はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

風の芸術展

2007-08-25 23:38:53 | かごんま便り

 枕崎市文化資料センター南溟館で開催中の「風の芸術展」(9月17日まで)を見た。
 全国から気鋭の作家が多数参加する現代美術のハイレベルな公募展。毎日新聞の美術担当記者を経て埼玉県立近代美術館や熊本市現代美術館の館長を歴任した故・田中幸人さんが審査委員を務めていたことも、何かの縁を感じる。
 第8回の今回は従来のコンクール方式とは趣向を変え、過去の受賞作家の近作を集めた。実に5年ぶりの開催は財政事情に加え、05年秋の放火被害による修復のため南瞑館が一時休館を迫られていたなどの不運が背景だが、どういう形にしろ「『風の芸術展』の火を消すな」という関係者の熱い思いが実を結んだことは喜ばしい。
 出品者は歴代入賞者67人のうち61人。平面作品、立体作品とも大作が多く、決して広くない展示空間の中で、圧倒的な存在感を伴って目に飛び込んでくる。ユニークな構造の木造建築のぬくもりと、大胆なデザインや奇抜な意匠との不思議な調和も楽しい。
 出品にあたり、多くの作家がメッセージを寄せている。個々の作品に込めた彼らの思いとともに、この地に一つのステップを刻んで大きく羽ばたいていった芸術家たちのその後の足どりがうかがえ、大変興味深かった。
 「風の芸術展」は地方から文化の〝風〟を起こそうと、当時の田代清英市長(故人)の肝いりで89年に始まった。「芸術を通じてのまちおこしと共に、田代・元市長には『すばらしい芸術作品にふれることで青少年に豊かな感性をはぐくんでほしい』という願いがあったと思う」と関好明館長は述懐する。当初は隔年開催の「ビエンナーレ」として、その後3年に一度の「トリエンナーレ」として02年の第7回まで続き、その後中断を迫られたことは前述した。
 南瞑館の周囲には過去の受賞作品が並ぶ。JR枕崎駅から伸びる市役所通りにも「青空美術館」と称して数々の作品が展示されている。人口2万5000人足らずの地方都市の駅頭に、これほど刺激的な町並みがあるとは思いも寄らなかった。
 「次への足固め」(関館長)として開かれた第8回展。今後の開催方式は未定というが、中央から遠く離れた小都市のハンディにもかかわらず、本物の文化事業が脈々と息づいていることを、我々はもっと誇っていい。
   毎日新聞鹿児島支局長 平山千里 
   2007/8/20毎日新聞鹿児島版掲載

田舎料理バイキング

2007-08-25 10:47:58 | アカショウビンのつぶやき


















 志布志市までFM番組取材の途中、編集担当のOさんが、
「今日は美味しいバイキング料理をごちそうしましょう」と嬉しいお誘い。
本来ならば、いつも無理難題を押しつけている私がご馳走しなきゃならないのに……。
ともあれ、食いしん坊のアカショウビンは喜んでお供しました。
しかし、山と畑ばかりが続く田舎道…。
いったいどこに「美味しいバイキングレストラン」があるんだろう……。
 着いたところは、志布志市有明町の山の中の笑和食堂。(しょうわしょくどうと読みます)
JAの経営するとってもユニークな家庭料理のバイキングレストランでした。

 メニューの豊富なことと、殆どが地元で取れた野菜であることが嬉しい。
ひとつの食材がいろいろに変身して、どれもこれも美味しそう。
控えめに取ったつもりでも、大皿にてんこもりになってしまった。
ああ、食べきれなかったらどうしよう(>_<)。
でも、いつも小食のアカショウビンが、きれいに平らげてしまいました。

 店の雰囲気もいいんだなあ。
昭和初期のものと思われる懐かしいポスターがいくつも壁に貼ってある。
「日毎ーデンサ」と右から書かれた大きな文字が時代を物語っている。
よく今まで取ってあったなあ…と驚かされた

