じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

荻原浩「海の見える理髪店」

2019-06-29 18:33:56 | Weblog
★ 荻原浩さん「海の見える理髪店」(集英社)から表題作を読んだ。

★ そこは民家を改造しただけで看板もなかった。理髪店を表す三色灯と番兵のような二本の棕櫚の木が目印だ。中に入ると海が見えるように鏡が備えられていた。

★ 普段は美容院へ通う「僕」だが、予約を入れてその店を訪れた。なぜその店を訪れたのか、その種明かしはエンディングのお楽しみだ。

★ 丁寧な散髪が始まる。わずか1時間余りの作業と並行して、店の主人は彼の生い立ちについて語り続ける。それは余りにも饒舌だが、それにも理由があったのだろう。

★ ニ代続いた床屋の三代目。戦前、戦中、戦後と世相の変化とともに変化する理容店の様子、そしてそれぞれの時代の主人の山あり谷ありの人生が語られる。

★ わずか40ページ余りの作品だが、じっくりゆっくり読んで正解だった。40ページを超えたあたりから、「ああそういうことか」と思い当たる。「僕」も主人もはっきりとは語らない。余韻を残して物語は終わる。
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小野正嗣「九年前の祈り」

2019-06-29 11:06:03 | Weblog
★ 小野正嗣さんの「九年前の祈り」(講談社)を読んだ。

★ さなえは夫婦生活が破綻し、幼い息子とともに九州北部にある実家に戻っていた。そこで耳にした、ある女性(みっちゃん姉)の話。彼女の息子が大病を患い入院しているという。

★ さなえは彼女とカナダ旅行で知り合った。その旅行は、外国語指導助手として着任していたカナダ青年が企画したもので、当時は水産業で潤っていた町が助成金を出し参加者を募った。7名の希望者があった。40代後半以上の女性たちに交じって、20代のさなえも参加した。

★ 女性たちの会話が生き生きとして面白い。方言が良い。素朴な味わいがある。ずっと田舎で暮らしていたおばちゃんたちがいきなり飛行機に乗り、国際都市モントリオールを旅するのだから、そのギャップが楽しい。

★ さなえはこの旅で出会った男性と結婚し、男の子を生む。天使のようにかわいい子だが、発達に障がいをもっている。やがてカナダ人の夫は二人を置いて家を出て行ってしまった。さなえは希敏(けびん)という名の息子を愛しながらも、時々起こるパニックに手を焼いている。

★ その日、さなえの家族はみっちゃん姉の息子を見舞うことにした。その行程を通して、9年前の回想が語られている。

★ 9年前、モントリオールの教会で、みっちゃん姉は何を祈っていたのだろうか。

★ 最後の7行は何度も味わって読みたい。さなえの不安と決意が感じられた。

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