はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2017-05-25 12:46:19 | 岩国エッセイサロンより
2017年5月12日 (金)
岩国市  会 員   樽本 久美

 こんなに長い時間、父のそばにいたのは30年ぶりである。85歳で亡くなった父の通夜。
 「この家はアコーディオンを弾いていたから建った」と話していた父。会社で楽団を作り若い頃から音楽を楽しんでいた。家族葬なので近所の人には遠慮してもらったのに多くの人が参列してくれた。「優しいお父さんでしたね」と言われ、涙が止まらなかった。
 父の法名は「釈浄楽」。音楽の「楽」がついている。しかし、涙が止まらない。こんなにも涙が出るとは。「涙よ止まれ」「止まれ」。困った時は、父の法名と「南無阿弥陀仏」。        
   (2017.05.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

はがき随筆の縁

2017-05-25 12:06:24 | はがき随筆
 30代から10年以上、ヨガと操体法の教室に通った。体のバランスのとりかたと共に、心の持ちようも教えていただいた。現在、めったに風邪もひかず健康に暮らせているのは、そのお陰だと感謝している。
 今年になって「はがき随筆」に私の名前を見つけて当時の先生が電話を下さった。お元気な懐かしい声を聞けたのは、お互い毎日新聞を購読していたご縁だ。
 先月、その先生が始めて投稿なさった。また縁の世界が広がった気がする。これからこの欄でお目にかかるのを楽しみにしている。
  鹿児島市 種子田真理 2017/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載


ボタン

2017-05-25 11:57:44 | はがき随筆


 今日4月30日は孫娘の誕生日である。何かほしいものあるのと聞いたら「うーん何もない……」と。本当にないのと再度聞いてみた。いろいろ考えてるんだけど、やっぱりないと。そうだね、必要なもの、それがなかったら困るもの、そのときは買ってあげるからね。はいありがとうと孫の返事。
 今日の誕生日の花はボタン。「花王 気品ある花」となっている。孫が生まれて喜び、誕生日が来て喜び、赤飯とタケノコの煮物を作り、ケーキをそえて、ボタンの花のようにきれいに成長してほしいと17歳の誕生日を家族みんなで祝った。
  出水市 古井みきえ 2017/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載


おんぶに抱っこ

2017-05-25 11:29:50 | はがき随筆
 年を取って免疫力が落ち、体のあちこちに不具合が続出するようになった。
 1年ほど前から、持病の副鼻腔炎が急性アレルギー性鼻炎により悪化。無色の鼻水が常時のどに垂れ、就寝中にせき込む。喘音(のどがヒューヒュー鳴る)がする、口がまずい、鼻声になるなど多くの症状に悩まされることになった。で、幾多の医院で抗生物質を試すも全く効果なし。高価な健康食品まで試みた。それが、妻の勧めで受診した病院で一発で完治したのだ。ステロイドが効いて……。相変わらず妻におんぶに抱っこの私である。
  霧島市 久野茂樹 2017/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆4月度

2017-05-25 11:19:56 | 受賞作品
はがき随筆の4月度月間賞は次の皆さんでした。
 【優秀作】6日「竹が鳴く」有村好一=指宿市十二町
 【佳作】8日「慰霊の旅で」秋峯いくよ=霧島市溝辺町
 ▽14日「あれから10年」若宮庸成=志布志市有明町

