奏ではなかったものの、こうした楽器の登場で豊かな響きとなっていました。
終演後、観客席からは惜しみない拍手が贈られ
素晴らしい舞台は幕を下ろしました。最後には
キャストとして出演していた演出家(前列右端の水色の衣装を着た方)も登壇し、万雷の拍手を浴びていました。
2019年に《ラ・ボエーム》を公演して以来、新型コロナウィルスに翻弄されながらも2年越しに実現したこの舞台、監督を務めておられる演出家をはじめとした関係各位の思いもひとしおだったことでしょう。こうした舞台が憂い無く開催できるような世の中に、一日も早くなってもらいたいと願います。