下宿の頃、銭湯に通っていた。当時200円。髪洗い代の30円は負けてもらった。丸刈りの高校生だったからだ。大学生も、近所のおじいちゃんも、野球少年もみんな夜のお友達。それぞれの立場で今日の出来事をわーわー語りあっていると、もう巨人阪神の九回裏。舞台の上の14型テレビを、あごを突き出し見上げながらパンツをはく。「おやすみなさぁい」に優しく応えてくれるお姉さん。その笑顔を目にすることで、やっと一日が終わった気がした。桶を手にゆったりと登っていく坂道の上には満点の星。温まった身体からは菖蒲湯の香りがした。
出水市 山下秀雄 2017/5/7 毎日新聞鹿児島版掲載
出水市 山下秀雄 2017/5/7 毎日新聞鹿児島版掲載