はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あの日の思い

2014-05-17 17:38:09 | はがき随筆
 連休前、息子から電話。「東京に出掛けてきて」という。生きたい反面、不安もある。二十数年前、息子の入院で急きょ上京することに。ところがあいにくの悪天候。午前の便は欠航、不安な気持ちで空港で待った。羽田行きに乗れたのは午後4時半ごろ。心細い機内で年配の紳士に話しかけられた。その方は「家族が迎えに来ている。交通を聞いてあげます」と。しかし、私は半信半疑。降りる時は距離をおいて歩いた。すると出口で私を待っておられた。人を信じることにも勇気がいる。私はその方の親切さをありがたく受け、偶然の出会いに感謝した。
  鹿児島市 竹之内美知子 2014/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載

母の耳

2014-05-17 17:29:29 | はがき随筆
 4歳の時、私は神戸の伯母に預けられることになった。
 神戸に行く夜行列車で、私はおしっこがしたくなり、トイレを探すが見つからない。仕方なく広島駅に降りようとしたした時、列車と駅の隙間にスポッと落ちてしまった。何が起きたのか不安と怖さで泣いていると、「宏明」という上からの声と手が伸びてきた。母に抱かれて車内に乗った途端、列車はコトンと小さな音をたてて動き出した。
 大人になって母に「どうして40㍍も離れている車内から僕の声が聞こえたの」と尋ねると、「だってお前の声が聞こえたもの」とすまし顔で言った。
  日置市 高橋宏明 2014/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載