はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

命日の墓掃除

2016-08-15 16:53:20 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月15日 (月)
      岩国市   会 員   片山清勝

 私は両親と祖父母の命日前に墓掃除を欠かさない。墓参りも年に十数回は行く。ことしは祖母の命日の前に都合がつかず、当日の朝早く出掛けた。「おばあさん来たで」。墓に向かって語りかけて掃除を始めた。蒸し暑い日で、すぐに額から大粒の汗が流れ出て目に入る。拭っていると、あの日に大汗をかいたことを思い出した。
 それは60年以上前のこと。小学6年だった時、病気で伏せていた祖母の容体が急変した。私は、仕事から帰っていた父の言い付けで、出先にいた母に連絡するため出掛けた。ようやく乗れるようになった父の自転車をこいで急いだ。
 私から祖母の様子を聞いた母は出先の車で家まで送ってもらったが、私は来た道を再び自転車で帰った。家に着くと、「雨に降られたか」と言われるほど、汗で全身はびっしょり。往復とも夢中で自転車をこいたためだ。その晩、私は初めて、人の臨終に直面した。
 祖母のことしの命日に掃除を終えた時、黄色いチョウが墓の上を飛んだ。祖母が「ありがとう、安心した」と伝えによこしたのだろう。家を継いで半世紀。父の享年を20年超えた。先祖の墓守は、私ら夫婦の当たり前の日常になった。

     (2016.08.15  中国新聞「洗心」掲載)

カヌー銅 感動の光景

2016-08-15 16:52:33 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月14日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝

 リオデジャネイロ五輪で日本選手のメダルラッシュが起きている。中でも興味が湧いたのは、日本の五輪カヌー史上初めて表彰台に上がった羽根田卓也選手だ。
 羽根田選手は北京五輪では予選敗退、ロンドンでは7位、そして今回、男子カナディアンシングルで銅メダルを手にした。3位決定の瞬間か印象深い。
 羽根田選手は、カヌーの上で感無量の涙を、はばかることなく拭い始める。他の競技のように、祝福に駆け寄る人はいない。
 すると幾艘ものカヌーが静かに近づき、羽根田選手を笑顔で祝福した。
 これまで、五輪で多くの場面を見てきたが、今回の外国人選手たちの祝福の場面には胸が詰まり、これぞ 五輪と感じた。
  カヌーの本場スロバキア に単身で渡って苦節10年、世界中の多くの選手と交流を重ね競い合ってきた。
 そこで培ったパドルさばきが初のメダルをもたらした。今後の日本カヌー界の流れをつくってほしい。

     (16.08.14 中国新聞「広場」掲載)