
私の弟が中学の頃、猫を飼っていた。その猫を友が欲しがるので渡した。友の家は遠方にあり、猫はボール箱に入れ、連れていかれた。その道のりを猫は知らない。友は大変可愛がったと思う。なのに、猫は弟を思い出し、ある日、そっと家を出た。草木の多い田舎道を夢中に歩き、見慣れた景色の前で立ち止まった。「確かこの辺り」
その時、散歩中の弟と出会い、「あっ、この人」。走り寄って何か言いたそう。「どうしてここが」と弟。すると猫は歌詞にある「ここ、ここがいいのよ あなたのそばが」と思ったか、すり寄って慕情を吐露した。
肝付町 鳥取部京子 2014/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載