はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「ごめんなさい」

2016-01-06 12:59:37 | 女の気持ち/男の気持ち
 事実は小説より奇なりと言うが、我が家にも込み入った物語がある。
 昭和7年12月25日、私の姉は東京で生まれた。両親はまだ学生で結婚もしておらず、周囲の勧めもあって養女に出された。宮城に移り住んだ姉は高校時代に養父から事実を知らされたという。早くに養母が亡くなり、義母に男の子が生まれたこともあって、高校卒業後に実母の両親を頼って東京に出たらしい。
 私たちの両親は戦後に父の故郷鹿児島に戻り、私が生まれる昭和27年に婚姻届を出した。私が真相を知ったのは31歳。父が亡くなった時だった。遅すぎると母を責めた。
 その翌年、姉が結婚して暮らしていた仙台でようやく母子の3人が顔を合わせ、おいやめいにも初めて会った。その後数回行き来したが、7年ほど前に私の手紙が誤解を招き、めいにも訪問を断られ、仙台まで行ったが会えずに戻ったこともある。震災前に老人ホームに入居したと東京在住のおいから知らされたが、没交渉のままだった。
 和解をと願っていたが、希望は断たれた。おいから先日、亡くなったことを知らせる喪中はがきが届いたのだ。父の暴力にも耐えて離婚しなかったのは、万が一の時に姉が頼れる場所を残しておきたかったからだと母は言っていた。その思いを伝えることももうできない。 
 面と向かって「お姉さん」と詠んだことがない姉を思い、声に出して言ってみた。
 「暁美ちゃん、もう一度会いたかったよ。ごめんなさい」
  鹿児島市 本山るみ子 2015/12/29 毎日新聞女の気持ち欄掲載

最新の画像もっと見る

コメントを投稿