はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

機転

2018-05-21 23:48:17 | はがき随筆
 夕方、外にでた夫がすぐ戻って来た。「子供が鍵を落とした」と言い残し、棒を見繕って行った。外にでてみると、数人が側溝をのぞき込んでいる。私は針金とペンチを持ってかけつけた。歩道の排水設備のふたから側溝に落としたとの事。そばで、小学校低学年とおぼしき少年がしょんぼり。
 みんなで知恵をしぼるが……。1㍍余り下に見えてる鍵を、すくい上げりれないもとかしさ。すると、かけつけた若い男性が、すぐさま20㍍ほど先のちょっと緩めのふたを開けて側溝の中へ。鍵は無事に……。彼の機転に、ただ、ただびっくり!
  鹿児島県垂水市  竹之内政子 2018/5/17  毎日新聞鹿児島版掲載

竹の秋

2018-05-21 23:33:29 | はがき随筆


 この地に越してきた32年前、自然が色濃く残っていた。息子は屋までクワガタを捕り、小川でメダカやエビをすくってきた。
 お気に入りの竹林があり、新緑のトンネルに、古い葉が吹雪のように舞い散るのを見た。秋と春の同時の営みの美しさ。 
 10年後、団地の拡張が始まり、山が幾つも崩され、沼のような田もその竹林も消えた。
 その時、造成地で50㌢ほどの地下茎を拾い、庭に植えた。忘れた頃、か細い筍が2本芽吹く。
 あれから20年、10本の竹となり、教えもせぬのに春、葉を落とす。朝、若葉の先に涙をため、ちちはは恋し、と竹が泣く。
  宮崎市 柏木正樹  2018/5/17  毎日新聞鹿児島版掲載

故郷を離るる歌

2018-05-21 23:26:07 | はがき随筆
 老人ホームのボランティア演奏会を終えた直後、手押し車の高齢の女性が「『故郷を離るる歌』はなかったんですかねえ」と残念そうにおっしゃった。バンマスのギターと当方のキーボードの音量調整をプログラムにない曲でやっていた。歌おうと期待しておられたのだろう。
 急ぎ、電源を入れ直し、おひとりのための演奏会。「園の小百合なでしこ……」と口ずさんでおられたがラストに近い「さらばふるさと」のあたりでとうとう涙ぐまれた。故郷への思いがだぶったのか。女性の一筋の涙が演奏会で受ける拍手以上にジーンと跳ね返ってきた。
  熊本市東区  中村弘之  2018/5/17  毎日新聞鹿児島版掲載

チューリップ

2018-05-21 23:13:54 | はがき随筆


 庭の花壇にチューリップを20球植えたが、モグラにあらされたりして9球しか芽を出さなかった。残念。それでも、どんな色の花が咲くかなと楽しみにしていると、まず咲いたのが赤4本。次に薄赤1本。しばらくして黄4本と、次々にかわいい花を咲かせた。
 天気のよい温かい日にはパッと花びらを開いて、お話しているような、歌を歌っててるような――。天気の悪い日や夕方になると、じっと花びらを閉じて、身を守っているような、眠っているような――。
 きれいだきれいだと言って、毎日ながめた。
  鹿児島県出水市  山岡淳子  2018/5/17  毎日新聞鹿児島版掲載

新聞と暮らす

2018-05-21 23:07:11 | はがき随筆
 毎朝、バイクの音とともに新聞が届く。全国紙と地方紙と経済紙の3紙を購読している。同じニュースでも、3紙3様の報道の仕方があり面白い。
 国内の様子や外国の動きは、全国紙に頼らざるを得ない。
 地方紙では、知った人が登場したり地域の行事を知り、全国紙とは異なる親しみがある。
 経済誌は、女房も興味を持つ記事が多く、夫婦の話題作りになりうれしい。
 しかし、悩みは新聞紙とチラシが驚くほどたまることである。資源回収日を逃すと、次の回収日まで、古新聞の山に囲まれて暮らさなければならない。
  宮崎市  実広英機  2018/5/17  毎日新聞鹿児島版掲載

