はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

残されたもの

2011-11-28 21:36:15 | はがき随筆
 「左右の足音が違うからすぐ父ちゃんだとわかる」と母ちゃんは言っていたなあ。既に二人ともこの世にはいない。
 父ちゃんは南の島の戦場で負傷。銃弾は右大腿部を貫通し野戦病院に収容された。その間に父ちゃんの部隊は全滅した。
 父ちゃんは送還され復職した。そして私が生まれた。が、家は空襲で全焼した。「考えるとどうかなりそうだ」。美術教師だった父ちゃんは若い日の作品のすべてを失ったのだ。
 先日、長野市の無言館へ行った。戦死した画学生たちの作品があった。作品を前に複雑な思いにかられ、私は沈黙した。
  出水市 中島征士 2011/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

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