大粒でパァーンと張った皮を、前歯でかじるとじゅわーっと甘みが広がった。後は一気に口に入れる。これはうまい。幼い頃、金柑は酸っぱくて、えぐみが舌に触り苦手だった。
実家には数本の金柑の木があり、小粒な実がたわわに付いていた。寒風が吹き荒れても、黄色の実は落ちずに生命力にあふれていた。母が甘露煮にして食卓に出すようになり、いつしか母の味になった。季節ごと果物を実らせる木が多くあった広い庭は、手入れが難しくてコンクリートに変わり、現代風になる。それから私は、生れて初めて店頭で高価な金柑を買った。
宮崎市 津曲久美 2018/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載
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