じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

原民喜「美しき死に岸に」

2019-06-22 17:48:08 | Weblog
★ 原民喜さんの「夏の花・心願の国」(新潮文庫)から「美しき死に岸に」を読んだ。

★ 愛する妻の臨終を看取る話だった。辛い話だが作者の筆は冷静だ。作品の中で妻に永遠の命を与えているようだ。

★ 前半は詩的な描写が流れていく。妻が大学病院から退院し自宅療養するところから物語が動き出す。

★ 弱っていく妻の姿。食事の細さがそれを物語る。やがて何も受け付けなくなり、腹にそして胸に苦痛を訴えるようになる。危篤に陥り、深い昏睡の中でうめき声しか聞こえなくなる。そして最期の時が訪れる。


★ 死を目前にした家族にとって夜は苦痛だ。早く夜が明けないかと祈らざるをえない。朝が来ると、仕事に行く人、学校へ行く子どもたち、町はいつもながらの音を響かせる。そんな朝、帰らぬ人を抱えた家族は日常とは違った数日を過ごすことになる。私も母が亡くなった時に感じたことだ。

★ 原民喜さんといえば原爆体験を綴った「夏の花」が有名だが、文章表現が実に美しい。原さんは45歳で自ら命を絶つ。その深い理由は本人しかわからないのであろうが、妻を失った孤独感が深かったのではないかと慮られる。
コメント

青山七恵「街の灯」

2019-06-22 12:27:24 | Weblog
★ 青山七恵さんの「街の灯」(河出文庫)を読んだ。

★ 1人称の物語。ちょっとした行動の中にもさまざまな想いが込められているんだなぁと思った。

★ 「私」は大学を辞めて、近くの喫茶店で毎日時間をつぶしていた。ある日、つい居眠りしてしまった私に、喫茶店のミカド姉さんが声をかけてくれた。「うちで働かない?」「部屋も一つ空いてるの、この上なんだけれど、住んでもらっていいのよ」(51頁)

★ 私は姉さんの「申し出」を受けることにした。

★ 私の部屋の向かいのアパート。その空き部屋に人が入った。その灯りを見ながら空想に浸る。夜の散歩も私の趣味だ。街を散策しながらそこに住む人々を観察する。

★ お姉さんは男出入りが絶えない。そんなお姉さんには「先生」と呼ぶ特別な人がいる。私は「先生」に興味を持つが、お姉さんと「先生」の間に入り込む余地はない。

★ 人目から見ると「かわった子」で済ませられる「私」。大人になりきれない焦燥なのだろうか。それとも生きることへの渇望なのだろうか。美醜合わせてそれらはみずみずしくもある。本人にとっては苦しいところだろうが。

★ 時々輝くような表現があり、楽しい。(学生時代の作というがすごい)
コメント