川べりのセンダンの木がシックな茶色の衣を脱ぎ、淡い紫色のベールをふうわりまとい始めた。
目に見えぬ不思議な力に促されたこの衣替えには、いつも圧倒される。感嘆詞を幾つ重ねても足りない。
うっとり見とれているうちに、ふと思った。目にみえないものを見たい。特に世界の歴史が編まれていく様を。世界各地のもめごとに、今を生きているのに関われないもどかしさが、こんなことを思わせる。夜気に潤ったセンダンの花から、かすかな香りが降りてくる。万物をつかさどる方の気配がする。
鹿屋市 伊地知咲子 2014/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載