はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

おじゃったもんせ

2011-09-24 20:31:56 | 女の気持ち/男の気持ち
 鹿児島の人とご縁があって一緒になった。
 先日、その夫の姉の葬儀があった。新幹線で鹿児島中央駅に着くと、広々と明るい構内に「おじゃったもんせ」と朱書きで大きく書かれた横断幕がかかっていた。その上に墨字で「いらっしゃいませ」と添えられている。
 ああ、この言葉、何度聞いたことだろう。帰省のたびに出迎えてくれる姉妹たちの口から発せられるその優しい響き。「これを聞くと、ああふるさとに帰ってきたんだなあとほっとする」と言っていた夫ももういない。
 中央駅から日豊本線に乗り継ぎ東洋のナポリとも言われた桜島と錦江湾を右に見ながら、今日は一人の帰省旅である。
 帖佐駅には甥が迎えに来てくれていて、姉の葬儀へ。「この姉には独身時代ことのほか世話になり、面倒を見てもらった。病気で心配もかけた」と夫が言っていたので、私が元気なうちに姉を見送る務めを果たすことができて、ほっとしている。
 歳月は流れ、甥たち姪たちもおじさんおばさんになっているが、その優しいこと。私が高齢だから気遣ってくれているのかもしれないが、鹿児島の人たちはみんな優しい。姉も90までいきたのだから心残りはないだろう。
 中央駅の「おじゃったもんせ」は、旅人を優しく迎える最高のもてなしだと思う。
 ありがとうございました。
  熊本市 酒匂禮子 2011/9/20 毎日新聞の気持ち欄掲載

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