はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

真空地帯

2009-05-26 18:07:25 | はがき随筆
 自分は小説「真空地帯」の世界にあるのだと思うことにした。軍隊生活と入院生活の違いはあるけれど。そうでも思わないと毎日がうっとうしくてやりきれない。胃かいようで半年近く通院し、検査入院のつもりが、病院を出られぬ羽目になった。
 入院翌日から絶食となる。のどを通るのは水と薬、検査中の液類。くる日もくる日も検査は続く。9時の消灯後、私の頭は研ぎ澄む。自己嫌悪に陥ったり、告知された手術におののいたり。寝付きの悪い夜が続く。 出□の見えない私の真空地帯。明日への光を探し求めながら、今日の一日を生きる。
  伊佐市 山室恒人(62) 2009/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載




感謝を込めて

2009-05-26 18:04:24 | はがき随筆
 昭和31年に祖父母と両親が建てた家。台所、玄関と改築を重ねてきたが今度、屋根瓦を替えてもらうことになった。
 工事が始まった。あらゆる文明の利器を使って、まさに匠の技である。見上げると、新しく生まれ変わった屋根瓦が、あたたかい人情と日の光を受けて、きらきら輝いている。
 休みの日は、日に何回も母と2人でながめる。さわやかな5月の風の向こうに、祖父母と父もほほえんでいる。
 自分が生まれて育った家。心からありがとう。人と家は、共に歴史を刻みながら生きている。大切にしていきたい。
  出水市 山岡淳子(51) 2009/5/25毎日新聞鹿児島版掲載