  
「竹が鳴く」
は、古里の過疎化を嘆いた文章です。全国どこも同じだと言ってしまえばそれまでですが、やはり寂しい現象です。漢詩に「年々歳々花相似 歳々年々人不同」という句があり、人はすぐ「半死の白頭翁」になってしまうという、人の世の無常をうたったのがあります。その無常感が社会現象として現れたのは、なんとも皮肉です。表題は「竹が泣く」がよかったかもしれません。
 「慰霊の旅で」は、フィリピンでの父親の慰霊祭に参加したときの、言葉にならない悲しみの風景が描写されています。首相は前のめりで軍事解決へ走っているようですが、戦争での悲しみはいつも庶民のもので、70年以上たってもそれが消えないことを思い知らされる文章です。
 「あれから10年」は、散歩の途中でついてきた子犬を飼って10年。今では白髪の増えた老犬だが、すっかり家族の一員となり、自分では番犬のつもりでいるという内容です。予防接種のときに。奥様が、柴犬・4月8日花まつり生れと登録されたユーモアには、心が和みました。はがき随筆は短文ですから、一句一文、それにこのような逸話が決め手になります。
 この他に、3編を紹介します。
 久野茂樹さんの「雲散霧消」は、かつての文通・ペンフレンドの逸話です。今は電話で話すこともせず、メールなのだと推測しますが、あの頃は中高生の間で文通が大流行でした。メル友という言葉があるようですが、文通と比較考証(?)してみたくなります。
 武田静瞭さんの「島の桜は次々と……」は、種子島の緋寒桜・河津桜・山桜それに暖流桜と次々に咲く桜の楽しみが書かれています。読んでいてうらやましくなる文章です。
 中馬和美さんの「もうだいじょうぶ」は、お泊りに来たお孫さんの可愛さが描かれていて、親ばかならぬ爺ばかぶりです。初めは夜中に起き出して、帰ると泣き続けたが、翌日帰るかと思ったら、また泊ると言いだした。その時のお孫さんの表情が目に浮かぶようです。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦


八重の椿

2017-05-25 10:51:51 | はがき随筆
 庭の椿にそれぞれの趣を感じる。大輪で赤の八重は凛として優雅さがあり、桜貝のような薄くて優しい花びらが重なるピンクは、まるで和菓子を思わせほっこりとなる。
 これらは四十数年前に、夫が粘土に挿し木して育てたもので、日々の手入れを楽しんでいた。そんな頃、突然発症した眼の病は深刻なものだった。咲き誇る花を見ることもなく旅立った。
 見上げるほどに育ったツバキを眺めながら、さまざまな思いがよぎる。夫が好きだった備前焼に挿した八重の椿は写真の前に凛として咲いている。
  鹿児島市 竹之内美知子 2017/5/12 毎日新聞鹿児島版掲載


うぐいす

2017-05-25 10:44:50 | はがき随筆
 朝、目を覚ますと、
 「ホーケキョ、ホーケキョ、ケキョ、ホーホケキョ」
 と、うぐいすの鳴き声が聞こえた。なんだか久しぶりに聞いたような……。うぐいすは春を告げる鳥と言われるが、悲しい逸話もあるようで、母から聞いて驚いた。
 でも、やっぱりうぐいすは、春を知らせてくれる鳥だ。うぐいす色、うぐいすもち……。
 うぐいすの鳴き声に誘われて庭を歩く。日ざしは温かく優しい。ホトケノザやナズナの花も咲いている。慈悲深く、慈愛に満ちた春を、うぐいすが運んできたような気がした。
  出水市 山岡淳子 2017/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

戦のつけ

2017-05-25 10:38:36 | はがき随筆
 母は私と違って、他人さまにはにこやかに接していました。その母が、私にはポロッと本心を言う事がありました。「つけは、後でくる」「勝てば官軍、負ければ賊軍」。昔からこの言葉、大概の方は知っていたのでしょうが、いつの間にか忘れられ、今がよければという風潮になってしまいました。
 つけ、結果と思いますが、戦争のつけ、これが70年以上たったのに、沖縄、北方領土、今もって解決できません。戦に泣けると何と弁解しようと勝者の言う通りになってしまい、故郷を思う方たちの悲痛な願いはいつかなうのでしょうか?
  鹿児島市 津田康子 2017/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

異変のタケノコ

2017-05-25 10:31:35 | はがき随筆
 今年はタケノコに異変が起こっている。出が悪い。例年なら2月下旬から、朝露の光や足の裏の感触で感じたり、小さい土の盛り上がりや割れ目で見つけていた。小さく黄色い芽は美しくいとおしい。タケノコを傷めないように周囲を慎重に掘り広げ、根元に山鍬を一気に入れて掘るものだ。
 タケノコは見つける喜び、掘る喜び、食べる喜びを味わえる。特にタケノコごはん、ワカメとのみそ汁、煮しめなどがおいしい。食卓にのぼる日を楽しみに待つことにしよう。異変のタケノコ、早く出てこい、出てこい。
  出水市 畠中大喜 2017/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載