はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

大騒動

2009-05-05 21:47:42 | かごんま便り
 酔っぱらって公園で全裸になった人気タレントが逮捕(その後、処分保留で釈放)された。

 普通なら「バカな芸能人がいたものだ」で終わる話のはずなのに、メディアの取り上げ方は少々はしゃぎ過ぎていた。

 逮捕された23日、日ごろは冷静なはずのNHKを含め、テレビ各局のあの騒ぎよう。大阪市の女児不明事件の急展開など他の主要ニュースがかすんで見えるほどだった。薬物中毒や盗撮、売春……など過去の芸能人の不祥事でこんな過熱ぶりはちょっと記憶にない。

 私は彼のファンではないし不始末を擁護する気はない。だが他人に危害を加えた訳ではなく、釈放後の会見で本人の弁の通り「大人として恥ずかしい行為」をしただけである。ワイドショーや芸能誌ならともかく、ニュース番組がこの程度の話題を大々的に取り上げるのには違和感を覚えた。

 事件を受け、各局は番組の差し替えなど対応に大わらわだった。彼が地上デジタル放送の旗振り役だったこともあり、最も被害を被ったのはテレビ局だったはずで、不祥事自体よりむしろ、放送業界への影響、各局のドタバタぶりの方が「ニュース」だったのでは?

 その辺の事情を脇に置いたまま、彼の所業のみを執ように責め立てる報道ぶりは、はた迷惑の腹いせにたたきまくっているとしか見えなかった。業界の思惑から過度の攻撃調に走ったとすれば、それは「大人として恥ずかしい行為」ではないのか。調子に乗って「最低な人間」とコメント(その後訂正)した軽薄な大臣といい勝負である。

 翌24日。朝刊各紙(一般紙)の多くは社会面トップで報じた。記事のトーンは比較的冷静だったが、業界の混乱に一通り触れながらも重心はあくまで事件の詳述に置かれるなど、各局の過熱ぶりにやや引きずられた印象だ。なりふり構わぬバッシング報道に対し、批判的な視点も欲しかった。

鹿児島支局長 平山千里 2009/4/27毎日新聞掲載