父が戦死したとき、わたしは1歳半、妹は母の胎内にいた。
母、祖父母、まわりの者の愛に包まれて父のいない寂しさの入り込むスキはなかった。生身の父に触れ得ぬもどかしさを感じてはいても、それがかなしみだとは気づかなかった。
父が恋しくて身をよじり、泣きたい日は訪れる。けれど泣けない。そんな自分に腹を立てる。八つ当たりして母を責める。「なぜ父さんを戦争に行かせたの」。母は絶句した。かなしみが意識の表に浮上したとき子供時代は終わった。父には夢があった。父の夢を奪った戦争について考えはじめていた。
鹿屋市 伊地知咲子 2018/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載
母、祖父母、まわりの者の愛に包まれて父のいない寂しさの入り込むスキはなかった。生身の父に触れ得ぬもどかしさを感じてはいても、それがかなしみだとは気づかなかった。
父が恋しくて身をよじり、泣きたい日は訪れる。けれど泣けない。そんな自分に腹を立てる。八つ当たりして母を責める。「なぜ父さんを戦争に行かせたの」。母は絶句した。かなしみが意識の表に浮上したとき子供時代は終わった。父には夢があった。父の夢を奪った戦争について考えはじめていた。
鹿屋市 伊地知咲子 2018/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載
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