庭の花壇には、ポーチュラカの中に、大きく成長したネギも並んでいました。

「また連れてきてくださいね」と、厚かましくもお願いしたアカショウビンでした。 

失った家族

2007-08-25 09:55:02 | はがき随筆
 よちよち歩きの捨て猫を約1年間育てていた娘家族に子供が生まれた。アパートでは子供の健康に悪いからと言って家内が無理やり引き取ってきた。捨てネコといえども、気位の高い黒ネコである。避妊手術した彼女の欠点は何でも食べてくれない。好物は白身の焼き魚。極端に人間とネコ嫌い。私どもには甘えるが、決してベタベタしない。そのくせ一人で留守番するのを嫌がる。こうして彼女との生活は16年間続いた。老衰と診断された彼女は、最後まで苦しまず眠るように去っていった。家中の柱に残した彼女のつめ跡が、今ではいとおしい。
  志布志市 一木法明(71) 2007/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はQssさんからお借りしました。

はがき随筆7月度入選

2007-08-25 09:46:41 | 受賞作品
 はがき随筆7月度の入選作品が決まりました。
△鹿児島市武2,鵜家育男さん(62)の「け忘れ病」(2日)
△山口県光市丸山町、中田テル子さん(61)の「先生ありがとう」(29日)
△出水市武本、中島征士さん(62)の「遠い日」(27日)
の3点です。

 夏祭りでにぎわう8月ですね。この暑さの中「はがき随筆」に取り組んでいる皆さんの姿が目に浮かびます。
 鵜家さんは「け忘れ病」で、忘れないよう外出に必要なものを置く場所を決めたいが、その場所すら忘れたと書きました。「け忘れ」という方言が共感を呼びますね。また別枝由井さんの「ぼけ&ぼけ」(1日)は母娘のおしゃべりの中で2人の物忘れの様子を書き、会話体で文が展開します。これらの文章は物忘れを題材としながら、それぞれ特色が面白いですね。
 中田さいの「先生ありがとう」は喜びと感謝の気持ちが書かれています。先生のやさしさもよく出ました。中島さんの「遠い日」は、2人の信頼関係がはっきり読み取れますね。小川のせせらぎが聞こえ、ウナギ釣りの様子が立体的に浮かび上がってきました。
 自分を見つめることは大変意味のあることです。東郷久子さんの「冷やし中華」(5日)は、毎日の朝食を意識したものです。上野昭子さんの「胴体着陸」(7日)は、自分が転んだいきさつを面白く前向きに描き、年神貞子さんの「烏骨鶏」(21日)は、長年飼っている烏骨鶏の様子や産卵を細かく描き、大いに喜びます。老齢の鶏に「もう頑張らなくていいよ」とことばをかけたりしています。
口町円子さんの「アメコンコン」(25日)は、1歳のお孫さんが暮らしの中で覚えたことばの行き違いを楽しんでいる様子が書かれて、何ともなごやかな文章です。
 有村好一さんの「ツーリング」(20日)は、若い時分に大型バイクの旅で出会った人たちとの思い出を、ほのぼのとした文章にまとめました。夏はいろいろな人たちとの出会いの季節でもありますね。
(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
 係から 入選作品のうち1編は25日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のこーなー「朝のとっておき」です。


今生のかおり

2007-08-25 07:55:15 | はがき随筆
 廊下でかん腸がすむのを待っていた。「たくさん出ましたよ」と看護士さんがニコニコしながら、新聞紙包みを持って出てこられた。
 病室へ戻ると〝残り香〟がする。つい「臭いね」と窓を開け放った。
 そしてその夜、思いがけなく姑は逝ってしまった。
 人の手を借りないと、排せつも食事もできない身になった姑。〝残り香〟にそそくさと窓を開け放ったことが、姑を惨めにし、慌ただしく旅立たせてしまったのではないか。「これ以上、嫁たちの手を煩わせたくないと思ったのだろうよ」と夫は言うが……。
   出水市 清水昌子(54) 2007/8/24 毎日新聞鹿児島版掲載