早くも夏

2018-05-21 22:48:16 | はがき随筆


 「これですよ。でも出るにはまだ早いなあ」と皮膚科の先生が示されたのは、シャーレに貼り付けられた小さな虫。「アオバアリガタハネカクシ」とある。ひと頃よく聞いた名前だ。刺された感覚はないのに、あごの下から首筋、胸にかけて真っ赤になり、ジカジカとかゆい。虫が止まったのを手で払いのけると、その後が線状に皮膚炎を起こすのだそうだ。早くも夏の虫の出現である。
 桜の葉を濃くし、庭の雑草も勢いづいてきた。薬効のおかげでかゆみも治まり、快癒にむかっているが、今年の虫対策は待ったなしだ。
  熊本市中央区 渡邉布威 2018/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載

随筆を書く理由

2018-05-21 22:41:09 | はがき随筆
 はがき随筆に投稿を始めて3年が過ぎた。これを、まだ6歳にも満たない孫たちへのメッセージにしようと決め、日々の思いと共に孫や私の親のことまで幅広く書くことにしている。
 長じて読者となる孫たちは、自身の成長ぶりを振り返り、親、祖父母、曾祖父母の考え方に触れ、当時の生活の様子に思いをはせることができると思うからである。
 私の心配事は原発と地球温暖化の行方であることは既に書いた。将来、孫たちが「ジイジの心配事はようやく解決したね」と語り合う未来を想像し、そうなることを強く願っている。
  熊本県北区  西洋史  2018/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載

7分の1

2018-05-21 22:34:32 | はがき随筆
 認知症の研修会に参加した。高齢者の7人に1人が認知症というデータがあるそうだ。今年からめでたく高齢者にカウントされる私も7分の1を担っているということか。「まさか」と笑い飛ばせない自分に気付く。
 それにしてもこの数字、どこかで見たような。そうだ! 子どもの貧困率だ。うちの孫3人は大丈夫だと思うが、先のことは分からない。
 私たち夫婦もせいぜい認知症予防に努めること。息子たちもしっかり働いて家庭円満で孫たちを養うこと。共に7分の1にはいらないように、がんばりたいね。がんばれればいいな。
  鹿児島県出水市 清水昌子 2018/5/16  毎日新聞鹿児島版掲載

シトラス

2018-05-21 22:23:16 | はがき随筆
 関東出身の私が都合で人吉に暮らすようになってひと月。「ちゃんちゃん」(座る)などさまざまな方言に出会う。「~シトラス」という言い回しを初めて聞いた時は、レモンソーダが目に浮かんだ。やがて「~なさっている」という意味だと分かった。
 今朝も近所の方が「なんばしとらす?」と声をかけてくださった。洗濯ものを干していただけなのだが、球磨川を見下ろすカフェに「ちゃんちゃん」してレモンソーダを飲むのもいいな、そんな気分になった。「シトラスタイム」を楽しみに、さあ早く干し物を終えてしまおう。
  熊本県人吉市  福田美智子  2018/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

社会人

2018-05-21 22:16:50 | はがき随筆
 4月、初々しい若者たちが社会人第一歩を踏み出していきました。老人にはまぶしく、未来は明るくなるかなと一瞬思ったりしました。
 難関を突破して国家公務員に採用それた方たち、テレビの質問に、さすがそつのない返事をしていました。外野からみていると、初志がどこまでいけるかなと、ふと思いました。
 この前の国会、証人は訴追を恐れ肝心の事には触れず、ただ時間の浪費、情けないと感じました。囲碁、将棋、スポーツ、自分の力でピラミッドに立つと強い意志を持っている若者、ほんとうに偉いと尊敬します。
  鹿児島市  津田康子  2018/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載


落日

2018-05-21 22:03:07 | はがき随筆


 西の空は落日の光景である。重なる雲のすき間から、今しも大きな夕日が沈もうとしている。その美しさに驚いた。
 〝アレッ〟面白いことに車の列も東から夕日に向けて帰る車の数が断然多い。食べて、働いて、そして眠る、この単純な繰り返し。朝が来て昼に至り、やがて夕暮れが街に迫る。それが生活というものだろう。
 通りすがりの子どもたちの会話が遠のき、次第に遠い記憶に結ばれ、現実の風景よりも強い幻想を覚えて、何だか安らぎの故郷に戻った気がした。私たちは来る日のために生きている。
 愉しい明日を夢見よう。
  宮崎市  黒木正明  2018/5/12 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆 4月度

