はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

合掌祈念

2022-09-03 16:34:07 | はがき随筆
 昭和20年8月11日、私は旧制加治木中の教室にいた。突如、米軍の空襲・空爆、機銃。無我夢中で近くの田へ逃げ込んだ。
 頭を水に突っ込み、泥にまみれて、ただ逃げた。弾ける音、銃射の響き。どう走ったか記憶にない。やがて、道に迷いながら、隼人の町へ。途中、心配して迎えに来た母と偶然出会い、無事を喜んだ。
 校門横に「殉難学徒の碑」が16名の御霊をまつっている。77年がたつも、当時中学1年の記憶は薄れない。人が生み出す戦争は、いまだに治まらない。願望むなし。ちなみに孫3人は加治木高の後輩である。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(89) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

手紙

2022-09-03 16:21:18 | はがき随筆
 夜寝付けずにラジオを聞いていたら由紀さおりの「手紙」が流れてきた。聴くうちに亡き友のさつきさんを想いだした。
 カラオケに行ったとき、この曲を歌った姿が浮かぶ。高音できれいな歌声でうっとりしたものだ。それから、よくこの曲をリクエストしていた。♪死んでもあなたと~お別れの手紙♪と聴き入るうちにジーンとなり涙が流れ落ちた。生前一緒に過ごした日々の思い出が次々とよみがえる。
 7月末で3年忌を迎えた。月日の経つのは早いね。もう一度「手紙」をあなたの歌声で聴きたい。
 宮崎県串間市 林和江(66) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

空も風も

2022-09-03 16:14:27 | はがき随筆
 日曜日の6時半。いつもは数珠つなぎになった車の横、30㌢の横ぶれも許されない狭い道路で歩行器を進めなくてはいけないのに、今朝は「あれ」と思うほど車の数もまばらで、風景までも違って見える。
 深く澄んだ空と吹き渡る風はすっかり秋の色に変わっている。ご近所の庭の花々も露をふくんでいきいきと輝いている。
 老いの活力となっている「はがき随筆」を託すポストさんとはすっかり仲良くなった。早朝から仕事に出る人たちで活気のあるコンビニの横にひっそりとたたずむポストさん、今日もよろしくね。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載


夢はめぐる

2022-09-03 15:29:00 | はがき随筆
 小学6年生の頃、どういうわけか、傾いた家に住んでいた。2階が私の部屋だった。家賃が安かったのか、玉を転がすとコロコロ転がる。家の前に料理屋があった。夕方になると、鰻の蒲焼の匂いがしていた。家の裏には川が流れ、向こう岸に料理屋の屋形船がつないであった。川の水は水前寺公園から江津湖に流れる冷たい水だった。よくホタルがとんでいた。屋形船に腰掛け足を水につけ、友達のバタバタやる。おしゃべりも続く。日が暮れて屋形船に赤い提灯がついて、お客を乗せ江津湖にこぎ出す。本当に絵のようだった。昨日のように思い出す。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

暗に乗じて

2022-09-03 15:21:52 | はがき随筆
 手の届くほどの軒下に蜂が巣作りを始めた。小型スズメバチだ。女王バチは一匹でせっせと巣材を運び少しずつ大きくなってきた。ひと月ほどでとっくりを逆さにした形となった。にぎりこぶし大になると4.5匹の蜂が飛び始めた。門番らしき蜂もいる……と観察はここまでにして処理することにする。夜中2時、近づいてライトをつけるや否や一気に巣をたたき落としライトを消して即避難する。
 翌朝、蜂のいないのを確認して巣を回収、幼虫を油炒めとする。蜂が低い所に巣作りすると台風が多い……という話を気にしながら……。
 宮崎県延岡市 太田充(68) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

奇跡の1000円札

2022-09-03 15:15:03 | はがき随筆
 近くのスーパーマーケットから「きょう、お金を落とされましたね。預かっています」と留守電があった。
 心当たりはないが、カメラに落ちる瞬間が写っていたとのこと。ポイントカードから割り出された私の名前なのか。最初の電話で私の姓が違っていたりして、いたずら電話かもと半信半疑だった。「次のお客さんが落ちているお札に気づかれたおかげかも」と善意の1000円札を2日後におしいただいた。
 お店のスタッフの対応にも感謝である。記名のない物が返ってきたことが奇跡としか思えない。ラッキーだった。
 鹿児島県霧島市 口町円子(82) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載


ガーベラの花

2022-09-03 15:08:55 | はがき随筆
 亡くなった母は花が好きで、いろいろな花を庭に咲かせていた。年老いてからは手入れができず、ほとんど枯らしてしまった。その中に花は咲かなくなったが枯れてはいないガーベラがあった。家に持ち帰り、妻と相談して大きな植木鉢に替え、新しい土と肥料を追加した。しばらくすると、増えてきた葉の間に下を向いた小さなかわいい蕾が見えた。
 それからはこれまで咲かなかった分も咲くかのようにたくさんの花が咲いてくれた。花にあまり興味がなかった私でも感動してしまうほどの光景だった。
 お母さん、咲きましたよ。
 熊本市中央区 北村孝博(71) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載