はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

突然の最期

2017-05-11 10:02:21 | 岩国エッセイサロンより
2017年5月10日 (水)
 岩国市  会 員   吉岡 賢一

 早くに夫を亡くした姉は、85歳になっても持ち前のバイタリティーと旺盛な好奇心で忙しく元気に暮らしていた。その姿は一人暮らしを楽しんでいるようで頼もしかった。都会に住む2人の息子たちが定年を迎えたら地元に戻らせて、一緒に田舎暮らしを始めるのを夢見ていた。 
 そんな姉をある日突然、交通事故が襲った。夢がかなうこともなく、何の前触れもないまま容赦なく命を絶たれた。さぞかし無念であっただろう。
 私たちは女4人、男2人の6人姉弟で、戦後のひもじさも高度経済成長の恩恵も体験しながら両親を助け、家族8人肩を寄せ合って生きてきた。第5子で次男坊の私は長女とは14歳、今回急逝した次女とは10歳違い。これはまるで母親が3人いてくれるような心強い温かな幼少期であったことを思い出す。
 利発で聡明だった長女は、8人家族の中で最も早く病魔に侵された。次いで父が、兄が、母が逝った。その都度、家族姉弟が集まり、手を取り足をさすってねんごろに見送ってきただけに、一人の親族にもみとられることなく、冷たい路上で理不尽な最期を迎えた姉がふびんでならない。
 加害者の高齢運転者に対する複雑な思いはある。ただ救われるのは、全ての面で思い通りに生きてきた姉の一生は、決して不幸ではなかったと思えることである。
 四十九日の法要も済ませ、納骨で夫に寄り添うことになった。子や孫たちの成長をしっかり見守ってくれることだろう。
 
   (2017.05.10 毎日新聞「男の気持ち」掲載)