はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

朝を楽しむ

2009-12-10 12:49:39 | はがき随筆
 散歩に出るのは5時ごろ。懐中電灯は必携で闇の中を進む。日の出が早いころに出会った人たちも1人減り2人減って人との出会いはほとんどない。そんなぼくを慰めてくれるのかタヌキが顔を出す。民家に近いこんな所でと思うが、夜行性の彼らに支障は無いのかもしれない。早起きのじいさんと朝帰りのタヌキが思わぬ所で遭遇し、懐中電灯の光の輪の中でぼくを見上げ、照れ笑いのように見える。
 会社勤めのころ、旅先で買ったタヌキの置物を、さり気なくぼくの机に置いてくれた女子社員のことを思い出して、苦笑しながら歩く。
  志布志市 若宮庸成(70) 2009/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はtakocchiさん

60年前の偶然

2009-12-10 12:46:10 | はがき随筆
 肝付町立川上中の木造校舎が「国の有形文化財に登録」の記事に、60年前の記憶がよみがえる。昭和24年に新築。父がソ連より帰国し最初に教職に復帰した学校でもあり強く心に残っている。今も校舎、集落は当時の面影を残して温かい。私は高2で父、同僚の先生の依頼で宿直。木の香りの宿直室が懐かしい。一緒に宿直してくれた友人は鬼籍に。どんな会話をしながら過ごしたか幻影の底に沈んでいる。在校生16人は寂しいが豊かな生徒たち。校庭のイチョウの落葉が光っていた。校舎の白壁に大きく″きばらんね″の文字が私の背中を押してくれた。
  鹿屋市 小幡晋一郎(77) 200912/9 毎日新聞鹿児島版掲載