およそ半世紀ぶりに故郷を訪れた。記憶にある街並みはすっかり様変わりしていた。久しぶりに会った友の家は港に近い石段を上がったところにある。懐かしい潮の香りがした。「子どもの頃は石段を駆け上がったのにね」と息を切らしながら上がった。帰りのバスは途中下車をして生家のあった通りを歩いた。駄菓子屋も貸本屋も幼い頃に通った店はなくなっていた。母も。私をかわいがってくれた周りの大人たちももう誰もいない。
私のふるさとは、あの場所ではなく、幼少のあの時代なのだ。一抹の寂しさを覚え、ふと見上げた空の青さが目にしみた。
宮崎市 石崎八千代(64) 2019/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載