2018-05-21 21:52:37 | 受賞作品

月間賞に道田さん(鹿児島)
佳作は木村さん(熊本)、黒木さん(宮崎)

 4月から地域面の内容が変わり「はがき随筆」欄も3県合同の掲載となりました。広く皆さまの作品を拝読できることは大きな喜びです。選にあたりましては、月間賞は県にこだわらず、佳作は各県より一編ずつ作品第一に選びます。
 さて、4月度の月間賞は鹿児島・道田道範さんの「雨靴」(5日)です。子どもの頃の出来事を書かれておりますが、一つ一つがまるで昨日のことのように読者の胸に迫ってきます。自分の感情をはさまず、文章にスピードがあるからです。荷台の父ちゃんに新品の雨靴を投げ上げる時の母ちゃんの言葉が絶品です。最後まで読者に息をつかせません。月間賞にふささわしい見事な作品です。
 佳作は熊本・木村恵子さんの「ある日」(28日)。鹿児島・的場豊子さんの「3月26日」(7日)です。
 木村さんはデパートで勧められて帽子を買った。すぐかぶって歩いていたら「お似合いですよ」の声にホッとした気持ちを作品で語り、初めての物を身につけたときの女心を細やかに表現されました。木村さんの人柄を想わせる美しい文章です。
 的場さんは女優の有村架純さんの出演作にエキストラとして出た。予想外の展開だったが、お子様たちからは「女優デビューおめでとう」のライン攻勢。「思わず笑っちゃうデビューであった。(でも楽しかった)」と結んでおられ、読者も撮影現場にいるような楽しさを味わいました。
 黒木さんは1年生のお孫さんが無事に1年間無欠席で通学できた喜びを「じじとばばのうれしい記念日となった」と表現。このむすびが新鮮でほほ笑ましい作品になりました。
 他に印象に残った随筆は、平川克徳さんの「地賛地称」(13日)、野崎正昭さんの「脚力」(18日)、柳田慧子さんの「心残り」(23日)です。
 爽やかな若葉の季節をお楽しみください。
 戸田淳子(みやざきエッセイスト・クラブ会員)


あれから2年余

2018-05-21 21:26:28 | はがき随筆
 親友のDさんは大病院での検査で5時間も待たされている間に圧迫骨折をした。かろうじて帰宅したがその夜に救急車。2カ月リハビリに励んで退院して間もなく地震が襲った。翌朝近くの交園に避難したと電話があり私は「介護2の身でマンションの8階からどうやって?」と絶句した。続いて翌晩の本震でまた避難。以後避難所を転々として体調が悪化してしまった。
 現在は要介護3で老健施設に入居している。自宅はそのままで「それを考えるとぐちゃぐちゃになる」とこぼしている。私もどう彼女を慰めて良いのか、なすすべがない。
  熊本市中央区  増永陽  2018/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載


過ぎ去りし日

2018-05-21 20:29:41 | はがき随筆


 咲き誇るツバキを眺めながら二十数年前の出来ごとを思い出す。
 剪定を楽しんでいた亡夫を手伝っていた息子が枝を切り落とした。丹精こめて作り上げた枝を。夫の驚き、落胆ぶり、きょとんとしている息子の顔、対照的だった。
 沈黙している夫の胸中を察し、どうなることやらと案じた。やがて息子に下された裁きは「すんだこっじゃ」。威厳はあるが寛大なはからいだった。今では枝の切り口も多くの葉に守られ静かに眠っている。
 今年も変わらぬ深紅の花を眺めながら、懐かしく思い出す。
  鹿児島市 竹之内美知子

金柑

2018-05-21 20:17:32 | はがき随筆


 大粒でパァーンと張った皮を、前歯でかじるとじゅわーっと甘みが広がった。後は一気に口に入れる。これはうまい。幼い頃、金柑は酸っぱくて、えぐみが舌に触り苦手だった。
 実家には数本の金柑の木があり、小粒な実がたわわに付いていた。寒風が吹き荒れても、黄色の実は落ちずに生命力にあふれていた。母が甘露煮にして食卓に出すようになり、いつしか母の味になった。季節ごと果物を実らせる木が多くあった広い庭は、手入れが難しくてコンクリートに変わり、現代風になる。それから私は、生れて初めて店頭で高価な金柑を買った。
  宮崎市  津曲久美  2018/5/10  毎日新聞鹿児島版掲載