はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夏の思い出

2007-08-31 17:23:03 | はがき随筆
 少年時代の夏休みは我々子どもにとっても結構多忙であった。中でも辛かったのは田と芋畑の草取りだった。暑い日中は避けたけれども、それでも暑くて腰が痛かった。宿題が残っているからと言って、ずる休みすることもあった。母はただだまってそそくさと仕事に行った。その姿を思い出すと何も言えない罪悪感を今も感じる。夏休みの楽しみは家の前を流れる小川に竹筒で作って仕掛けたウナギ取りだ。明朝は入っているだろうかと思うとなかなか寝つかない。貧しかったけれども、もう一度少年時代に返ってみたい。
   志布志市 一木法明(71) 2007/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆 夏休み特集-12

夏休み

2007-08-31 16:56:11 | はがき随筆
午前の補習が終わると、2階の端にある生物室に移って、夕方まで問題集を解くのが高3の夏休みの日課だった。生物室の大きな机は勉強道具を広げるのに都合が良く、そこを使う数名の仲間以外は誰も来ない。私たちは黙々と自分の課題に取り組んでいた。
 私は睡魔に襲われると、備え付けの頑丈な四角い椅子を並べてあおむけになり昼寝をしていた。大きな机はそのはしたない姿を隠すのにも都合が良かった。
 確固たる目標があるわけでもなく、友に流されていれば安心だっただけの〝バンカラ〟な女学生の思い出の夏。
   出水市 清水昌子(54) 2007/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆 夏休み特集-11

花束と校歌

2007-08-31 16:47:51 | はがき随筆
 「どうして植物を調べる気になったね?」と、理科担当だった私は尋ねた。教職についていた彼は「中1の夏休みの理科の宿題は植物採集でしたが、植物名をほとんど知らず、書かずに注意され悔しい思いをしました。それがきっかけで、特に樹木を研究するようになりました」と話してくれた。私は心が引き締まったがうれしかった。50歳になった教え子たちとの、夏の同窓会でのS君との会話である。私のような者にもバラの花束が贈られ、校歌を一緒に歌ってもらった。感謝の気持ちでいっぱいになると同時に皆の幸せを祈らずにはいられなかった。
   出水市 小村 忍(64) 2007/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆 夏休み特集-10

夜の富士登山

2007-08-31 16:23:46 | はがき随筆
 富士の8合目で高山病にかかった妻と小5の次女を8・5合目の山小屋に残し、後ろ髪を引かれる思いで、中2の長女と山頂を目指した。満天の星空や岩陰の氷雪で寒気が増す。吐く息が白い。懐中電灯の灯りの列が上へと続く。金剛づえを友に頂上に着いたのは朝4時。5合目を出て9時間たっていた。300円のホット牛乳で体が温まる。日が昇り始めると数百人がご来光を拝み「万歳」をくり返す。娘のほおを涙がつたう。
 この夏、富士の映像を見た次女が23年前の悔しさを告げると妻が「彼氏と再挑戦したら?」と軽くいなした。
   出水市 清田文雄(68) 2007/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆 夏休み特集-9