はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

弟の涙

2018-05-02 11:19:03 | はがき随筆
 母の骨を納めた小さな箱の前で、弟は肩を震わせ子どものように声を上げて泣いた。
 彼岸の朝、母が旅立った。
 父亡き後、病弱な体で苦労して私と弟を育ててくれた。年老いていく母に、弟は時には自分が親のように何かと世話をし、晩年施設に入所してからも毎週欠かさず顔を出した。
 1月の入院以来深刻な状況が続き、弟家族が毎日見舞った。
 喪主の勤めを果たし、ここ数カ月の緊迫した日々から解放され、弟は「息子」に戻り心から母の死を悲しみ、涙したのだと思う。義妹と2人で、そっと弟の背中に手を添えた。
  宮崎市  平野智子  2018/5/2  毎日新聞鹿児島版掲載

私のお花見

2018-05-02 11:04:11 | はがき随筆


 今年の花の季節は例年になく晴天続きでお花見気分を満喫している。今年「十月桜」の苗木を植樹した。春と秋の2度咲くという。1㍍ほどの細い苗木だ。折しも連日の催花雨でほどよく活着し二重咲きの可愛い花が咲いてくれた。愛しくて日に何度も眺めて「ありがとう」と声をかける。その横には山桜が優しくそよいでいる。裏庭のソメイヨシノは軒を越し、少し遅れて咲いた。無心に見上げているとふと西行法師の「願わくは花の下にて春死なん その如月の望月の頃」が思い浮かんだ。西行の心をしのびつつ、いにしえから咲き継ぐ桜を思う。
  熊本県荒尾市 平田清子  2018/5/1 毎日新聞鹿児島版掲載

免許返納

2018-05-02 10:54:46 | はがき随筆
 88歳の姉が娘と神宮参拝後、駐車場で愛車に乗り込む瞬間、突然、バックで暴走した車にはねられた。ドクターヘリで搬送される重傷。娘共々一命はとりとめたものの危機一発、相手車の79歳の女性ドライバーも救急病院へ。ペダルの踏みまちがい。
 近ごろ高齢ドライバーのさまざまな事故報道が多い。他人事と思っていた。小生も85歳。身うちの惨事に身を震わせた。免許返納の4文字が切実に迫る。しかしである。返納後の生活に不安がつのる。都会ならともかく、地方での生活は厳しい。車のない生活をどう組み立てる。ハムレットの心境である。
  鹿児島県姶良市 宇都晃一  2018/4/30  毎日新聞鹿児島版掲載

山ガールデビュー

2018-05-02 10:42:30 | はがき随筆


 諸塚の山開きに初めて参加した。日本一早い山開きとして、県内外に知られ、登山口には多くの人だかりだ。地域の人総出の温かいもてなしの甘酒やしし汁で体を温める。
 宮崎では珍しい雪の残る登山道をサクサクと心地よい音を楽しみながら一歩ずつ登って行く。行き交う人と挨拶をかわしながら心が弾む。元気で登山できる健康のありがたさに、ささやかな幸せを感じる。
 子育て、親の介護を終え、今自分のための自由な時間が広がる。どんな色に彩るか、次のステップへ挑戦できそうだ。
 初登り 里山覆ふ 春霞
  宮崎市  高橋厚子  2018/4/29  毎日新聞鹿児島版掲載 画像はネットより

ある日

2018-05-02 10:36:24 | はがき随筆
 4月だというのに季節は春だという実感がない。始末の悪い白髪頭を気にしながら家を出た。デパートの帽子売り場で足が止まり「お似合いですよ」と勧められるままかぶって、少し不安で外に出た。
 すると前方からタクシーを降りてきた方の優しい声。「あら、帽子よくお似合いですよ」と。同年代と分かりまさに話題にこと欠かない。ツーと言えばカーと理解できる。脚、腰の痛みとの闘い、身辺の寂しさまで。
 名乗って別れた。行きつけの魚屋さんが連絡場所になりそう。お茶でもご一緒できたらと心が弾む一日となった。
  熊本市中央区 木村恵子  2018/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

星祭

2018-05-02 10:29:02 | はがき随筆
 節分は毎年お寺で星祭がある。開運除難を願う大勢の人、神仏に頼る気持ちは皆同じなのかなと思う。本堂はお香で清められ、厳かに読経が始まる。
 それが終わると、分厚いお経の本を一人一人の肩に置き、短いお経を聞くと何となくご利益を感じる。
 全員が終わり、お守り札が渡される。見れば名前の一文字が誤字。気になる。今年の星繰りは「大凶。戒めの年だ。昨今の事故事件を知る度に、一層身が引き締まる。
 「お守りがあっても」と言われても、やはり心のよりどころである。
  鹿児島市 竹之内美知子2018/4/27  毎日新聞鹿児島版掲載